後日談2 あまのじゃくな彼女達のガールズトーク
どうもお久しぶりです。
今日はお休みということで、わたしは
そんなこんなで何とか無事に服選びは終わり、どこかでお茶したいなと話し合っていたら丁度砂城さんとばったり出くわして、せっかくだからと彼女も誘って砂城さん行きつけの喫茶店に入ることにした私達。
過去に友人関係で色々とあって、こうしてみんなでお茶――みたいな女子っぽいこととは疎遠だったわたしにとっては新鮮な光景で、それだけでもうワクワクしてたまらない。
と、席に案内されて座るまでのわたしはそう胸をときめかせていたんだけど――
「ふーん
「ええ、そうよ。ちなみに
「ん、アタシ? アタシはねー、愛斗のお母さんと一緒にショッピングしたりカラオケ行ったりしてたんだ。愛斗のお母さんってば、娘が出来たらこうやって二人で街をブラブラするのが夢だったんだってー」
「へ、へぇ……そうだったの。楽しそうで何よりだわ。うふふふ」
「楽しかったよ。愛斗のお母さんに『本当に娘になる日を楽しみにしてる』なんて言われちゃって。いやーなんか運命感じちゃったし、わりとあっても的な」
「うふふふ。それはきっと社交辞令みたいなものだから、真に受けない方がいいと思うよ」
「あっはははは。いやーどうだろうなー。何とも思ってない人に、『今度息子の大好物のとんかつの作り方教えてあげるから、家に来て一緒に作ろう』なんて言わないと思うけど」
「そ、そう。……それもきっとリップサービスよ。ええ、絶対にそうだから。う、うふふ」
「へーそうなんだー。あっはははは」
席に座った途端、いきなり修羅場が始まって困ってます。誰か助けて下さい。
対面する砂城さんがどこか含みのある勝ち誇った笑みを浮かべる。一方でわたしの隣に座っていた氷室さんは、平然と流そうとしつつもどこかぎこちのない笑みを浮かべていた。こりゃ第一ラウンドは砂城さんの勝ちっぽいね。
まぁ同じ男性を好きになった者同士だし(一応わたしも含めて)、集まったらこうなるのは仕方ないことなのかなぁ。
ただ、ずっとこんな調子じゃ、正直に言ってわたしの胃が持たない。さっき注文していた飲み物を運んできた店員の心中お察ししますみたいな同情の顔と言ったらもう、肩身が狭かった。
よし、頑張って話題を切り替えよう。わたしは自分が注文したミルクティーを一口飲んでそう決意すると、机を挟んで剣呑な空気を放つ二人の間に突入した。
「ねぇねぇ二人とも。そんないがみ合ってばかりいないでさ。せっかく女子三人で集まったんだから、なんかもっと面白い話しようよ。――あ、そうだ。心理テストとかどうかな? 今わたしのクラスでちょっと流行ってて、
うんうん、こういうのっていかにも女子高生らしい話題だもんね。
「へぇ。私のクラスで心理テストなんて流行っていたのね。全然知らなかったわ」
「あーなんかアキがこの前それっぽいこと話してたっけ。確か、自分の恋愛観とか恋愛に対する適性力がわかる的な」
氷室さんと砂城さんが表情を和らげて興味を示す。ふー、とりあえずテーブルの空気が穏やかになってほっとしたよ。
胸中で安堵しつつ、わたしはスマホを取りだすと、佐伯さんから貰ったサイトを表示させて読み上げた。
「えっと、『新生活が始まり、あなたは見知らぬ土地にひとりで生活することになりました。最初にメールを送る相手は次のうち誰でしょう?』だって。ちなみに選択肢は――
①:父親 ②:母親 ③:恋人 ④:友達 だよ」
「へーその選択肢なら一択じゃん」
「そうね、悩む必要が見当たらないわね」
二人共特に考える素振りもなく、得意げに口角を吊り上げる。
「愛斗君ね」「愛斗以外ありえないっしょ」
「あのぉ、心理テストなんだから個人名じゃなくちゃんと選択肢で答えて欲しいんだけど」
「それなら③ね」
「じゃあ③」
「……ちょっと待ってちょうだい。私が③を選ぶのは当然として、砂城さんまで③を選ぶのはおかしいわよね。よくて④でしょう。カレシ持ちの私は③を選べるとして」
絶対に今、二回も言う必要なかったよね。
「は、あるし。だってこの問題、新生活が始まる――ってことは、つまり高校卒業後の話でしょ。そん頃にはアタシ、愛斗と付き合ってる可能性だって大分あるわけじゃん」
「いえ、露ほどもないので、そんなもしもはふまえなくて結構よ。というかそんなこと言い始めるなら、そもそも大前提として愛斗君と離れて一人で生活すること自体ありえないでしょう。私、遠距離恋愛なんて絶対にお断りだもの。ちゃんとそうならないような進路選びをするわ」
「た、確かに。アタシだって離ればなれになるのはゴメンだし」
視線を通わせた二人が、何かに同調するようにこくりと頷く。
「「そもそも恋人と離れて新生活を始めるなんて状況は起こらないから、このシチュエーションを考える必要がない(わ)」」
「もう、こんな時だけ結束しないでよっ! というか選択内で答えてって言ったよね!」
誇らしげに言い放った二人を前に、思わず大声でつっこむ。
ちなみに、この心理テストは愛され願望度がわかるらしく、上から③②①④の順に甘えん坊または甘え下手かがチェックできるらしいです。
わたしは一度深いため息を吐くと、気を取り直して次の問題を読み上げた。
「『気になる人にちょっとしたプレゼントを送ることにしたあなた。 選んだプレゼントは次のうちどれですか?』 ①:ハンカチ ②:アクセサリー ③:キーケース ④お菓子やおつまみ」
