プロローグ.①
ゆっくりと顔を上げたつもりだったが、鏡に映ったのは、不景気な
昼休みも半ばの男子トイレに他の生徒の姿はなくて、だから特大の
そんな
これも、今の心持ちがそう感じさせるのだろうか。
高校生活が始まって十日ほど。そろそろ友人グループが固まり始め、廊下には昼食を終えて楽しげに語らう生徒たちがちらほら見える。
そんな中で、俺だけが落ち込んだ気分でいた。こんなことになってしまった原因は、入学式の日の自己紹介にまでさかのぼる──
「戸村和です。部活とかは、特に考えてなくて……趣味は読書とか動画
家は**駅前で、戸村探偵事務所って……あの、西口の階段のところに看板
──緊張のあまり、余計なことまで口走ってしまった。学校の自己紹介で家の仕事なんて言うことないのに。
他のクラスメートが存外に個性的だったり多弁だったりしたせいで、入りたい部活もこれと言った趣味もない俺は、なにか情報量が不足している気がしたのだろう。足りない部分を、親の珍しい仕事で埋めようとしてしまった。
探偵と言っても、もちろん、ドラマやマンガに出てくるような難事件を解決して回る「名探偵」じゃない。個人や会社を
もう高校生なので、その辺は誤解もされなかった。
小学校の頃は「お父さん、サツジンジケンかいけつしたの?」とか「コ○ンくんいる?」とか
けど、それがいけなかった。
──
今朝、
同じクラスの女子が四人。ぞろりと囲まれ逃げ場もない。そのまま校舎の隅まで連れていかれた。
彼女らは、早くも形成されつつあるクラスの女子グループ、その中心にいる連中だった。リーダーの
「──っていうわけなの。ちょっと調べてみてよ」
ゆるやかにパーマのかかったロングヘアをふわりとかき上げて、琴ノ橋さんは俺への要求を言い終えた。仕草の一つ一つが芝居のように
「いや……なんで俺が?」
根本的なところを聞き返したが、琴ノ橋さんはこともなげに答えてきた。
「だって戸村くんの家、探偵事務所って言ってたじゃない。こういう調べ物の仕方とか、
……確かに、
無理だ。
無理だから、その通りに答えて断ろうとしたのだが、
「えー、無理とかないでしょ」
「鞠がかわいそうじゃん」
「戸村が無理なら、お父さんにでも頼めばいいッしょ」
取り巻きの三人からの援護射撃が無慈悲に突き刺さる。琴ノ橋さんは髪に
ここで無下に断れば、高校生活の出だしから、クラスの女子の大半を敵に回すことになるかもしれない。
それに……ある理由から、俺は若い女性を苦手としている。嫌いなのではない。性根の部分で、なんとなく逆らえないのだ。
彼女らの背は俺より低いが、その声は俺よりずっと高くて。
俺は、まったくもって押さえつけられた。