あまのじゃくな氷室さん 後日談

後日談3 帰ってきたあまのじゃくな氷室さん。

「はぁ、倦怠期が来て困っている、と……」

「ええ、そうなのよナンナ。何かいい解決方法はないものかしら?」

「解決策も何も、涼葉すずはの話を聞く限りだと、ナンナさん的には何ら問題ない気がするんですけどね」

「そんなはずないわよ。だって、だってぇ……」

 呆れた表情のナンナに、私は恨みがましい視線を飛ばす。もう私が真剣に悩みを打ち明けに来たというのに、ナンナってばいつもこんな冷めた態度で対応しているのかしら? それは接客業としてどうかと思うのだけれど。

 春の終わりが近づこうとしていたとある日の昼下がり。私はナンナの館にお客さんとして訪れていた。

 あれから月日が流れ、無事に君島学園を卒業した私達は、この春晴れて大学生へと進学したの。

 めでたく同じ大学に通うことになった私と愛斗あいと君は、大学の近くにアパートを借り、さぁここからいちゃいちゃでキャッキャウフフな二人だけの生活の始まり始まり――だったのに。全てが順調満帆なはずだったのにぃ……。

「今言ったとおり、最近家にいる時の愛斗君は、ゲームばっかりで全然私に構ってくれないのよ。これって、私への興味が薄れてきたということでしょう。ほら、どう見ても倦怠期じゃない。同棲を始めたころは、こんな感じじゃなかったのに」

 そう、同棲を始めた頃はとても楽しかったわ。不慣れな新天地での生活や、不得意な家事に二人で四苦八苦しながら取り組んでいく姿は正に夫婦って感じでもう幸せで幸せで、こんな日がずっと続くのだと信じていた。なのに、気が付くと愛斗君の方は変わってしまっていて――

「ですからそれは愛斗が環境に馴染んだだけで、余力が増えて通常運転に戻っただけじゃないですか。自由に使える時間をゲームに当てるのは愛斗にとっての普通ですよね。寂しいのはお察ししますが、流石に彼氏の趣味にとやかく口を挟むのはどうかと思いますよ」

「うぅ、それくらい私だってわかってるわよ。私もゲームはする方だから、つい没頭しちゃう気持ちは理解できないわけじゃないの。でもでも、やっぱり一緒に住んでいるのだから、極力構って欲しいじゃない。後、ゲームでオンラインのフレンドと会話してる時の方が笑顔が多いというか、心なしか活き活きしてる感じがして……」

「あぁ、それが一番の理由ですか……。ようするに、愛斗がゲームばかりしていることに目くじらを立てているのではなく、涼葉抜きで楽しそうな愛斗の姿にやきもちを感じていると」

「ま、まぁ。そうなるのかしら」

 と、捉えようにようってはね。

「けれどねナンナ。愛斗君が今ハマってるMMOで特に仲良くしているのは、殆ど可愛い女の子キャラなのよ。そんな子と毎晩毎晩楽しそうにお喋りしてたら、心穏やかでいろという方が無理だと思わない?」

「安心してください。そういうのはネカマと言って、大抵いい年したおっさんが中身だと相場が決まっていますから。中身も可愛い女の子でしたってのは、フィクションにしかないお話しです」

 前のめりで訴えた私に、ナンナが心配無用だとニコニコ笑う。あの、存在自体がフィクションみたいな人に言われても正直説得力に欠けるのだけれど。

「ま、どうしても不安で仕方ないというのなら――そうですね。その愛斗が仲良くしているというフレンドがリアルではどんな人なのか、神の力を使ってぱぱーっと確認してあげましょうか」

「……そうね。是非ともお願い出来ないかしら」

「ん? 何ですかその異様な飲み込みの早さ。もっと驚いたりしてくれても――ひょっとして涼葉、最初から私にこうさせるつもりで来ていたりします?」

「あら、だったらどうなるの?」

 きょとんとするナンナの問いに、私は不敵な笑みで返す。そう、今日私がここに来た目的は最初からこれだった。神様であるナンナならきっと、愛斗君にまた変な迷惑をかけることなく私の心のモヤモヤを払拭するすべを持っていると考え、予約してまでナンナの館を訪れたというわけ。

