1章 なんで、真っ赤なんだ? 6
まさか、それこそ勇治と話題にあげたばかりの、自他ともに認める『人間嫌い』の彼女の方から電話をかけてくるとは。まさかこちらを人間と思っていない説? などとバカなことを一瞬考えながら、通話ボタンをタップ。
「宮代です。久城さん?」
『…………』
「……え、久城さんだよな? あれ、もしかして間違い電話?」
『………………こんばんは』
「お、はい、こんばんは。どうしたの?」
『………………その、いえ』
いや国際通話か。反応のタイムラグに心中でそうツッコむ。
『…………ええと、ゲーム、好き?』
「たしなむ程度には」
『……今は時間がある?』
「取り立ててなにをやっているわけでも」
だんだんタイムラグがなくなってきた。
『そう。じゃあ、わたしにちょっと付き合ってくれたりとかする? そう、モニターをお願いしたいの』
ようやく普段のような調子で話し始めた久城さんに、俺は聞き返す。
「モニター? なにすんの?」
『わたしが開発を手伝ったゲームがつい最近リリースされて、実際の動作を確認したいんだけど、そのゲーム、協力プレイが売りで。だから、誰かいっしょにやってくれる人がほしいの』
「なるほど。え、つか、ゲームの開発を手伝った? すごくね……? プロじゃん」
『言ったでしょ、稼いでいるって』
「かっけえや。でも俺でいいの? あんまゲームうまいわけじゃないし、プログラミング? のこともわかんないけど」
『宮代くんいいかしら宮代くんあのね宮代くんこういうのは一般ユーザーの反応が大切でヘビーなゲーマーとかゲーム会社の人とかそういうのより一般層の反応がほしいのだからあなたを選んだのよ他意は一切ありません、ごアンダスタンください』
すさまじい早口だ。口調がハキハキしているので聞き取りやすいのが幸いだが、ごアンダスタンくださいってなんだ。
「わかったわかったわかった、アンダスタンです」
『宮代くんのほかにこういうことを頼める一般ユーザーっぽい人に心当たりもないのよなぜならわたし友だちがいないからましてや男子高校生なんてターゲットど真ん中の層にあなた以外の心当たりが全然ないの社会性の
「アンダスタンだよアンダスタン、ごめんて。なんかごめん。できる限りで手伝うよ」
『ありがとう。もちろんお金は払うわ、口座を教えて。領収書は切らなくてもだいじょうぶ』
「クラスメイトから口座番号を聞かれることってある? 協力はするし、お金はいらない」
こっちは領収書とレシートの違いもよくわからない高校生だぞ。
ともあれ、久城さんの指示にしたがってモニターの協力をはじめることとなった。
「え、そのタイトルって俺、ついさっきダウンロードしたな」
『へえ、そうなの、……偶然ねすごく偶然』
「起動したけど、とりあえず普通に始めればいい?」
『ええ。ちょっと進んだら協力プレイが解禁されるから』
「ふんふん」
ゲーム画面上、チュートリアルが始まる前に、機体を選ぶよう指示される。
「剣を持った機体に、銃を持った機体、あと羽のついた機体かー。じゃあこれかな」
『へえ、剣の機体にしたのね。操作もいちばん簡単だし、いいと思うわ』
「お、そうなの? よかった」
勇治は上手いものだが、俺はアクションゲームに自信がない。簡単に操作できるキャラを選べたのならラッキーだ。
なんて思って、違和感に気づく。あれ、俺どの機体にしたって言ったっけ?
あ、チュートリアル始まった。
まあいいや、気のせいだろう。そう考え、ゲームに集中する。
無事にチュートリアルが終わり、続いて久城さんと協力プレイを始める。
『宮代くん、今そっちを攻撃している敵、頭が弱点よ。
「お、よし、突撃だ」
『それから、もうゲージが
「ほんとだ、ぶっ
久城さんはさすが開発者というべきか、
おかげでなにをするにもスムーズで、普通にとても楽しく遊んでしまった。気がつけば、結構いい時間だ。
『そろそろ終わりにしましょう。遅い時間になってしまったわね、ごめんなさい。いっしょにプレイできて、いろいろ参考になったわ。初心者の動きがわかって』
「いや、俺も楽しかったから。いいゲームだな~これ。きっと
『ありがとう、それじゃ』
あいかわらずクールで素っ気ない返答を残し、久城さんは通話を切った。いっしょにゲームを楽しみはしたものの、やはりそこは彼女らしい。
これで、学校でももうちょい話すようには……ならないか。
考えて、苦笑する。相手はあの久城さんだ。
次に話すのは十日後で、なにもおかしくはない人なのである。
……って、あ、本当に結構な時間だな。寝よ。
明日は土曜日。学校はないが、代わりに朝から予定がある。寝坊したり体調を崩したりしないように、早めに寝ておきたい。
電気を消し、目を
うん、よし。セットした時間に起きれば間に合うな。迷うような場所でもないし。
安心し、俺は眠りについた。