エピローグ1 そしてプロローグ2.①
いざ顔を合わせてみると、
顔立ちはハンサムと言っていいと思うが、髪型は無造作で寝癖が残っていたし、顎の縁に沿って無精ヒゲが目立つ。この人が、モデルみたいなルックスをこれ見よがしな
駅で双子と別れてから一夜明けた、昼休み。一年生教室が並ぶ三階からてくてくと階段を降りて二階の二年生教室。
先輩を訪ねた口実は「誰の物だか
糸口先輩の顔を知っていたのは、琴ノ橋さんに彼氏自慢されたことがあるからと説明し──あながちウソじゃない──、見せたハンカチは
なぜお姉さんだと思ったかという点は、先輩がそう呼んでいたのが聞こえた気がするし、そういう雰囲気だったから、と至ってファジーな理由付けをしておいた。ハンカチを拾った日時もあえて明言しなかった。
ボロが出ないよう一から十まであいまいな言い方をしたわけだが、人の良さそうな先輩は疑う様子もなく、
「ああ……じゃあ
わざわざ確かめにきてくれてありがとうな」
「い、いえ」
お礼まで言われてしまった。理由があるとはいえ
それじゃ交番に届けときます、と適当に言って、俺はそそくさと退散……する前に、確認しておいた。お姉さんがいたというだけじゃ、まだ不安が残る。
「ぇっと……お姉さん、遠くの人なんですか?」
「ああ……何年も前に嫁へ行ったんだけど、最近妊娠したのが
なるほど……密会じみたシチュエーションになったのはそのせいか。
「母さんにいろいろアドバイスもらったり、久しぶりに
情緒不安定で、だいぶみっともないことになってたからさ。
なんてこった……傘の
「幸い、鞠ちゃんと姉貴は顔を合わせないですんだし、いやぁ、よかったよホント」
いやいやいやいや……よくない。全っ然、よくないですよ先輩。
そのせいで琴ノ橋さんに追い込みをかけられ、俺がどれだけ心臓に悪い時間を過ごしたと思ってるんだ……とは思ったが、この流れでは言い出せないし、事情を考えれば、糸口先輩がなにかしら悪いことをしたわけでもない。だから、
「ぁ……はい。ホント、よかったです」
俺は引きつった笑顔を返して、階段の方へ歩き出した。
こうとなれば、先輩のお姉さんが元気な赤ちゃんを産んでくれることを祈るだけだ。
そうでもないと、割に合わない。
「お疲れーっ」
「ぅわっ!?」
何事かと見れば、
「どうだった? 先輩、なんだって?」
結果が気になって後を
「なんだか思いのほか
と、これは双子の妹、
実を言えば、さっき
彼女も、昨晩から考えてくれていたらしい。
「話は教室で聞きましょう。ここでうだうだしていたら、昼食の時間がなくなります」
それだから、事務的な口調で言われても面倒見のよさだけを感じ取れた。
向いてないかとも思ったけど、雪音が委員長というのは天職なのかもしれない。
放課後、
が、話を聞くに内に目を丸くして、終わる頃には口を開けっ放しにして放心していた。
「え? マジで? なんか証拠あんの?」
琴ノ橋さんの代わりに
「今なら、お姉さんがいるのか訊けば答えてくれると思うよ、糸口先輩。不安なら妹さんに訊いてみればいい」
話の内容よりむしろ、昨日の朝に囲んだ時にはビビっていた俺が平然と話していることに
よかったじゃん
「ウソ…………き、昨日頼んだばっかりなのに解決しちゃうとかスゴくない? て言うかありがと……あ、ぁっ、お金とか払うのかな? 探偵だし──」
「いや、要らないよそんなの! ほとんど働いてないし!」
俺はあわてて制止した。実際、ほとんどの手柄は
「はぁ…………よかった……ぁ」
しかし
胸に手を当てて
……なにはともあれ、高校入学早々俺を襲った
ピンチを切り抜けられたのは言うまでもなく両隣の双子のお陰で、この恩はいつか返さなければならないだろう。そういう意味で負債は残ったけど……まぁ、そう重いものでもない気がした。
そっくりな