「やれやれ貴女と言う人は、私が忘れかけた頃に急に本来の頭が回る天才設定を持ち出してくるのですからもう……。ま、いいですよ。涼葉は今日、お客さんとして来てくれているのですから。それに、ナンナさんとしても、二人にはずっと円満でいて欲しい気持ちがありますしね」

「ありがとうナンナ」

 仏のような笑みを浮かべるナンナに、私は微笑して頭を下げた。ほんと、最高の神様に出会えたことに、感謝しなければいけないわね。

「それでは早速始めていきましょう。涼葉、ちょいと目を瞑ってその愛斗がネトゲをしている時の光景をイメージしてもらえますか。まずは、涼葉の記憶の光景をこの手もとの水晶に映しだし、それから各対象へとパスを繋げていこうと思いますので。あ、なるべくその可愛い女の子キャラとやらがわかるようにでお願いしますね」

「何だか涼しい顔でもの凄いことを言われている気がするけど……わかったわ、とりあえずやってみるわね」

 私は言われたとおり目を瞑って、昨日のリビングで楽しそうにゲームをしていた愛斗君を思い出す。何だか、頭の中を直に覗かれているのはあまりいい気分とは言えないわね。

「よし、とりあえず涼葉の過去の記憶の投影が完了しました。……なるほど、愛斗が普段一緒に行動してるのは、所属するギルドのメンバーみたいですね。では、順々に調査していきますか。まずは、アバターが可愛くて涼葉が一番やきもちを焼いてるエルフのぴゅありんちゃんから――」

「そ、その情報は絶対に口にする必要なかったと思うのだけれど!」

 目を瞑ったまま、私は批判の声を飛ばした。するとすぐに宥めるような声が返ってくる。

「まーまー。ナンナさんのおかげでその心配が杞憂だったとすぐにわかるわけですから、多少の軽口は大目にみてくださいよ。だいたいぴゅありんなんて名前、いかにもいい年して拗らせたおっさんが好き好んでつけそうな――へ……?」

 が、そんなのほほんとした声が、急にぴたりと止まった。不安に駆られるまま私はナンナに尋ねる。

「ど、どうしたの?」

「……ぴゅありんの中身は女性で、24歳のOLです。ちなみに、わりと近くのアパートに住んでます」

「ふぇ?」

「ま、まーそういうことも希にありますよね。でも安心してください。この人は日頃の仕事でのストレスを、姫プで男から貢がせることで憂さ晴らしてるだけですから」

「あの、今の言葉のどこに安心出来る要素があったのか聞かせて欲しいのだけれど」

「ようするに男なら誰にも似たように好意的に接していて、別に愛斗個人へ特別な感情を持っているわけではないってことですよ。ちなみに愛斗も、ネカマだと思って一線置いてるので安心してください。さ、気を取り直して次に行きましょう。お次は愛斗と一番よくパーティーを組んでる魔女っ子のアイリスですね。……なるほど、お互いのゲームやアニメの趣味が似通っていることから意気投合し、仲良くなったと。これは流石に男性でしょう。愛斗の好きなジャンルは基本ロボットやバトル物ですから――え?」

 またもや、不穏にナンナが息を呑んだ。

「……アイリスの中身は中学三年生の女の子で……その、非常に言いにくいのですが……この子、愛斗に年上の男性に対する憧れみたいなのを感じてます。ちなみに、彼女もわりと近所に住んでいるみたいですね」

「ほらぁ、全然杞憂ではなかったじゃない! 私が感じていた胸騒ぎはいわゆる女の勘的なやつだったのよ。にしても、何でよりによってどっちも直接会いにこれる距離にいるのかしら、もう!」

 これ、あれでしょ。お次は愛斗君が家庭教師のバイトで行った先が、偶然この子家だったパターンが待ってるやつでしょ。この前愛斗君、「そろそろバイト始めるか――」みたいなこと言ってたし、あれがフラグってことよね。させない。そんなの絶対阻止するからぁ。

