一章 アプデ緩和と妖精郷再び（３）
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「ふぅ、全ての呪われた場所の汚れを落としてやったぞ！」
優しい木漏れ日が差す大樹、美しい花々を咲かせる森の中の花畑、美しい水草が揺れる透明度の高い池、森の中でただ静かに鎮座する苔生した大岩――そのどれもが黒い物に覆われ、色褪せて見えていたオブジェクトが、浄化によって本来の美しい姿を取り戻す。
そして、心地の良い満足感と共に妖精女王のところに戻れば、出迎えてくれる。
「ありがとうございました。これで魔物の呪いも消えました。こちらは、少ないですが心ばかりのお礼となります」
そう言って、妖精女王は、俺たちにフッと息を吹きかけると、それぞれ手の甲に金色の紋様が輝く。
「うぇっ！？ なんだこれ！」
「ユンさん、模様が浮かんでますよ！」
「カッコイイわね！ なに、これ！」
自分たちの手の甲に浮かび上がった紋様を眺める俺たちを見て妖精女王は、クスクスと上品な笑みを零す。
「えっと……どうなってるんだ？ って、あ！ これアクセサリーか！」
俺は、装備メニューのアクセサリーから妖精女王から授かった紋様を確認して、それを外す。
「ユンさん、これもアクセサリーなんですか？」
「ああ、タトゥーシールっぽいタイプの珍しいやつなんだ」
アルも同じようにそれを外す中、ライナは、ジッと手の甲の紋様を色んな角度で見ている。
妖精の紋様【装飾品】（重量：1）
追加効果：魔法防御上昇（小）、強化環境（森林）
妖精女王が認めた者に授ける証。妖精のいる森林でこの紋様は守護の力を発揮する。
妖精の紋様のフレーバーテキストに書かれている通り、追加効果【強化環境（森林）】には、戦闘するエリアに森林要素が含まれているとステータスが上昇する追加効果であるようだ。
だが、個人的には用途が限定的で使わないかなぁ、と思ってしまう。
「どうしようかなぁ。これしばらく付けておこうかな？」
「ライナは、気に入ったのか？」
俺がそう聞くとライナは、困ったように視線を彷徨わせる。
「あー、まぁ、気に入ったと言うか、しばらくの繋ぎや装備の重量調整的な……」
「僕たちは、武器と防具の一新と強化はできましたけど、アクセサリーの方までは手が回らなくて……」
二人ともOSOをそこそこ長く冒険しているためにお金がないわけじゃない。
だが、自分のプレイスタイルに合わせたアクセサリーに必要な素材などを集めるのに、そこまで手が回っていないようだ。
そんな話をする俺たちに対して妖精女王が話を続けたそうにしているので、とりあえずこの話は一旦辞めることにした。
「呪われた土地が解放されたことで森の外に散っていた妖精たちが更に戻ってきました。あの子たちは、妖精郷にある物をあなたたちにも売ってくれるはずですよ」
「あっ、妖精郷のショップが解禁されるクエストでもあったのか」
妖精女王の話を聞き、俺たちは一度、妖精のお店に立ち寄る。
妖精のお店には、妖精郷関連のアイテムとして【妖精郷の花王蜜】が売っていたり、妖精の羽から零れる【妖精の鱗粉】。またそれを使った【年齢偽証薬】などの変化系のネタポーションなども売っていた。
「ユンさん、どうしました？」
「いや、なんでもない」
プランのせいで【年齢偽証薬】を頭から被り、幼女化した時の事を思い出し、渋い顔になる。
そんな俺の反応にプランが忍び笑いをするので、ジト目を向け、小さく溜息を吐く。
「……はぁ、まぁ【妖精の鱗粉】の入手手段が増えたと思えばいいか」
妖精郷のお店で買うと一つ10万Gと高値であるが、【完全蘇生薬】の作成に使うので、入手手段が増えるのは地味に嬉しくある。
こうして妖精郷でのやることも一通り終わり、その場を後にしようとするが――
「あたい、妖精女王様ともう少し一緒に居たいから、ここで抜けるね！」
急にリゥイの頭の上に乗っていたプランが飛び立ち、そう言ってくる。
「プランはもう少しここに居たいんだな。それなら、他の妖精たちと食べるお菓子を持っていくか？」
「うん、ありがとう！ お土産話、沢山聞かせて上げるね！」
そう言って、俺が差し出したクッキーの入った小さな包みを抱えたプランは、妖精女王の居た広場に戻っていく。
それに合わせて、プランの召喚状態が解除されて、インベントリに召喚石が戻っている。
