第二章 一四歳になった少年 6
第二の試練もこなした僕たち、
彼女に試練の内容を
「あんたたち、私の目の前でチューをしなさい」
「…………」
「…………」
僕とルナマリアは思わず
「……今、チューをしなさい、と聞こえたような気がするけど」
「聞き
「さっきは僕とルナマリアがそういう関係になるのを
「もちろん、今も拒んでいるわよ。あ、そこの
びしっと指を突きつけるミリア。
ルナマリアはなんとも言えない顔をしている。
「まあ、でもふたりが
と言うとミリアは、キスシーンを
なんでもロマンチックな一枚が撮れればふたりの仲を認めてくれるらしいが、当然、僕は
「いくら母さんでもそんなことを試練にする権利はないよ。断固拒否する」
「あら、外の世界に行きたくないの」
「行きたいけど、その試練は駄目」
ルナマリアも厭だよね? と尋ねると、彼女は、「厭ではないかも……それで試練を果たせるならば楽ですし……」と
その姿を見てミリアはニヤニヤとする。いけない。このままだとなし崩し的にキスをさせられる、そう思った僕は逆に提案をする。
「ミリア母さんは僕とルナマリアの
「まあ、
「ならばちゃんとした試練を用意してよ。ふたりが今後、協力していけるか計れるような」
「むう、
さすがのミリアも聞く耳を持ってくれるというか。キスだけで旅立たせるのはどうかと思ったのだろう。てゆうか、僕は確実に反対すると思っていたようだが、ルナマリアが乗り気なのが計算外だったようだ。そうなると
ミリアは
しばらく考え込むと、ミリアは言った。
「分かったわ。じゃあ、ふたりで一緒に薬草を採ってきて」
「薬草?」
「そうなの。実は最近、お
「それならお安い
「そんなことないわよ。ふたりに行ってもらうのは
「竜の穴!」
僕は声を上げるが、その単語でルナマリアも
「竜の穴とは竜が住む穴なのですか?」
「そうだよ。テーブル・マウンテンの北にあるんだけど、危険だから森の動物も近寄らないんだ」
「そんなところにある薬草を採ってくるのですね」
「しかも母さんの美容のためにね」
ため息を漏らすが、断るつもりはない。たしかにあの穴をふたりで
「分かった。今からその薬草を採りに行くけどなにか注意点はある?」
「
「分かった」
「竜の穴は一〇階層まであるけど、花が咲いているのは第三階層と第一〇階層だけよ」
「なるほど、他に注意点は?」
「期限は明日の正午まで」
空を見上げる。もう夕刻だった。
「分かった。じゃあ、今から
とミリアに背を向けるが、ミリアはハンカチを持ったか、忘れ物はないか聞いてくる。まるで子供
かなりの速度で歩く。
あっという間に神々の住まいを出立すると、僕たちは竜の穴に向かった。
ウィルたちがいなくなると、
「ミリアよ、お前、ウィルを旅立たせる気あったのな」
「なにそれ? どういう意味?」
「いや、だってお前の用意した試練は楽勝だっただろう」
「キスはウィルが拒むと思っていたわ。本当はキスを拒んだことを口実に落第にしようとしたのだけどね。あの
「いや、そうじゃなく、竜の穴のほうだ。あれはウィルならば楽勝だろ」
「そうね。ウィルならば簡単に手に入れるはず。安全に、
「なら試練はこなしたも同然じゃないか」
「私の試練は聖蘭草を私のもとへ持ってくることよ」
「手に入れればすぐ帰ってくるだろう」
「そうかしら、うふふ」
ミリアは
この女神は昔から悪巧みが得意であったし、そもそも今回の旅に一番反対なのは彼女なのだ。
ミリアは幼き
女親ゆえに仕方ないところもあるが、ウィルが可愛くて仕方ないようだ。
その点、ローニンとヴァンダルは男の子はいつか旅に出るもの、という共通認識があった。
──あったが、実はローニンはミリアを
男の子はいつか旅立つものだが、ウィルにはまだ早いと思っていたし、その時期は
あと数年は一緒に剣を
それが剣神と
†
強行軍で竜の穴を目指したが、竜の穴が見える手前で火を起こす。
そこでテントを張り、一夜を明かすのだ。
朝になったら竜の穴に飛び込むが、それまでに英気を養う。
「竜は夜行性だからね。今、飛び込めばこちらが不利だ。じっくり
僕はそう言うと
鍋に家から持ってきた野菜を入れる。
それをコトコトと
ルナマリアは、
「ウィル様は料理がお上手ですね」
と
「そうかな」
「お上手ですよ。ベーコンと野菜を切る
「山では当番制で料理をするからね。昔は母さんと父さんが順番に作っていたけど、最近は僕もローテーションの一角なんだ。ミリア母さんよりも
「ミリア女神様ですね。最初、キスをしなさいと言われたときは
「たぶん、母さんの
もしも
桜色に染まった彼女の唇はとても
思わず頰を染めてしまう。彼女に光がないのは幸いだった。僕は素数を数えると努めて冷静になる。
「……そ、そういえばルナマリアは料理はするの?」
「はい。
「包丁で指を切ったりしない?」
「目が見えない分、
「良かった。じゃあ、旅をしていればそのうちルナマリアにも作ってもらえるね」
「お口に合うかは分かりませんが。──ウィル様がさり気なく作ってしまったから忘れていましたが、食事の用意は基本、私がします」
「え? それは悪いよ。当番制にしよう」
「私はウィル様の従者です。身の回りのことをするのがお仕事です。以後、メイドのようにお使いください」
と言うと彼女は木の皿にベーコンと野菜のスープをよそい、それを僕に
僕はスープを受け取ると彼女に
「──君は本当に目が見えないんだよね?」
「はい。幼き頃、地母神に仕えるために、私は光を失いました。目が見えなくなる
「なぜ、そんなことを?」
「地母神に仕えるためです」
「生まれたときから巫女だったの?」
彼女は首を横に振る。
「いえ、私は貧農の生まれです。五人兄弟の
「じゃあ、半分強制じゃないか」
「そんなことはありません。宿命ですね。巫女になる前日、神の声を聞きました」
「神の声?」
「はい。私が巫女になること。そしてその一〇年後、身命を
にこりと微笑むルナマリア。
そう思った僕はそれ以上、なにも言わなかった。
彼女がよそってくれたスープを平らげると、その後、木の歯ブラシで
「神の予言を聞いた瞬間、神の
彼女はそう言うと早々に寝息を立てた。
初めて会った人間の前でも寝られるのは冒険慣れしているためだろうか、それとも──。
一方、僕はというと
僕は眠るためにルナマリアから視線を遠ざけると、
四三
再びルナマリアを意識してしまった僕は、なんとか彼女を振り