「落ち着いてください涼葉。まだ、どちらも愛斗に恋愛感情を持っているわけじゃないんですから。ただ姫プゆえの色目使いと、年相応の年上に対する憧れを抱いてるだけで」

「自分のカレシを異性と意識している女の子達と毎日よろしくやってる現状に、このまま黙って指をくわえて見ていられるわけがないでしょう。何とかするわよナンナ!」

「で、ですよね……。あ、こういうのはどうですか。その対象を、愛斗から他の方に移すというのは。ほら、彼女達がそうであるよう、逆に彼女達へそういった感情を向けている男性プレイヤーも必ずいると思うんですよ。その人を見つけて、同じ方向に矢印が向くように応援するんです。そしたらこの問題も解決しますし。涼葉も涼葉で愛斗のゲームを見ていたら気付いたことがある――という体で自然に入って一緒に恋のキューピットとして盛り上がることで、このゲームが共通の話題になって寂しくもなくなると。どうです、一石二鳥じゃありませんか?」

「いいわねナンナ。とっても素晴らしい名案だと思うわ。是非それで行きましょう」

「気に入ってもらえてなによりです。さて、それじゃ手始めにこのギルドのマスターをやっているアレクというガチムチの騎士キャラから――ええっ!?」

「ど、どうしたのナンナ?」

 今日一の狼狽えぶりを見せたナンナに、思わず声が上擦る。

「……こ、この人、涼葉や愛斗と同じ大学に通う同年齢の女子大生でした。この方、愛斗への感情がギルド内で一番強いといいますか……あーぶっちゃけこれはもう完全に恋しちゃってますね。彼女の部屋に見える漫画って、確か一昔前にドラマ化したネトゲで知り合った者同士が同棲するラブコメですし……ワンチャン期待してます。後、言うまでもなく徒歩五分内のアパートに住んでます」

「……もういい。愛斗君に全てを打ち明けてこのゲーム止めさせる」

 私は固く頷いて決意の程を露わにすると、早速行動に移すべく踵を返した。

 が、すぐさま慌てて飛び出してきたナンナに引っ張られて抑止される。

「ま、待って下さい涼葉。今回の件、ゲームを純粋に楽しんでいただけの愛斗には全く非がないのですよ。それなのに彼の趣味を奪うのですか? 同じゲーマー目線で言わせてもらいますが、絶対に悪手です」

「そんなの、わかってるわよ。……でも、だからってスルーするなんて私には出来ないのよぉ」

「安心して下さい涼葉。ナンナさんに一つ、秘策がありますから」

「へ、秘策?」


      ◆


 最近、気になる人がいる。

 その人はMMOの世界で知り合った同じギルドに所属する仲間だ。顔も年齢もまるで知らない人であり、何ならプレイしてるアバターなんて屈強な戦士の男キャラ。けど、気がついたら彼のことを意識していて、自分のカノジョに近しいものを覚えているのも、また確かだった。

 だって――

『あら、またいるのね。貴方、もしかしてニートなの? 大学生の私は午前中で抗議が終わったからログインしたわけなのだけれど、貴方からはおもいきっり無職の香りがするわ。仕方ないわね、相手してあげましょう』

『どうせ貴方にはこの世界以外、活躍出来る場所なんてないんでしょ。だったら有効活用してあげるっていってるんだから、感謝して欲しいわね』

『ほら、ぼさっとしてないで、さっさとクエストを選びに行くわよ。貴方と違って、私には時間が限られているのだから。早くしないと、別の人を誘うけどいいのかしら?』

 この人、昔のあまのじゃくを拗らせていた頃の涼葉にそっくりなんだよなぁ……。

 雨のように流れてくる大量のチャットログに思わず苦い顔になる。なんて、返そうかな。

 一見は俺を見下したような挑発的な言葉。でも、以前ひょんなことから涼葉の心の声が聞こえてきていた俺にとっては、この言葉の裏に宿る「誘いたい」「一緒に遊びたい」というあまのじゃくな本心がひしひしと伝わってくるようだった。

