第二章 一四歳になった少年 5

 見事、魔術の神ヴァンダルの試練に打ち勝った僕たち。

 ルナマリアとハイタッチをして喜ぶ。

 ルナマリアは僕の機転を最大限に賞賛する。

「まさか、水を氷にして運ぶとは夢にも思っていませんでした。もしかしたらウィル様は智恵の勇者なのかもしれませんね」

「智恵の勇者?」

「はい、勇者にはいくつも種類があって、そのとくちようによって二つ名が付きます。けんが得意ならば剣の勇者、人を守るのが得意ならばたての勇者などです」

「へえ、そうなんだ。でも、何度も言うけど、僕は勇者じゃないよ。勇者の印がないんだ」

 ね、ローニン、と話をると、答えたのはミリアだった。

「たしかにうちのウィルには印がないわ。昔、おたがいに身体からだ中のホクロの数を数えあったけど、せいこんはなかった」

「……いつそんな遊びを」

 ジト目でミリア母さんを見つめると、僕が乳児のときと言う。

「それは数え合いではなく、一方的に数えられただけのような」

「まあ、そうとも言うわね」

 と茶目っ気たっぷりに舌を出すと、ローニンがかいにゆうしてくる。

「たしかにウィルには聖痕はないが、聖痕などなくてもウィルは最強の男だ。勇者など片手でたおせる。それくらい俺がきたえたからな」

 というわけで、とローニンは第二の試練を発表する。

「第二の試練はこの俺、剣神ローニンの試練だ」

 僕とルナマリアはごくりとなまつばを飲む。第一の試練でさえかなりハードだったのだ。体育会系のローニンが提示する試練はヴァンダルよりも数段上だと予想できる。

 かたんで見守る僕たちに、ローニンはおおぎように試練を発表する。

 ローニンが大声で言い放った試練、それはとてもローニンらしい試練だった。

「いいか、お前たちにはこれから剣を使ってものと戦ってもらう」

「剣で魔物と。……シンプルな試練ですね」

「ローニンはまどろっこしいのがきらいなんだ」

「聞こえてるぞ」

 とローニンが言ったのでぐちめると、彼は続ける。

「これからヴァンダルに作ってもらった訓練用ゴーレムと戦ってもらう。剣のみでだ。こうげき魔法や強化魔法は禁止」

 横から口を出してきたのはミリアだった。

「でも、それって簡単すぎない? ウィルならレベル二のゴーレムでも素手で倒しちゃうけど」

「そうだ。だから今回はウィルは戦ってはだ」

「え? 僕が戦っちゃ駄目なの?」

「そうだ。これはお前たちふたりのかくと相性を見る試練だ。ウィルはその嬢ちゃんを指導し、ゴーレムをかいするんだ」

「でも、ルナマリアは剣をにぎったこともなさそうだ」

 と言うとルナマリアはがいとうの中からショートソードを取り出す。

「地母神はものを持つことをいましめていますが、もうもくは旅をするため、武器のけいたいを認められています。幼き頃からたんれんもしてきました」

「ならばなんとかなるな」

 とローニンは言う。

「はい。この試練は納得がいくものです。たしかにウィル様はお強いですが、私はウィル様を守る従者です。その従者が弱くては話になりません。、この試練を受けさせてください」

「良い返事だ、お嬢ちゃん。じゃあ、レベル二のゴーレムを使うがいいか?」

「構いません。ウィル様は倒されたことがあるんですよね?」

「あるさ。たしか五歳の時にはもうレベル二に移行していた」

「ならばゆうですね」

 ルナマリアはそう言うと剣をさやから出し、空を切る。かたらしをしているようだ。

 僕はそんな彼女にアドバイスをしたいが、なかなか言葉が出ない。そもそも他人にアドバイスをしたことはない。それにレベル二のゴーレムなど当時から雑魚ざこあつかいだったので苦戦するポイントが分からないのだ。

(まあ、これもサービス問題かな。ルナマリアがあっという間に倒してしまうかも)

 そう思ってゆうぜんと観戦することにしたが、試合が始まると思ってもみなかった展開になる。

 ルナマリアが押され始めたのだ。

 最初、目が見えないことがハンデになっているのかと思ったが、それはちがうようだ。彼女は目が見えない代わりに人一倍ちようかくが良く、ゴーレムの作動音を聞き分け、的確に敵のこうげきけ、すきく。

