第1章 リスタート その1

「行ってきます」

 俺は自宅であるアパートを出て、集合場所である公園へと向かう。

 今日はこま高校の入学式であり、今日から高校生活が始まる。

 中学時は部活に受験勉強にと大変だった思い出しかない。高校では高校生らしく青春をおうする日々を過ごしたいものだ。

 例えばどうだろう……春は花見をするとか、夏は花火をするとか海に行くとか、秋は温泉に行くとか、冬はスノボーをするとか、そういう日々を過ごしていきたい。

 例に挙げたような日々を過ごすには、友達が必要不可欠である。そして、俺には幸いにも既に友達が二人いる。

 同じ中学から高校に進学した友達。一人は同じバスケ部だったひろいつと、もう一人は公園のベンチでスマホをいじりながら待っていたれいだ。

「おはよ~なな

 俺を見つけるとパッと表情を明るくさせた麗奈。

 中三の時に初めて同じクラスになり、受験勉強を一緒に取り組んだことで仲良くなった女の子。

 最初はお互いよそよそしかったが、今では名前で呼び合う仲だ。

 友達以上の存在ではあるが、それは親友という形だ。異性の友達であるために恋人と勘違いされてしまうことも多いが……

「おはよう麗奈」

 明るく長い茶髪。短いスカートに、ボタンを皆より一つ多く開けていて胸元が見える格好。どんな女性か一言で言ってしまえばギャルというくくりだろうか。

 化粧をしていて、地味目な俺と異なり派手さもある。存在感があり目立つタイプだ。

 俺の隣に立って歩き始める麗奈。入学式は緊張するからという理由で一緒に登校しようと提案された。

「同じクラスだといいな」

「うん。てかてか同じクラスじゃなかったらあたし泣くし」

「一学年に八クラスあるって聞いてるから、確率は十二パーセントぐらいだな。けっこう厳しいと思うぞ」

「現実見せつけないでよ~違うクラスになってもあたしの教室に来てね」

「安心していいぞ、違うクラスになっても友達だし放課後は一緒だろ?」

 俺の言葉を聞いた麗奈は脇腹をつんつんとつついてくる。意図はわからないが、うれしそうにしているのは顔を見ればわかる。

「それにしても初日から派手だな。こわい先輩達に目をつけられるかもしれないぞ」

 俺は麗奈のギャルスタイルに物申してみる。可愛かわいいけど派手で目立ってしまいそうだ。麗奈が目立つと隣にいる俺も目立ってしまうからな。

「わかってないね七渡は。女社会は勝負だから、初日から派手にしないと逆にめられるの。中途半端が一番駄目、途中から派手にしても何あいつっていじられる。だから初日から全力で、ありのままのあたしでいるの」

