【全文公開】同棲から始まるオタク彼女の作りかた 1巻
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「ただいまー、…………」
学校から帰宅後、リビングの扉を開け、俺は目の前の光景に思考停止した。
ロングの綺麗な黒髪。白いフリルブラウスに、ハイウェストな膝丈の紺色のスカート、薄手の黒のストッキング。少し前に流行った『童貞を殺す服』を完璧に再現して着こなした清楚な美少女が、その上にフリルエプロンを着けて、キッチンで料理をしている。
「あ、おかえりなさいお兄ちゃん♪ ちょうどご飯できたところだからね?」
「…………」
台詞を聞いて、俺は絶句する。
「あ、それとも、先にお風呂にする? もう沸いてるよ♪」
「いや、えっと、そうじゃなくて……」
「ま、せっかくできたてだし、先にご飯でいいよね♪」
彼女は俺の言葉を無視して、食卓の上に料理を運ぶ。見るからに美味しそうな豚汁にハンバーグ、白いご飯が並び、食欲をかき立てる匂いを漂わせる。
「はい、じゃ、いただきまーす!」
俺たちはソファーに隣同士に腰かけ、手を合わせた。
「ん? 何じろじろ見て……あ、分かった! もしかして、私にご飯食べさせて欲しいのかな!?」
「はぁ!?」
「もう、しょうがないなー、お兄ちゃん。じゃ、ほら、あーん♪」
彼女が俺の口元までハンバーグを運んできて、口に押し付けてくるので、仕方なく口を開いた。
「~~っ!」
ハンバーグは思いの外熱くて、何も言えなくなる。
「どう? 美味しい? お兄ちゃん、今日も一日お疲れ様? 学校疲れたでしょう? 妹に思う存分甘えていいんだからね?」
「……っ!?」
彼女は口の中が熱くて涙目でハフハフしている俺の状態など気にも留めずに、俺の頭を無理矢理撫でてくる。
「よしよし、いーこいーこ?」
「…………」
クソ熱いハンバーグを無理矢理食べさせられたときは死ぬかと思ったが、頭を撫でられているうちになんだか悪い気はしなくなってきた。
色々強引だしわざとらしすぎるけど、悪くはない……かもしれない。
「あ、あとは自分で食べるから大丈夫だ」
再び熱いのを無理矢理食べさせられたら堪ったもんじゃないので、俺はそう言ってから、自分の箸でハンバーグを食べる。
「……ん、うまい……よ」
「……っ! べ、別に、お兄ちゃんのために作ったわけじゃないんだからね!? 自分が食べたくて作っただけなんだから!」
「え……?」
聞かれたから感想を言ったのに、突然彼女の態度が急変して戸惑いを隠しきれない。
「……っていうか、今日連絡もなしに遅かったの、なんで……? せっかく私が料理作りながら待ってたのに……もしかして、他の女? 他の女と遊んでたの……?」
「え……え、え、え?」
今度は急に目に光がなくなって、強い力で俺の腕を?んだ。
「ねえ、スマホ見せてよ。他の女と連絡とってないかチェックするから」
「いや、ちょ……」
「二科お前、色々間違ってっからあぁぁぁぁ!」
声を大にして、盛大に突っ込んだ。
「童貞を殺す服を着て料理作って待ってるまではいいけど……なんで妹設定でバブみ盛り込んで更にツンデレでヤンデレなんだよ!? 情緒不安定すぎだろがぁ!? 属性盛り込みすぎてカオスで意味不明になってんぞぉぉ!?」
「えっ……だって、あんたに勧められたアニメとエロゲとエロ漫画と同人誌ではこうだったじゃん! こういうのがオタク男子に人気なんでしょ!? 全部完璧にやれてるじゃん!」
「二次元の萌えを三次元で完全に再現するとか、ただの頭おかしい奴だからな!? 参考程度、ところどころを不自然じゃない程度に取り入れろって意味で勧めたんだよ!」
「何よそれぇ!? せっかく十回以上読み返してめっちゃ勉強したのに! セリフの練習までしたのに! 黒髪ロングのウィッグとかめっちゃ高かったしウィッグも服もこの時期に超暑かったっていうのにぃぃぃ!」
二科は立ち上がって激怒しながら、怒りにまかせて黒髪のウィッグをその場で勢いよく脱ぎ捨てた。
あーもう、めちゃくちゃだよ……。
「じゃあ、もっとちゃんと教えてよ!? どういう女子が理想なのか!」
「え……」
「あんたが言ったんだからね!? 私を、オタク男子の理想に育ててやる、って……!」
俺一ヶ谷景虎が、同じ学校のオタクでリア充ギャルの二科心と一緒に暮らしてこんなことをしているのには、深いわけがあるのだった──。