プロローグ
俺には
隣の家に住んでいた同い年の女の子。
気が弱くて声も小さくて、一人じゃ危なっかしくて放っておけない人だった。
その時は福岡県の山に囲まれていた田舎町に住んでいた頃だったので、隣の家とは家族ぐるみで仲が良かった。
登校する時も、放課後も休日も、隣には常に翼がいた気がする。
一緒にキャッチボールをしたり、家族同士で出かけて海で泳いだりとか、たくさん遊んだはずだ。思い出のアルバムは無くても、その映像を頭に思い浮かべることができる。
気の合う友達として小学四年生までは楽しく遊んでいた。
しかし、互いの父親の言葉で俺と翼の関係性は変わってしまった。
「
酔った勢いで決めた父親達の一言が、俺達の関係性を変えてしまった。
友達が友達ではなくなってしまったのだ。
翼は俺を変に意識し始め、俺と
俺は俺で気恥ずかしさを隠すために翼と遊ばなくなり、話すことも極力避けて距離を取り始めてしまった。
そんな形だけの付き合いが続いた俺達にも別れの時が訪れた。
小学五年生の春、俺の両親が離婚し母親と二人で東京へ引っ越すことになった。
「……ずっと好きやよ」
翼の最後の言葉。
大泣きしながら手を振っていた翼の姿は今でも鮮明に覚えている。
悲しむ翼に何の言葉もかけてあげられなかったことは、今でも後悔している。
俺はあの時、一粒の涙も流さなかった。
ずっととか、永遠とか、一生とか、そんなものは存在しない。
始まりには終わりがある。出会いがあれば別れもある。
翼とはいつか離れ離れになることを子供ながらに覚悟していたのだ。
ただ、別れがあれば再会もあることは、この時の俺はまだ知らなかった──