 中学時の麗奈は校則を無視しまくっていたギャルだった。女子からは恐れられていて、男子も近づき難い感じになっていて少し浮いた存在だった。

「派手で目立つってことはわかりやすいアイコンになるってわけ。イケてるグループにも属せるし、周りからも舐められない」

 女性社会は俺にはわからない高度なやり取りが初日から行われるみたいだ。駒馬高校は校則が緩く頭髪検査とかも行われないみたいなので、怒られる心配はなさそうだ。

「あれっ、こっちじゃないの?」

 十字路で俺が麗奈と違う方向に進もうとしたので、呼び止められた。

「こっちの方が近道なんだよ」

「そっか……でも別に遠回りしてもよくない?」

「何で?」

「何でって、その方が七渡と二人で一緒にいられるからじゃん」

「えっ」

「じゃなくて、ちょっとまだ時間が早いからそんな急がなくてもいいじゃん! わざわざ変な道行かないで大通り歩けばいいじゃん!」

 顔を真っ赤にして背中をたたいてくる麗奈。結局、俺達は遠回りして学校へ向かうことになった。


 駒馬高校へ辿たどり着くと、多くの新入生が壁に貼られたクラス表の前で群がっていた。

 中学時とは異なり、知らない人が大半の高校のクラス表。喜んだり悲しんだりしている生徒は少なくて、結果を淡々と受け止めている。

 だが、麗奈は緊張で身震いしている。手を胸の前で合わせていて同じクラスになれることを強く祈っているみたいだ。

「どどど、どうしよう……七渡と別のクラスになっちゃったら超つまんないんだけど。そんなの絶対に嫌、まじで無理」

 青ざめた顔で、あたふたと言葉を発している麗奈。

「麗奈、落ち着いてくれ」

「落ち着きました」

 麗奈の両肩をつかむと、一瞬で硬直した。まるでロボットの電源を引っこ抜いたかのように制止した。

 麗奈は何故か肩を掴んだり身体からだを押さえたりすると、顔を真っ赤にして硬直する。

 その習性を生かして、麗奈が慌てていたり挙動不審になっている時は先ほどのように肩を掴んで落ち着かせてあげている。

「よっす、七渡と地葉。俺達やっぱり」

「うわぁあああ!」

 俺達の元にやってきた中学が一緒の廣瀬一樹だが、クラス割の結果を告げようとしてきたので大声を出してかき消した。

「絶対に結果言うなよ、自分の目で確かめるから。空気読め」

「お、おう……」

 一樹は笑顔だったので、良い報告だったのは間違いない。結果を察してしまったが、自分の目で確かめるまでは何も考えないようにしよう。

 俺と麗奈はクラス表がはっきりと見える位置まで進む。一樹は俺達の後ろに立って口を手で押さえながら待っている。

「七渡ぉ……」

 麗奈は俺を見つめて今にも泣きそうになっている。どうやらいち早く自分達の名前を見つけたようだが、もうちょっと喜びを見せるのは待ってほしい。

「嬉しい……本当に」

「待て、待つんだ! 俺はまだ見つけていない」

「あたし達同じクラスだよ。一年八組」

 結局、自分で見つける前に麗奈が我慢できずに言ってしまった。まぁ同じクラスならこれ以上の喜びはないのだが……

 一年八組のクラス表を見ると、俺と麗奈と一樹の名前が書かれていた。友達の三人が同じクラスという奇跡を目の当たりにして、少し目頭が熱くなった。

「こ、これって運命だよね?」

 麗奈は感極まった表情で俺の背中をポコポコと叩く。俺は奇跡だと感じたが、麗奈は運命だと感じたようだ。

「同じクラスに中学が一緒のあいみやもいるから、どうやら俺達しばさか中は全員一年八組に割り振られたみたいだな。奇跡とか運命でもなく、そういう仕組みなんだろうな」

「うわー廣瀬、そんな冷静な分析ないわ。空気読んでよ、こっちは運命感じてんだから」

 冷静な分析をした一樹に冷めた目を向けている麗奈。どうやらこのクラス割は偶然ではなく必然だったようだ。

「まっ、最高な結果だったのは間違いない。これからもよろしくな二人とも」

「だねだね、七渡」

 新しい高校生活のスタートが友達と一緒なのは心強い。麗奈の震えも収まっている。

「えっ」

 俺はクラス表に書かれていたしろつばさという名前が目に入った。俺のおさなじみと同姓同名とは驚きであり、とんでもない偶然があるものだなと思った。

 まさか本人か……いや、翼は福岡に住んでいるはずなのでその可能性は無いか。

「何しとっとー早く教室向かうけん」

 一樹が不自然なはかべんを話してくる。急な謎の言動に俺は困惑する。

「何で急に博多弁使ってんだよ、あおってんのか?」

「さっきさ、博多弁を話している女の子がいたんだよ。それで、中一の時の七渡を思い出したんだ。あの時は七渡も少し博多弁を話してただろ?」

 俺と一樹がバスケ部で出会ったのは中学一年生の時だ。その時の俺はまだ福岡から引っ越してきて二年だったこともあり、時折方言が出てしまうこともあった。

 今ではすっかり標準語に慣れ、方言は出なくなったな。

 いや、待て博多弁を話す女の子がいたって、それはまさか……

「いつまでもここにいると邪魔になっちゃうよ」

 麗奈に背中を押されたので、クラス表の前から離れて一年八組の教室へ向かうことに。


 階段を登って四階まで進むと、廊下の端に一年八組の教室があった。

 やはり初日ということもあって教室には独特な雰囲気が漂っている。男子も女子もそわそわとしていて、緊張をほぐすためにスマホを弄っている生徒も多数いる。

 イケイケギャルという表現が似合う麗奈は、教室に入るなり注目を浴びていた。駒馬高校は進学校だからか派手な生徒は少なく、ギャルの麗奈は目立っている。

 高身長でイケメンな一樹も注目を浴びている。運動も得意ということで中学の頃から一樹はモテていたのだが、それは高校でも変わることはなさそうだ。

 その二人に挟まれている俺もおまけで注目を浴びている。可愛い麗奈とカッコイイ一樹に挟まれていると、俺もイケメンっぽく見られるのかもしれない。恩恵というやつだな。

 俺は女性に好かれる一番大事な要素である清潔感を意識している。男の容姿は髪の毛以外は手をつけられないので、清潔感を出すことに全力を注いでいる。特に何かしているわけではないが、常に清潔感あるぞっていう顔を見せるようにしている。

「名前の順だから席は離れ離れだね」

 麗奈の言う通り、俺はあまで麗奈は地葉。一樹は廣瀬なので三人の席はそれぞれ離れている。俺は一列目で、麗奈は四列目で一樹は七列目。

 俺はあ行ということもあり、右端の一番前の席である確率が九十五パーセントはあるのだが、幸いにもあかばね君がいたおかげで二番目だった。

 か麗奈は俺の席に座って、周りをにらんでいる。何の主張をしているのかはわからないが、周囲に警告をしているようだ。

「初日から変なことはめてくれよ。周りから危ないやつだと思われて、関わりづらくなっちゃうだろ」

「うるさいうるさい。七渡を変な目で見ないように初日から警告してるの。斜め後ろの女とか、七渡のことずっと見てるし」

 麗奈の言葉を聞いて斜め後ろにいた女子を見ると、幼馴染の翼にそっくりな女の子が座っていた。俺と目が合うと、慌てて顔を下に向けてしまった。

 えっ……まさか、本当に翼がいるのか……席の場所的にも城木翼のさ行のポジションだな。これはヤバい。

 ちょっと待って、そんなことある? 幼馴染が引っ越してきて、同じ高校で同じクラスとかそんなことありますか?

「……翼?」

 俺は思わず翼の名前を呼んでしまった。現実を受け止められない脳と、目の前の現実を受け止めている目が頭の中でぐちゃぐちゃとしている。

「七渡君……」

 俺の問いかけに、恥ずかしそうに返答した女の子。おいおいうそだろ──

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