 それは決して、本能の自己防衛的なもので俺が都合のいいように受け取ってるとかそんなんじゃないと思う。

 だって涼葉みたいなタイプは、そもそも本当に嫌悪している相手とは全く口をきかないし、近づこうとすらしない。あの不思議な体験を経て、よくわかったことだ。向こうから頻繁に接触してくる行動自体が、人付き合いが不器用な彼女にとって友好のサインなんだと。

 だから多分、この人も涼葉と同じなのではと俺はそう考えていた。それに最近だと、今みたいに俺がログインしたのを見計らって入って来てる節もあるし……。おまけにこの口調、中身は絶対女性の人っぽいんだよなぁ。

 この涼葉に似た彼女のことが気がかりでしょうがなく、構わずにはいられなかった。大好きな人に似ているからこそ、放ってはおけない。

 ただ、カノジョがいるのに他の女の子に入れ込むのは、あまり喜ばれた行動ではないよな。画面の向こう側の話とはいえ、毎日のように涼葉以外の女の子と長時間遊んでいるのは事実なんだし。それに……もしも、もしもの話だけど、実は彼女が俺にゲーム仲間以上の感情を持ってる可能性だって、俺の人生経験的になきにしもあらずだから……。

 ちらり、俺はすぐ傍のテーブルでスマホをいじっている自分のカノジョを見やる。これが涼葉本人ですってオチならどれだけ嬉しかったことだろうか。カノジョと一緒にMMOで遊ぶなんて、ゲーマーの俺からすれば正に理想のシチュエーションだ。だが、実際問題違うのだから、罪悪感を覚えてならなかった。

 これ、このままズルズル続けるのは絶対によくない、よな……。何より涼葉に申し訳なさすぎる。ただ、ここで彼女をこのゲームの世界に一人にしたら、今後どうなるのか、ちゃんとあまのじゃくな性格への理解者が現れてくれるのか、心配で心配で――

 ……よし、決めた。


      ◆ ◆ ◆


 よしよしよし、今日も楽しく愛斗君とゲームで遊ぶわよ。

 私はスマホを見ながら静かにほくそ笑んだ。

 そう、今私がスマホでプレイしているのは愛斗君が今やっているゲームと同じものだった。

 本来はスマホでプレイすることなんて出来ないのだけど、ナンナの神様的パワーによって、特殊なアプリを創ってもらい、ゲーム本体はナンナの家から起動していて私はそれをこのアプリによって遠隔操作してるってわけ。

 これがあの時荒れていた私にナンナが提案した、とっておきの秘策だった。「なら、涼葉も内緒でそのゲームのプレイヤーになって、愛斗達の輪に入ればいいんです」と。

 そうやって愛斗君にバレないようこの特殊なアプリを通じてプレイを始めた私は、程なくして愛斗君のギルドに入ることが出来、警戒していた例の三人と愛斗君が余り二人きりなる時間を作らないように積極的にパーティを作ることで、何とか順調にやっていた。

 というかもう、今では本来の目的を忘れそうになるくらい私もこのゲームにハマっていて、愛斗君とあれこれ模索しながら強敵に挑む毎日が楽しくて楽しくてたまらない。

『なぁ、ちょっと相談があるんだけど。いいか?』

 愛斗君からのチャットだわ。なにかしら?

『どうしたの?』

『俺、このゲーム引退しようと思うんだ』

「ええっ!?」

 驚きの余り声がつい漏れ出る。私の声でびっくりした愛斗君の心配するような視線に、こほんと咳払いして「ごめんなさい。何も問題ないわ」と告げると、私は努めて冷静にチャットを返した。

『あら、冗談ならちっとも面白くなかったわよ。だいたい、貴方からこのゲームをとったら一体何が残るって言うの? 本当にただのクズニートだけになっちゃうわよ』

 しばしの間、チャット画面に愛斗君が書き込み中のアクションが続く。直ぐそばに送信者がいるせいか、何かそわそわして無性に落ち着かないわね。

『俺、リアルじゃカノジョと同棲しているんだけどさ。最近このゲームに夢中になりすぎてたせいであんま家では構ってやれてなかったから、カレシとしてそれはどうなんだってふと思ったつーか。ってわけでカノジョとの時間を大事にしたいなと……』