「③のアクセサリーかしら」
「アタシもアクセサリーかな」
「だって常に身につけられる物の方が、離れていても繋がっている感じがして嬉しいじゃない」
「わかるー。アタシも同じ感じだわー。欲を言うと、ふとそれを見てアタシのことを思い出してくれたり、連絡をくれたりすると万々歳かな」
「そうね。後は自分でも同じ物を身につけてお揃いにしたいところよね」
「それはするっしょ。それとアタシなら、プレゼントするアクセサリーはハートとか、あえて男子があんま選ばなさそうなデザインをチョイスすることで、カノジョがいるのを匂わせ、変な虫が寄りつかないようにするかなー」
「それ、とっても素晴らしい作戦だわ。砂城さんあなた天才よ」
「でしょでしょ」
うーん何か乙女っぽい顔で共感してきゃっきゃっと盛り上がってるけど、言ってることに若干の恐怖を覚えるのはわたしだけなのかなぁ。
「……この心理テストではあなたのやきもち度がわかるらしいです。③のアクセサリーを選んだあなたはやきもち度が一番高く、90%らしいよ」
すごい。何故アクセサリーが一番やきもち度が高いかの理由を話す前に、二人の会話で殆ど正解を喋っちゃってる。というかカノジョ匂わせのくだりとか、このサイトの説明以上にもっと深い理由が込められてる分、90%で済まされないような気が……。
「次いくよ。『大好きな彼が仕事で昇進することになりました。お祝いしたいプレゼントは?』 ①:食事を奢る ②:ハンカチなどの小物 ③:時計 ④:名刺入れ ⑤:カバン ⑥:靴 おー今回は6択だねっ」
「そうね。③の時計がいいわね。理由はさっきのアクセサリーとだいたい同じよ」
「んーアタシは⑥の靴かな」
お、やっと意見が割れた。
「えーこの心理テストではあなたの好きな人に対する依存度をがわかります。③の時計を選んだ氷室さんは90%で、⑥の靴を選んだ砂城さんは――へ、120%!?」
驚きの結果に思わず声が裏返る。補足分によると、「靴は人生や将来を象徴するもの。あなたは彼に絶対ついて行くぞと意気込みたっぷり!」らしいけど――あーなるほどって感じがするなぁ……。うん、これは言わない方がよさそうだよね。
「うぉっしゃ勝ったぁああ!」
拳をぐっと握った砂城さんが高らかに叫んだ。え、これって勝ちなの?
「く。90と120なんて誤差の範囲だわ。次よ、次」
悔しそうに歯がみする氷室さん。100で収まる範囲と100で収まらない範囲では全然レベルが違ってくる気がするけど――これも言わない方がいいよね。
そうしてわたしは、次々と心理テストを続けていったんだけど――まぁ薄々察していた通り、氷室さんと砂城さんの回答や見解は毎回ほぼ一緒だった。
「ふと思ったんだけどこれってさー、普通に選んでればどうしても似たような意見になっちゃうよねー。やきもち度とか依存度とかさ、逆に少なかったらそれはそれで好きでも何でもないって言ってるようなもんだと思うし」
「ええ、それに関しては同意よ。正直、複数選択肢を用意する必要がないと思うわね」
度重なる解釈の一致からすっかり意気投合し、和気藹々とした空気になった氷室さんと砂城さん。なんだろう、このひしひしと感じる疎外感は。
「あ、あはは……そうかなー」
「あら、相沢さんは私達の意見がよく重なることに驚いていたみたいだけど、貴女も答える側だったらきっと同じだったと思うわ」
いや、わたしはたぶんそこまで重ならないと思うよ。
にしてもこの二人、性格やライフスタイル自体はまるで違うけど、こと恋愛観に関してはほぼ一致してて似た者同士というか――ぶっちゃけ、お、重い。
こうなってくると、どこまで重症なのか気がかりだ。というか、逆にこの二人にとってどのレベルなら異常と感じるのだろう?
……ちょっと心理テストを装って探ってみようっと。お節介かもだけど、少しは自分達が普通じゃないかもと振り返るきっかけになってくれると嬉しいかな。
「次の問題いくねー。『あなたは今、気になる人の家に来ています。家にいるのはあなた一人で、さっき彼から連絡があって、到着までまだしばらくかかるそうです。待っている間、あなたは何をして過ごしますか?』 ①:脱ぎっぱなしのままだった彼の服を着る ②:彼の歯ブラシで歯磨きする ③:彼の布団で寝る ④:お風呂に入って彼のシャンプーで頭を洗う さ、どれにする?」
「「…………」」
と、わたしが愛想笑いを浮かべてそう告げると、氷室さんと砂城さんはすぐに答えていた今までとは一変して顔を俯かせ、考えるように黙りこくった。
「……砂城さん、その、これはねぇ……」
「うん、たぶんアタシも氷室さんと同じこと考えてると思う。相沢、あのさぁ――」
砂城さんと氷室さんから批判するような厳しい視線がわたしに向く。う、即興だったせいで仕方ない部分はあったと思うけど、流石に不自然すぎたかも。やっぱ「じっと待つ」とか一つくらいちゃんとした選択肢は入れといた方がよかったよね……。それに②の歯磨きのくだりとか、自分で口にしてても「うわぁ……」と感じたし――
「これ、一つしか選べないの?」「一つに絞らなきゃダメ?」
「へ?」
「うーん、これどれも捨てがたいわよ。せめて、愛斗君が到着する正確な時間がわかると助かるのだけれど」
「そう、それ。時間次第じゃ全然二つはいけるじゃん。相沢、どうなの?」
「…………」
うん、この二人、もう手遅れかもしれない。