第1章 悪徳領主 その7
*
ランドールを前にして、俺は[大通連]を装着した。効果時間は30分!
[長谷川龍一/エルヒン・エイントリアン]
[年齢:25歳]
[武力:58+30(88)]
[知力:??]
[指揮:??]
武力数値が跳ね上がる。58の下級武力が一瞬にしてB級最上位に変わった!
俺はベンテを押し退け、なおも飛んでくる敵の槍に向かって[攻撃]コマンドを実行した。大通連を持つ俺の手がひとりでに動いて敵の槍をことごとく振り払っていく。
カァアアアーン!
指先に感じるわずかな痺れ。むしろそれが快感となって伝わってきた。B級超えの敵の攻撃をこうも簡単に阻止できたのだ。
「なにっ?」
ランドールは信じられないという顔で
「うあああぁぁあ! ばっ、化け物だ。助けてくれー!」
ただ槍を投げつけただけなのに、一部の兵士は逃げているところを串刺しにされ死んでしまった。ついには、恐怖のあまり小便を漏らしながら逃げる兵士まで出てきた。
「領主様! 逃げてください! やつはナルヤの十武将ランドールです! 残忍なやつです、逃げてください!」
その時、罠の向こうからハディン
「十武将だろうが何だろうが、俺が相手する!」
威勢よく叫びながらランドールの元へ馬を走らせた。ランドールの武勇を目の当たりにした全員がそんな俺を無謀だと思っていたその瞬間。俺はついにやつと衝突した。
「
ランドールは俺のことを
大通連を握りしめて[攻撃]コマンドを実行すると、ランドールの凄まじい槍と俺の剣が交錯した。
一撃で殺すといわんばかりの勢いで槍を振り回したランドールは、またもやありえないという表情で続けて攻撃を仕掛けてきた。もちろん、俺は[攻撃]コマンドを利用してその攻撃をすべて受け止めた。
白兵戦では武器が長いほど有利だ。だが、武力数値は俺の方が高い。それに俺の武器は超特級だ。その結果、ランドールは少しずつ俺の攻撃に押され始めた。戸惑った様子がそのまま顔にあらわれたランドールは気合を入れて槍を振り下ろした。
「死ね、死ねっ、死ねーっ! よくも一介の領主などがこの俺を!」
その攻撃もまた[攻撃]コマンドで阻止した。俺が優勢であることは確かだったが、今のところは
ならばスキルだ。今の俺には武器スキルがある。大通連を使う時にだけ使える武器の固有スキル。
[破砕]
[振り回した時に触れたものすべてを切り裂く。]
[自分の武力数値に+5までの敵に限り一撃必殺か気絶を適用できる。]
[30分に1回使用可能]
自分の武力数値に+5までの敵を一発で殺せるスキルだ。さらに、殺すか気絶させるかを選べる機能までついていた。本来、一撃必殺の類のスキルには敵を殺す機能しかなかったが、この機能が備わったのには理由がある。このゲームの目的は戦争と天下統一だ。そのため、気に入った敵を生け捕りにして登用できるよう、つまり人材登用を楽しむためにゲーマーたちが運営に要求した結果、適用されたのがまさにこの[気絶]機能なのである。
その要求はこの現実の世界でも忠実に反映されていた。
そして、この[破砕]が恐ろしいのは、なんと自分より武力数値が+5にもなる敵を一撃で殺せるということだった。
もちろん使用できるのは30分間で1回だけ。だから、強い敵がふたりいれば意味がない。だがこのスキルのおかげで戦場を渡り歩くことができる。まさに大きな命綱だ。
特典があるから戦争を乗り越えられるわけで。そうでなければ、とっくに死んでいただろう。ククッ。
ランドールの登用は頭にないため、俺は一撃必殺を心に決めて[破砕]を使った。
シュッ!
その瞬間、俺の手がランドールに向かって大通連を投げつけた。飛んでいった大通連は白い閃光と共に敵の槍を
「なっ、なんだとー!」
戦場での油断。そして慢心はなおさら禁物だ。大通連は強烈な勢いでそのままランドールの頭を貫通してしまった。
「そ、そんなばかな……!」
そして、
それに、ここはゲームが現実になった世界。そして戦場。戦場で殺人を
ランドールの体はすぐに馬から転げ落ちた。ドスンと音を立てながら体が地面に落ちた瞬間、周囲は静けさに包まれた。敵軍はもちろん我が軍までもが、まさかという顔で口を開けたまま戦いを中断してこっちを眺めていた。ランドールがこんなふうに死ぬとは誰も思っていなかっただろう。
まさに今だ!
敵の気勢をへし折れるのは。
敵の士気が完全に下がった今がチャンスだった。
「何をしている! 指揮官は死んだ! 敵軍を片付けろ!」
呆然と我が軍に向かって腹の底から叫ぶと、
うおおおおおおおおーっ!
我が軍の
[士気が90になりました。]
士気が90に達した我が軍の兵は雄叫びと共に敵兵に向かって突進した。衝撃に包まれた敵軍は指揮官を失って右往左往し、どうしたらいいかわからず退却し始めた。
この退却を待っていた。おとなしく帰らせるつもりはない。
「ベンテ、もう一度狼煙を上げろ。待ち伏せ攻撃、第二弾だ!」
「いよいよですか! クッハハハハハッ!」
ベンテが歓喜の表情で狼煙を上げるために走って行った。間もなく、ベンテの狼煙が空高く上がるのが見えた。ハディンがこの煙を見た瞬間、逃げていた敵軍はさらに混乱に陥るはず。
システムの助けはあったが、現実の戦争で確実に勝機を摑んだ瞬間!
何より最も貴重な戦利品は、今日死ぬはずだった運命を変えて生き残った俺の命。
俺はその事実に興奮し始めた。
ただのグラフィックスからなるゲームとは比べものにもならない緊張感。そして勝った時の興奮。
特典とシステムがあるから天下統一も夢じゃないという、そんな高揚感が俺を満たしていた。