第一章 カトウ、異世界転移する 2
「異世界すげええええええええええええええ!!!!」
カトウがユミナの家を出ると、そこには幻想的な景色が広がっていた。
まず最初に目に入ってきたのは、崖の上にある西洋の古城。
かなりの年代物なのか、その城は緑に侵食され、今にも崩れそうな危うさがある。
まるで映画のワンシーンに出てきそうな、そんな壮大な景色だ。
正直景色なんて、どれも同じだろうと常日頃思っていたカトウだったのだが、これは考えを改めないといけない。
心が躍るというのだろうか。
本当に素晴らしい景色というものは、視界だけでなく、心をも奪ってしまうのかもしれない。
そんな景色にカトウが圧倒されていると、遅ればせながら、古城の上空に何かが旋回している事に気が付いた。
「ん? 何だあれ」
目を凝らしてよく見てみると、ドラゴン? いや、蝙蝠? 遠目なのではっきりとは分からないが、多分、おそらくそうだ。
黒い身体から、四枚の羽が生えた、超巨大な蝙蝠。
そんな超巨大な蝙蝠が複数の群れをなし、古城の上空を飛び回っていた。
無人の古城かと思って見ていたのだが、もしかしたらあれは、魔王城的な何かなのかもしれない。
これはテンションが上がる。
カトウはすぐさま、あの古城をもっと近くで見ようと走り出した。
舗装のされていない、デコボコとした山道を、手足や服が汚れるのも忘れ、カトウは夢中で進んでいく。
大分進むと、カトウは古びた橋を見つけた。
見ただけで頑丈だと分かる、石で出来た大きな橋だ。
橋の先には、カトウのお目当てである古城がそびえたっている。
カトウは声を出して喜びかけたが、しかし残念な事に、その古城に行く為の橋は、これまた見事に橋桁の根元から崩れていた。
もしかしたら以前、ここで戦いがあったのかもしれない。
その証拠に、焚火の跡や、ロープや折れた矢尻などの残骸が、橋の近くに残されている。
まあ、ユミナが使った物なのかもしれないが、どちらにせよ、あの古城に行く為には、空を飛ぶか、あるいはあの崖を登るしか方法はないようだ。
せっかくここまで来たのだから、攻略は無理だとしても、少しばかり中を探検したかったのだが、残念だ。
「仕方ない。今回は諦めるとするか」
まあそれに、いきなり古城攻略は流石にハードルが高すぎる。
女神から貰ったチートといえば、まだエリクサーだけなのだから、無理は禁物だ。
カトウはそう結論付け、次に女神から貰ったカードを確認した。
それはクレジットカードのような、割としっかりとした作りの一枚のカード。
確か女神は、このカードには異世界の情報と、全ての種族の言語を把握出来る機能が備わっていると言っていた。
かなり古い情報なので、あまり過信はしないようにとも言っていたが、見るに越した事はない。
しかし、どうやって見るのだろう?
カトウは取り敢えず、手当たり次第カードに触れていく。
すると突然、カードの上に映像のようなものが現れた。
ホログラフ――立体映像とでも言うのだろうか?
分かりやすく表現するならば、ゲームにあるような、そんな四角形のウインドウ画面。
カトウは直感で指先を使い、画面に触れていく。
すると画面が移り変わった。
やはり思った通り、画面はカトウの指先に反応するようだ。
カトウは指先で画面を操作し、情報を見ていく。
情報を見ていくにつれて、この世界の事が少し分かってきた。
「――まあつまり、この世界はゲームみたいな世界ってわけか」
レベルやスキル、そういった要素のある世界なのだと、そこには記されている。
スキルには様々なものがあり、普通の一般的なスキルだけでなく、条件を満たす事により習得できるような、そんな強い戦闘系スキルや、珍しい生産系スキルなんかもあるそうだ。
これはテンションが上がる。
しかし。
「うーん。でも、何をしよう」
やりたい事がないのではない。
やりたい事が多すぎるのだ。
やはりここは王道らしく、冒険をしながら、少しずつ強くなっていくのがセオリーだろうか?
強くなれば当然、個人的な頼まれ事や、クランやギルドなんかのクエストでお金は貯まるだろうし、お金が多ければそれだけ選択肢は増える。
あるいはここは、戦闘職ではなく、生産職を極めてみるのもいいかもしれない。
MMOやコンシューマーゲームでは、もっぱら戦闘職だけしかやってこなかったカトウだったが、この機会に、生産職に手を出してみるのもありと言えばありだ。
他にもやりたい事はたくさんある。
例えばゲームなんかでよくある事だが。
『え!? このキャラ仲間に出来ないの!?』
みたいな事がカトウには多々あった。
製作者という絶対的なルールによって、惜しくも死んでしまう主要人物(美少女)。
何をしても攻略する事が出来ない、魅力的な悪役(美少女)。
あるいはルートを用意されていない、メインキャラクターよりも人気のサブキャラクター(美少女)。
だが、ここでは違う。
この世界においてカトウは自由だ。
つまり誰であろうと、彼女たちをハーレムに迎える事が出来るわけだ。
それこそ、魔王なんかもハーレムに迎えられるかもしれない。
なんという祝福。
この世界に呼んでくれたユミナには、感謝してもしきれない。
その事に感動し、涙を流しながら喜んでいたカトウだったのだが、ふとそこで、彼は最後の一文を見つけた。
「邪神の復活を、阻止してくれ……?」
そういえば、この世界に召喚される直前、このカードをくれた張本人である女神が、その事について何か言っていたような気がする。
カトウは必死に思い出そうとするも、なぜか記憶は曖昧で、正確ではないかもしれないが、女神はこの世界の事を、かなり難易度の高い世界と言っていた。
それこそ、神々に匹敵する程の、冥界の王たちが存在する危険な世界であると――
「…………まあ、いっか!」
しかし、今のカトウは物凄く楽観的な思考をしていた。
邪神だかなんだか知らないが、まあ、なんとかなるだろう。
せっかく憧れの異世界に来たのだから、まずはこの世界を存分に楽しむ事が先決だ。
カトウはそう結論付ける。
「よっしゃああああああああああああ! 俺はこの世界を、存分に楽しんでやるぞおおおおおおおおおお!」
カトウは叫びながら、周りの探索を続けたのだった。