第二章 吸血鬼はネット通販がお好き 12
ステージ上では、
「まさかここでうちの親知ってる人とハチ合わせるなんてなー。あー」
ライブハウスのバーカウンターで、ストローの刺さったコーラのグラスを手に、
「いや、まぁ、こっちもまさかこんなところで
「ねぇ、お互い会わなかったことにしない?
「で、で、デートなんかじゃありません! 仕事です!」
「は? 仕事?」
「いや、まぁ、デートだよ」
「それなら、私はお邪魔だよね。てことで、ここからは無関係でいいよね」
「あーいや、ちょっといいか」
「……何? まさかお説教する気? それともお父さんでも呼ぶの」
「違う違う。そんなことしないって」
単純に高校一年生の
「この店のこと教えてほしいんだよ。俺達、初めて来たんだ」
「……ちょっとユラ?」
「……いいから、黙って聞いておけ」
驚くアイリスを宥めると、
「
「……それを聞いてどうすんの。お父さんに告げ口するわけ」
全く信用されていないようだが、助け船は意外なところから来た。
「今日で三回目くらいだっけ?」
「えっ、ちょっと
カウンターの中から店員の男性が声をかけてきたのだ。
「
「でも……」
「お二人は家族や学校の先生には見えないけど、親戚の夫婦か何か?」
「ふ、ふ、ふ、ふ、ふっ!?」
男性と話せないところに夫婦という単語が飛び出してきて、アイリスは今にも窒息しそうになるくらい真っ赤になっている。
「俺、
「ああそういうこと。そりゃお互い色々間が悪かったね」
店員の
「でもそれならお兄さん達も、ちょっとは歩み寄らないとね。何にも注文せずに事情だけ聞かせろって言っても、子供は信用してくれないよ」
なるほど、確かにそれはそうかもしれない。
「それじゃ、ジントニック二つ……ん?」
「もしかして酒、ダメか?」
「……日本で飲んでいい年齢じゃない」
「あー、ジントニとコーラで」
「はーい。ジンのお好みは?」
「え?」
驚いて顔を上げると、
「ここからここまで、全部ジン」
「そうなのか。ジンの違いなんて分からないけど……ん?」
またアイリスが服を引っ張ってくる。
「……青い瓶」
「青い瓶?」
「ああ、ポンペイ・サファイアね。かしこまりました」
色に反応した
トニックウォーターを注いだサーバーからアイリスのコーラも抽出し、カットレモンを刺してカウンターに並べると、
「はい、それじゃあ乾杯して、外の世界のことは一旦忘れて、仲直りしよう」
「「「……」」」
それぞれに複雑な顔をしながらも、
「ん、へぇ」
深く考えずに一口飲んだジントニックは、
「美味いな」
「彼女さんのチョイスのおかげかな。ポンペイ・サファイア、良いジンだから」
「かっ、かっかかかかか……はふっ」
「へぇ、こんなに変わるものなんですね。ジンを選んだことなんてなかったから」
アイリスが余計なことを口走る前に、
「……
「家じゃ滅多に飲まないよ。こういうときだけ」
「
「……まぁ、飲んだことはあるけどな」
お酒のチョイスに、何となく具体的なモデルがありそうな
「
「ジンってお酒の銘柄だよ。ポンペイ・サファイア。こだわる人の定番になるようなタイプ」
「ジンの本場はイギリスなんだけど、お姉さんもしかしてイギリス人とか?」
「わ、わ、わ、わたっ……」
「ちょっとまだ日本語うまく喋れなくてね。まぁそっちの方の人だよ」
何もかも正直に話すのは得策とは言えない。