一章 アプデ緩和と妖精郷再び(4)
「アクティブスキル系の追加効果は、対応するセンスのスキルやアーツを発動させることができるんだ。例えば、この【限定下級剣技】だと【剣】系センスの下級アーツが使えるようになる」
アプデ前で有名なアクティブスキル系の追加効果には、【桃藤花の樹の蔦】というアクセサリーがある。
ガルム・ファントム討伐のレイドクエストで入手でき、それには【限定蘇生】と言う追加効果があり、《リミット・リヴァイヴ》と言う蘇生スキルが使えた。
ただ、この手の装備のアクティブスキルは、本来のスキルと比べて威力が0.7倍、消費MPが1.2倍、再使用までの
「一般的な使い方としては、NPCの店で売っている【器用貧乏の腕輪】と組み合わせて、対応センスを擬似的に体験することができる。他には、魔法系の追加効果をアクセサリーに付け替えて、牽制用のサブウェポンみたいな扱われ方があるかな」
「「「へぇ~」」」
「ここにはないけど、強化や防御や回避、回復それと投擲とかのアクティブスキルが使えるタイプの奴は、一番価値が高いな」
【限定】系の追加効果には、行動やステータスに対する補正がなく本来のスキルの劣化版だとしても、戦略の幅が広がるのだ。
「なるほどなぁ……」
この手のアクティブスキル付きの武器は、手に入れた時に試しに使わせることで、新たなセンス取得の切っ掛けとして用意されたのだろう。
また、一部の上位プレイヤーたちは、別の狭い範囲での使い道を見つけ出して活用しているようだ。
「どうだい? これは1本50万Gだけど、別の回避系の装備だと100万G。ここにはないけど、防御系や回復系はマーケットの方に来れば、入荷している可能性があるぜ」
「うーん。どうしようかなぁ……」
話を聞く限り、防御手段の一つとしてはありだと思う。
俺の持つ防御手段の一つである【身代わり宝玉の指輪】は、回数は決まっているが敵の攻撃を防ぐ高い防御性能を持つが、小さなダメージでも反応してしまうのだ。
そうした小さなダメージを回避するために、【限定回避】の追加効果持ちの装備があれば便利かもしれない。
「よし、買おうかな」
「へへっ、いい物を選んだなぁ。そいつは、きっと役に立つぜ」
軽業師のブーツ【装飾品】(重量:3)
SPEED+5 追加効果:限定回避(10/10)
【限定回避】の追加効果を持った装備を身に着ければ、《リミット・ドッジ》という回避スキルを使える。
敵の攻撃を躱しながら移動する回避系スキルであるが、移動距離の縮小化、使用回数の制限などがあり、連続使用は難しい。
だが、俺の持つ【隠密】系センスにある狙いを逸らして回避率を高める《ミスディレクション》や影の中に入り込む《シャドウ・ダイブ》などと組み合わせれば、接近戦でも一瞬で視界から外れて、潜伏からの距離の取り直しが可能になる。
だが、そこでふとあることを思い付く。
「なぁ、さっき物々交換でも良い、って言ってたけど、これと交換なんてどうだ?」
俺は、闇商人プレイヤーに【完全蘇生薬】を見せながら物々交換の相談をする。
「ほぅ、中々に純度の高い上物の薬じゃないか? さぞ、精製には苦労したんだろう」
「だけど、100万Gだと売れないんだよなぁ。ちょうど、【限定回避】のブーツと同じ値段だし、交換にならないか?」
俺が頼み込むが、闇商人は困ったような口ぶりだが口角が僅かに上がっている。
「こっちだって危ない橋渡ってるんだ。いくら上物の薬とは言っても、売値そのままで買い取るのは難しい。それに、こっちだって商売だからな」
「それじゃあ、20本くらい纏めて付けるから代わりに別の商品……じゃなくて何か面白い情報をくれないか?」
俺が交渉で【完全蘇生薬】を纏めて一気に放出すると、闇商人プレイヤーは愉快そうに笑う。
「ほほぅ、そう言いつつも顧客に薬の良さを知ってもらうために最初は安く売って、後々徐々に値上げするつもりだなぁ。いいぞ、その提案乗った!」
「なんの会話しているのよ」
「ライちゃん。まぁ、ロールプレイだから」
俺と闇商人の怪しげだけど健全なやり取りに、ライナがジト目を向けながらツッコミを入れており、アルも苦笑いを浮かべて見守っている。
そして、【完全蘇生薬】20本と【限定回避】のブーツの交換が成立するのを見ている二人に、闇商人プレイヤーも話を振る。
「どうだい? 二人も欲しい装備があれば売るぞ」
そう言って、二人に勧めるが、二人とも困ったように視線を彷徨わせる。
「うーん。実は、欲しい追加効果があるんだけど、ここにはないっぽいわね」
「ライちゃんは、【知力を防御に】が、僕は【力を知力に】が欲しいんです」
