第三話 少し不思議で、少し献身的で、少し投げやりなメイドさん 1
――深夜。王城。ライラック・M・ファンギーニ第一王女私室。
水面に口元まで沈め、バスタブの中で一人、ライラックは思案に耽っていた。
「〈無職〉の剣士、フウタ……ですか」
そっと目を閉じる。
ライラックは、〈職業〉というものについて、以前から一人分析を続けていた。
職業にはそれぞれ強みと発動条件がある。その殆どが、才能の一点特化を助長している。
闘剣士ならば、強いことではなく、勇壮なる戦い。――発動条件は、他者との闘争。
侍従ならば、何者かに対する奉仕の心。――発動条件は、奉仕すべき対象。
経営者ならば、事業に対する広角的理解。――発動条件は、経営すべき事業。
それぞれ、与えられた〈職業〉に就くのが幸福だとされていた。
ライラックはそれが気に入らなかった。
人間は、〈職業〉の奴隷ではない。
職業で得られる才を利用して初めて人間である。だからこそ〈闘剣士〉でないにもかかわらず、あそこまで剣技を練り上げたフウタは好印象だった。
そして、もう一点。
〈無職〉という職業について、ライラックは以前から注目していた。
その名の通り、何の才能もない出涸らしだとされている職業。
本当に、そうだろうか?
職業が無いのではない。わざわざ〈無職〉という職業を与えられたのだ。
ならば必ずそこに、何等かの才能が眠っているはずだ。それがライラックの結論だった。
〈無職〉が活躍した話など殆ど存在しないものだから、参考資料にも手間取っていたが――今、目の前に生きた〈無職〉が居る。
それも、あれだけの技量を持つ剣士と来た。
「……フウタには、言いませんでしたが」
ちゃぷり、とバスタブの湯から両足を出し、ゆっくりと組む。
ライラックにとっての、思考のルーティーン。
「最も運命的だったのは、何も知らぬまま努力を続け、あそこまでの力を手にした貴方と――〈無職〉に可能性を感じていたわたしが出会ったこと」
彼は知らず知らず〈無職〉を利用し、自らの実力を磨き続けてきた。
ならば、自分がその才を見つけ出すことが出来れば。
「わたしが世界を変える一助に、必ずなってくれるはず」
ふふ、と小さく微笑む。
「だから、フウタには申し訳ないのですが」
――逃すわけにはいかない。どんな手を使ってでも。
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