「ユンさん、よかったの？ 勝手に離れちゃったけど……」
「まぁ、偶にあることだし、召喚石があるから呼べば来るから」
ライナに聞かれた俺は、困ったように笑いながら答える。
前も砂漠エリアに足を踏み入れた時は、暑いと言って勝手に召喚石に戻ったりしていた。
「リゥイとザクロはどうする？ 俺たちに付き合うか？ それともプランと一緒にここで遊ぶか？」
俺がリゥイとザクロにも聞くと、少し迷うような素振りを見せて、プランの後を追うように妖精女王の居る場所に走って行く。
それに合わせてリゥイとザクロも《送還》された状態になる。
俺たちと一緒にダラダラと町中を歩くのが退屈だったのかな、と少し反省しながら妖精郷を後にする。
その後、第一の町に戻ってきた俺たちは、今度はNPCの店舗ではなくプレイヤーたちが開く露店で1周年アプデの変化を探し続ける。
人通りの多い場所は、見慣れたアイテムが多く並び、特に目を惹く物はなかった。
「やっぱり露店には良い物がないわねぇ……そうだ！ 裏路地の方を探しましょう！ きっと掘り出し物があるはずよ！」
「まぁ、あんまり期待はしないけど、そっちも回ってみるか」
ライナの提案で俺たちは、裏路地に入って行く。
そこで、ふと以前リーリーと一緒に露店巡りをした時に出会った闇商人ロールをしていたプレイヤーを思い出す。
自分たちが集めた希少なレアアイテムを裏路地でこっそりと売る闇商人プレイヤーは、怪しい言動ながら、いいアイテムを売っていたことを思い出す。
一応、彼とフレンド登録しており、時折【スターゲート】のエリアのどこかで秘密裏に露店を開催するメッセージがフレンド全員に一斉送信されてくる。
そのために、裏路地には居ないだろうなぁ、と思いながら進んでいくと――居た。
「おっ、久しぶりだねぇ、ユンちゃん。いいブツ揃ってるけど、見ていくかい？」
ニヤッと笑うドレッドヘアーにグラサンをした陽気そうな男性プレイヤーが、片膝を立てて座った体勢で軽く手を上げてくる。
「なんで、またこんなところに居るんだよ……【スターゲート】の方で売ってるんじゃないのか？」
俺も知り合いの闇商人プレイヤーに話し掛けると、初対面のライナとアルが小首を傾げて俺たちを交互に見てくる。
「そっちはそっちで開いているけど、やっぱり新規顧客を掴まないとな。クククッ……だから、ここには組織の横流し品を置いて客を待っているのさ」
陽気に話していたのに途中から怪しい闇商人ロールを始める物だから、驚いたライナが反射的に身構えるが、まぁ納得の理由である。
「ユ、ユンさん！ この人、何なんですか？」
「あー……闇商人ロールのプレイヤーだ。言動とかやり取りに怪しさはあるけど、実に真っ当なプレイヤーだから、安心して買って良いぞ」
「最近は、ここいらも規制が厳しくなって禁制品なんかのやり取りが難しくなってきた。ここに並んでるのは、基本は盗品や盗掘品なんかの余りモノさ。本当にいいブツが欲しい時は、マーケットを紹介してやるよ」
こんな感じで闇商人ロールするのに合わせて、会話するとちょっと楽しいのだ。
そんな闇商人をジト目で見るライナとこういうプレイヤーとも交流もあるのかと尊敬の眼差しを向けてくるアル。
「ついでだし、ここの商品を見せてもらっていいか？ ライナとアルもさっき言ってたアクセサリー作りに欲しい素材とかあるかもしれないぞ」
「買う時はニコニコ現金払い。もしくは相応のブツとの交換でも可能だ」
そうニヤリと笑う闇商人プレイヤーに俺は苦笑いを浮かべながら、並べられた商品を吟味していく。
そして、闇商人の露店に並べられた、とある武器が目に留まる。
鉄のロングソード【武器】
ATK+15、DEF+3 追加効果【限定下級剣技】
「なんだい？ そいつが気になるのか？」
「ん？ ああ、あんまり見ないタイプの追加効果の武器があって」
その武器のステータスを確かめていた俺が、闇商人に尋ねられ、その声に惹かれてライナとアルも覗き込んでくる。
「そいつは、アクティブスキル系の追加効果だな。前までは一部のレア装備にしかなかったけど、1周年のアプデ後……いや、とある遺跡から纏めて盗掘されてこうして裏の人間が扱うようになったのさ」
真面目に説明していたが、途中で闇商人ロールを挟む彼を俺たちは生暖かい目で見る。
「とりあえず、説明してもらえるか？」