『そう……』

 愛斗君しゅきぃいいいいいい♥

 なにこれなにこれ、私との時間を大事にしたいからネットゲームを止めるって。旦那の私への神対応に思わずきゅんときてしまったわ。

 でも……ゲームの私としては引き止めるのが妥当よね。ええ、私は愛斗君の趣味を尊重する理解力のあるカノジョを目指すことにしたのだから。それに、ちゃーんと私は愛斗君との時間を楽しんでるわけだし問題ないもの。

『別に私個人としては特に引き止めたりはしないわよ。貴方の代わりになる人を見つけて、その人とパーティを組めばいい話だもの。けど、このゲームを止めることを貴方は本心から望んでいるのかしら? もしそうじゃないというなら、考え直すべきだと思うわ。貴方のその同棲生活とやらが、貴方の妥協や我慢で成り立っているというなら、それは近い将来きっとどこかで瓦解するんじゃない?』

『……なんか驚いたな。正直言うと、普段の態度からそもそもカノジョと同棲してるって話ても全然信じてもらえないってか、絶対に鼻で笑われると思っていた笑。だからこんなマジレスが返ってくるなんて思ってもみなかったつーか、ありがとう。素直に嬉しいよ』

『あらそう。ま、人間誰しも一つくらいは取り柄があるものよ。それが貴方の場合は、ダメダメなスペックの変わりに手に入れた圧倒的強運ってわけね。その強運で、たまたま美人で聡明な、将来お嫁さんとしても有望株なカノジョを引き寄せていたとしても、私は特に驚かないわ』

『はは、そうかよ。……ちなみにそっちの方は、リアルでいい人いたりしないのかよ?』

『もちろん、いるに決まっているじゃない。とーっても素敵な旦那様が』

 それは――あ、な、た、よ。なーんて、ふふっ。

『…………そっか』


      ◆


 そのたった三文字を打ち込むのに、数十秒の時間がかかった。

 何馬鹿な勘違いしてたんだよ、俺ぇえええええええええ!?

 顔から火が出るほどの羞恥心に苛まれながら、胸中ではのたうち回って悶絶する。

 過去に戻れるのなら、十数分前の「ひょっとして彼女は俺のこと――」とか勝手に妄想し、自意識過剰で思い上がっていた俺のことを思いきりぶん殴りたい。

 ああ、そうだよな。惹かれつつあったのは俺の方だったってことだよな。俺、最低だろ……。

 けど、お陰で決意は固まった。

『俺、やっぱり引退することにするわ。自分の中で今何が一番大事かわかったから』

『……そう。わかったわ』

『といっても、急に消えるのもあれだから、ちゃんと他のギルメンが揃ってる時に顔出して挨拶しようと思っているから、後一回はログインするけどな。今まで、ありがとう』

『…………一応、またねと言っておこうかしら』

 どことなく何か言いたげに見えた彼女の一文に苦笑すると、俺はそのままログアウトした。

 ゲームの電源を切ると、テーブルに座っていた涼葉の下に行って、彼女の前に腰を下ろす。

「あら、どうしたの愛斗君?」

「そっちこそ、どうしたんだ。なんか、嬉しいことでもあったのか?」

 涼葉がとってもご機嫌そうに笑っていたものだから、ついそんなことを尋ねていた。

「ええ、ちょっと。それで、何かしら?」

「いや、そのさ、ちょっと涼葉に謝らなきゃいけないことが出来たつーか……その驚かず、冷静に聞いてくれるとすっげぇ有り難いんだけど……」

「謝らないといけないこと……? あら、何か不穏な感じね。ま、いいわ話してちょうだい。今の私はとーっても機嫌がいいから、並大抵のことでは驚かない自信はあるもの」

「俺……その――浮気していたかもしれない!」

「…………ふぇ?」



 結論から言うと、俺はゲームを続けられるようになった。

 この後、あのゲームのギルド内のメンバーが奇跡的にみんなご近所さんなのが発覚してリアルで会ったり、俺達の部屋にいきなり襲来したりと――まぁ色々濃い話が盛り沢山あるわけだが、それはどこかで機会があれば話そうと思う。

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