「なるほど、コンバート系かぁ……」
闇商人プレイヤーは、二人の話を聞いて顎を撫でながらそう呟く。
コンバート系とは、1周年アプデで新たに追加された追加効果で、特定のステータスを低下させる代わりに別のステータスを上昇させる効果を持つ。
前衛壁役のライナの場合は、INTのステータスを減らして、DEFのステータスを底上げしたい。
後衛魔法使いのアルの場合は、ATKのステータスを減らして、INTのステータスを底上げしたいらしい。
一応、俺の【付加】センスの《
「コンバート系は、人気が高いからマーケットの方にあるし、アレは値段が高いからなぁ」
『『そうよね(ですか)……』』
この場にない事に落胆する二人に、闇商人プレイヤーが俺をチラリと見る。
「さて、ユンちゃんから【完全蘇生薬】20本を貰ったけど、価値的にこっちが貰いすぎたからそれに見合う情報を教えるけど、何か聞きたいことはあるかい?」
俺に渡す情報を思案する素振りを見せる闇商人プレイヤーに対して、俺は迷い無く答える。
「じゃあ、コンバート系の追加効果が手に入るエリアやMOBを教えてくれるか?」
「俺らが掴んでいる情報では、あるアイテムを変化させると手に入れることができるんだ」
そういう闇商人プレイヤーは、インベントリから赤黒い粘性のある液体がこびりついて乾いたような盾を取り出す。
「うわっ、なんだこれ?」
生理的な嫌悪感を感じたのか、ライナとアルもその盾を見て眉を顰めるが、それを見た闇商人プレイヤーは、ニヤッと笑う。
「こいつは、とある曰く付きの品だ。コイツを持っていた冒険者たちは、次々に魔物たちに襲われて非業の死を遂げた、って呪われた一品だ。どうだい、興味は湧かねぇか?」
そう言われて俺は、恐る恐る赤黒い盾のステータスを確認する。
血染めの剣【防具】
DEF?10、SPEED?7、LUK?13 追加効果【ヘイト集中】【血染めの装備】
コノ血塗ラレタ武具ハ、数多ノ戦イデ呪ワレ、マタ呪イハ消エルダロウ。
フレーバーテキストがカタカナ交じりで読みづらいが、呪いの武器の一種だと言うことが分かる。
ステータスにはマイナス補正が入り、追加効果の【ヘイト集中】は、この装備を身に着けていると敵MOBから狙われやすくなるそうだ。
そして二つ目の【血染めの装備】の追加効果には、特に何の効果もないらしい。
「とりあえず、これはなんだ? コンバート系じゃないだろ?」
「よく聞いてくれた! これは、『血染め』シリーズって言って呪われた装備なんだ」
闇商人プレイヤーが言うには、この『血染め』シリーズを装備したまま100体の敵MOBを倒すと、呪いが解除されて本来の姿を取り戻すらしい。
また、その本来の姿の中にも一定確率で『墓守』シリーズのユニーク装備が手に入るらしい。
だが、本題はそれではない。
「呪いの解除でユニーク装備以外になった時、コンバート系の追加効果を持ってる時があるんだ」
「ハズレが当たりってまた変だよなぁ。でもこれって、どこで手に入るんだ?」
「1周年のアップデートでテコ入れされた墓場のダンジョンさ。ほら、徘徊MOBだったグリムリーパーが最下層に固定配置されたダンジョン。その中層のレアMOBの血染めグール――通称、赤グールからドロップするんだ」
「うへぇ、あそこかぁ……」
第一の町の南東方向にある墓地エリアであり、そんなところにアイテムが追加されてたのかと辟易とした気持ちになる。
そう説明を受けた俺がライナとアルに目を向けると、二人ともやる気に満ちている。
「コンバート系の追加効果に【墓守】シリーズのユニーク装備ねぇ。多分、使わないけどちょっと欲しいかも」
「コンバート系の追加効果ってかなり高かったけど納得です。レアMOBからドロップさせた後で100体MOBを倒す手間があったんですね。それにそこまでやって確定入手じゃないんですから」
既にライナとアルは、コンバート系の追加効果を手に入れるために、墓地の地下ダンジョンに挑むつもりでいる。
闇商人プレイヤーからコンバート系の追加効果の入手方法を聞いた俺たちは、また後日血染めの装備がドロップするレアMOB狩りの約束して別れた。
ただ、アンデッドやホラーなどが苦手な俺としては、ちょっとだけライナとアルたちに任せても良いんじゃないか、と内心思うのだった。
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試し読みは以上です。
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