第一章 立てる者は骨でも使え その2
「全部で四十二体ですが、使えそうなのは三十体程度でしょうね」
「足りないのなら、兵士や魔物に殺された奴らの死体を回収してきたら?」
「そこまでする必要はないでしょう。子供達が九人ですから、一人あたり三体なら多すぎるくらいで──うん?」
テリオスは後の方から人の気配を感じて振り返る。
見れば村長宅で眠っていた子供達が起き出して、おびただしい腐臭に鼻を
「あの、何をしているんですか?」
皆を代表して問いかけてくるミラに、テリオスは正直に答える。
「遺体を焼くのですよ。そうしないと病気が広まってしまいますので」
動植物からうつされる事はないが、感染した人間の死体からは広がるというのが、緑腐病の
「皆さんに飲ませた
「──っ!?」
またあの苦しみを味わうかもしれないと言われて、子供達は恐怖のあまり
「そんなわけで、遺体を焼かせて頂こうと思ったのですが、信仰上の問題でもありましたでしょうか?」
「信仰上?」
「その様子だとなさそうですね」
首を
「大地神ケレスの信者は、死後は母なる大地に
「そうなんですか」
「はい。なのでケレス信者が重罪を犯すと、生きながら焼かれたうえで、残った骨すら
「生きながら焼かれる……」
想像しただけで恐ろしかったようで、ミラだけでなく他の子供達も顔を青くしてしまう。
そんな子供達を見て、黒猫が意地悪な笑みで口を
「よかったわね、ケレス信者じゃなくて。死体の焼却に反対していたら、あんた達ごと燃やされていたわよ?」
「えっ!?」
子供達から
「安心してください。そんな事は絶対にしませんから」
「本当~?」
ニヤニヤと笑う黒猫を、テリオスは苦虫を
「『
地面が勢い良く隆起して、積み上げた死体の四方を囲む壁となる。
そうして、熱が逃げにくい環境を整えてから、さらなる
「『
土壁の中に
その勢いは
「うわぁ……」
「
「少しやりすぎましたかね」
強大な力に対する
「おじさんは凄い魔術師だったんですね」
「はい、頑張って
テリオスは力こぶも作れないのに、二の腕ならぬ上腕骨を見せて笑う。
すると、ミラは目を輝かせたあとで、急に力なく
「私にもおじさんみたいな……」
「どうしました?」
「いえ、何でもないです」
明らかに何でもあったのだが、テリオスは深く
そして、火が消えるのを待って土壁を崩した。
黒く
「パパ、ママ……」
「カルポ兄ちゃん達なんて、この春に結婚したばかりだったのに……」
八十人ほどの小さな村であるため、全員が顔見知りであり、家族のように協力し合って生きてきたのだろう。
それが緑色のおぞましい死体と化して、今やどれが誰かも分からぬ白い骨となってしまったのだ。
改めて悲しみの涙を流す子供達に、テリオスは優しく語りかける。
「皆さん、ご両親や祖父母を亡くされて、さぞやこれからの生活が不安な事でしょう。ですがご安心ください」
そう前置きしてから、遺骨の山に向かって呪文の詠唱を始めた。
「命を
先程の土壁や火炎柱よりも時間をかけて、指先に魔力を集めていく。
そんな彼の指先を、ミラが
(おや? これはひょっとして……)
思わぬお宝を見つけて気が
「『
指先に集められた
すると、バラバラになっていた無数の骨が、見えない糸で繋がれたように組み上がり、まるで生きているかのように立ち上がってきた。
(二十九体ですか。まぁ十分でしょう)
小さすぎる赤ん坊の骨や、焼却のさいに
それから、明るい声を上げて振り返った。
「皆さん、これが亡くなった人達の代わ──うんっ?」
「ひっ、ひぃぃ……っ!」
一番友好的だったミラさえも、顔を
「あれ?」
「なに不思議そうな顔をしてんのよ。馬鹿じゃないの」
子供達の思わぬ反応に困惑するテリオスを、黒猫が
「二百年も不死者をやっているうちに、生者の感性を忘れたのかしら? 肉親や知人の骨が急に動き出したところを想像してみなさいな」
「う~ん、まずは武器となる鈍器の確保ですかね」
「あんたはそういう奴よね」
だから見ていて楽しいのだ、とでも言いたげに、黒猫は
そのお
「普通の人は恐がりますか。目的の達成ばかりに目がいって、皆さんの心情に気配りが足りませんでしたね」
「それが原因で死んだくせに、あんたも成長しないわね」
「くっ……」
黒猫の
そう歯ぎしりしつつも、テリオスは勝ち目のない
「皆さん、落ち着いて聞いてください。あのボーンゴーレムは皆さんを傷つけたりはしません。むしろ皆さんを争いや
「…………」
子供達は疑いの表情で黙り込む。命を救われた恩はあるが、村人の骨が動き出した光景が衝撃的すぎて、
(この様子では、説明しても聞いて貰えるかどうか……)
そんなテリオスの迷いを感じ取ったのか、ミラが恐る恐る尋ねてきた。
「私達のため、なんですか?」
「はい、その通りです」
少なくとも彼女は話を聞いてくれるようで、テリオスは内心安堵しながら、