【全文公開】同棲から始まるオタク彼女の作りかた 1巻

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「……っ!」

『自分と同じオタク』……? この、どう見てもビッチにしか見えない外見のリア充女が、オタク、だと!?

 そんでもって、俺と同じようにオタクの異性との出会いを求めてここに来た、って?

 確かに、一見リア充にしか見えないやつが、意外と深夜アニメを見てたりゲームをしてたりってことはあるが……まさかこんな、学校ではリア充の頂点に君臨してそうな女が、そのたぐいだとは思わなかった。

「ねえ、お願い……! あんたがここにいたことも学校では言わないでおいてあげるから、私がここに来てたことも絶っっっ対だれにも言わないで!?」

 二科はすごいはくで俺の方へせまってきた。

「え? あ……」

 二科のあまりの迫力に、どうようのあまり、うまく返事ができない。

「私、学校では絶対にオタクだってバレたくないの! それに、彼氏探しにぼっちでこんなパーティーに参加したってのも、クラスの子たちにバレたら死ぬほどずかしいし!」

「べ、別にいいけど……学校でオタクだってバレるの、そんなにまずいのか……?」

 思い返してみると、クラスのイマドキっぽい女子たちだって、オタクというレベルでは決してないだろうが、アニメやソシャゲの話くらいはしているのを聞いたことがある。

 それに、二科ほどのリア充ヒエラルキー頂点に君臨している女であれば、オタクであろうがオタクでなかろうが、いまさら周りにバカにされたりすることもないのではないだろうか。

「まずいに決まってんでしょ!?」

「で、でも、クラスの派手な女子たちだってたまにアニメの話とかしてるんじゃ……」

「あれは、全っ然オタクとかじゃないから! ちょっとアニメ見てる子がいるだけ! 同人誌とかコミケとかコスプレとかそういう深いこと全然知らない、ニワカ中のニワカ! そういう子が周りに『うわーほんとこいつってアニオタだよねーうけるー』とか言われてんの! そのレベルだったらちょっといじられる程度で終わるけど、私レベルのガチオタだったらバレたらマジで終わるから! キモがられてどん引きされて絶対ハブられるから!」

 二科はいきぎもせずにすごい気迫で一気にそこまで話した。

 今の話と、この必死な様子を見るに、二科自身はニワカオタなどではなく、本当のガチオタ、ということなのだろうか……?

「わ、わ、分かった……。とりあえず、だまってればいいんだな?」

 その勢いに押されて動揺しつつ、俺は返事をした。

「ほんと? ほんとに黙っててくれんの!?」

 二科はやっと顔を上げたが、とても不安げな表情で俺を見ている。

「あ、ああ」

「! も、もしかして……黙っといてやる代わりに条件がある、とかそういう……?」

「は?」

 二科はなぜか赤くなって、言いにくそうにそんなことを言い出した。

「だ、だから例えば、何でも俺の言うことを聞け、とか、俺の性れいになれ、とか……」

「バッ、何言っ……一体何考えてんだよ!? 変なまんの読み過ぎじゃねえのかっ!?」

 俺は動揺とおどろきのあまり、思わずでかい声を出してしまった。

 それって、完全にエロ漫画やエロ同人でよくある展開じゃねえか!

「と、とにかく! そういう条件とかなしに、に……二科がオタクだってこと、誰にも言うつもりないから!」

 二科は俺の言葉に、少し驚いた様子で俺を見た。

「ほ、ほんとに……?」

「ああ」

 俺は二科の言葉にうなずく。

「そ、そう……助かる」

 二科は不安げな表情で俺を見ていたが、やがて少しほっとした様子でそう言った。

 人の秘密を知ったからといって、それをネタにおどすなんて、きようかつじゃねえか。ラノベの横暴系ヒロインなんかがそういうことをしているが、俺はそんなことをするほどあくしゆではない。

「はー、にしても改めてマジでびびった。まさかこんなところで学校の人に会うなんて……」

 二科はかべによりかかって大きくため息をついた。

 驚いたのは俺だって同じだ。

「でさ、今更だけどあんたって名前なんだっけ?」

「……! い、一ヶ谷景虎」

「へー。全然聞いた覚えなかった」

「悪かったないんキャで!」

「ちょ、そこまで言ってないじゃん」

 二科は俺の言葉に笑いをこらえた表情で返す。

「シャドウタイガー……?」

 それから、俺のむなもとのハンドルネームが書かれた名札を見て、読み上げた。

「ちょっと待って、シャドウタイガーって……景虎だからシャドウタイガーってこと? ちょw あいたたたたw 中二ネームwwww」

「~~っ!? う、うううううるせえな! 覚えやすいだろ!? とつにそれしか思いかばなかったんだよ!」

 二科にばくしようされて、急にもうれつに恥ずかしくなってくる。

 よくゲームやるときに使っている名前なんだが、そんなに笑われるほど中二ネームか、これ? クソッ、改名しねえと……。

「つーか、おまえこそ『トウーハート』って……人の名前を笑えるほどのネーミングセンスじゃねえだろ!」

 二科の胸元の名札を見て、思わず声をあららげた。

「え、なんで! どこが! めっちゃセンスいい名前じゃん!」

 二科心で『トウーハート』って、何のひねりもねえしそのまんますぎじゃねえか。

「で、一ヶ谷は、今んとこどうなの?」

 気を取り直して、という感じで、二科が俺に尋ねた。

「どうって、何が?」

「だから、このパーティー! いい出会いはあったかって聞いてんの」

「いい出会い……」

 そう言われてやっと、今の状況を思い出した。

 二科とそうぐうしたしようげきですっかり今の状況が頭から抜けかけていたが、今俺はこのオタクこいかつパーティーにて、心が折れて帰ろうとしていたところなんだった。

「いや、うーん、まあ……正直みようかな。特別可愛い子とかまだ見てないし」

 正直に、女の子に全く話しかけられないので帰ろうとしていた、ということは言いたくなかった。

「はあ? こんなに女の子いて可愛い子見てないとか、どんだけ上から目線? とりあえず何人かと会話はできたわけ?」

「…………」

 二科の質問に答えたくなくて、俺は二科から目を逸らす。

「は? 何、シカト?」

「いや、その、……、……だ、……」

「声ちっさ! 何? なんて?」

「……その、まだ誰とも……」

「え……!? 誰とも!? 今日誰ともしやべってないの!?」

 俺は二科のセリフに仕方なく頷いた。

「だ、だって仕方ないだろ! 女子は話しかけられるの待てばいいから楽だろうけど、男は自分から話しかけなきゃいけないから大変なんだよ!」

「何で逆ギレ!? ってかそんなこと言うなら、男子こそ自分の好みの女子に話しかけられるんだから、そっちの方が良くない!? 女子は好みの男子探す前に、どうしても話しかけてきた人と話すことになっちゃうから、全然話したい人と話せなくてつらいし……」

「まず話しかけてもらえるだけでありがたいだろ!? みんなが楽しそうに話してる中、自分だけぼっちで誰とも話せないでいる辛さが分かるか!?」

 俺が二科の言葉に腹を立て、言い争いになりかけた、そのとき。

「そろそろしゆうりよう時間となりまーす!」

「「えっ!?」」

 会場の部屋からそんな声が聞こえてきて、俺と二科は同時に驚きの声を上げた。

 終了だと!?

 俺と二科はあわてて会場の部屋にもどる。

 参加者たちはスタッフにゆうどうされてどんどん出口へと向かっていた。

「ご移動にご協力お願いしまーす!」

 ひとみに流されて、俺と二科も会場の外へと出る羽目になった。

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