 まるでとうおどるかのようにゆうに攻撃を始める。しかし、一方的に攻撃を加えてはいるが、優勢なのはゴーレムのほうであった。

 実力的には名人クラスであったが、ルナマリアの攻撃がまったく通らないのだ。

 彼女は的確にゴーレムの関節などに剣をうが、ゴーレムは傷付く様子はない。

「もしかしてこれってレベル二じゃないんじゃ?」

 とヴァンダルのほうを見るが、彼はゆっくりと首を横に振る。

「まごうことなきレベル二のマッドゴーレムじゃよ。──ただし、これはウィル仕様だが」

「ウィル仕様?」

「お前は幼きころからゴーレムを破壊しまくったからな。だからわしはお前の修行になるようにとゴーレムを強くしてきた。わしにとってはレベル二のゴーレムじゃが、これをじゆつ協会に持って行けば最低でもレベル一〇として扱われるんじゃないかの」

 な、なんだってー!? というやつである。

「…………」

 あきれて声も出ないが、その仕様を生んでしまったのは自分であるからして、あまり声高に文句は言えない。

「それにあのじようちゃんのショートソードは神聖ほうしてある。アンデッドやじやあくな存在には効果てきめんだが、魔法生物に特に有効というわけではないようだな」

「そうか。じゃあ……」

 と魔法を付与しようとえいしようを始めるが、それはローニンに止められる。

「おっと、付与魔法は禁止だ。お前が出していいのは口だけ。指示だけであの嬢ちゃんを勝たせてみせな」

「指示だけって……」

 ルナマリアは明らかにれつせいかべぎわに追いめられている。その劣勢も攻撃力不足からきていることは明白だったので、攻撃力を強化する以外に活路はないと思えた。

 それには付与魔法で剣の攻撃力を上げるのが最適なのだが、今回の試練は魔法禁止である。なにか別の方法を考えなければならないが、その方法がなかなか思いかばない。

 だが、思い浮かばなければルナマリアは負ける。僕たちは敗北する。そうすれば外の世界には行けないのだ。

 そう思った僕はルナマリアとゴーレムを観察する。

 昔、ヴァンダルに教えてもらったゴーレムの特性を思い出す。

「ゴーレムとはどろをこねて作った魔法生物。鉄でできたゴーレムなどは破壊が困難であるが、そんなやつかいなのと出くわしたら、ゴーレムの弱点を突け。ゴーレムの弱点とは身体からだのどこかに書かれている魔法文字じゃ。その一文字を消せば命令が自己破壊に切りわり、すぐに死ぬ。それがゴレームという生き物」

 そんなことを教わったことを思い出す。その後、アイアンゴーレムを出されようが、ミスリルゴーレムを出されようが、難なく破壊し、弱点を突かなくてもなんとかなったので、忘れかけていたが、その知識はにならなかった。僕は《かいせき》の魔法でゴーレムをまるはだかにすると、文字が書かれている場所を見つける。マッドゴーレムの魔法文字は背中にあった。

「ルナマリア! やつの背中にある文字、かしら文字を消すんだ。そうすればやつは倒れる!」

 その言葉を聞いたルナマリアは軽くうなずくと、ひらりと敵のいちげきをかわし、宙にう。大道芸人のような身軽さでマッドゴーレムの背中に飛び乗ると、指でさすり、文字が書かれている部分を探す。

 目が見えなくても人一倍びんかんしよつかくによって文字の位置を探し終えたルナマリアは、僕に言われた通り、文字をけずる。

 ショートソードによって頭文字を削られたゴーレムの命令系統は破壊される。その身体も。

 鋼鉄のように固かったゴーレムの身体は土器になったかのようにもろくなり、自重を支えられなくなる。

 そのままゴレームはくずれ落ちると、もとの土のかたまりへともどる。

 つまりルナマリアが勝利したのである。

 彼女はその場で軽く飛びね、耳をませて僕の位置を確認すると、僕の胸に飛び込んできた。

 僕よりもお姉さんで身長が少し大きいので、彼女が僕をきしめるとちょうど胸に顔がうずまる。しかもねんれいの割には豊満だから息ができないくらいである。

 ミリア母さんにもよく同じことをやられるが、ルナマリアにやられるとどうも顔が真っ赤になる。

 うれしいという感情とずかしいという感情が同時に生まれるのだ。

 それが思春期というやつだ、とローニンから説明を受けるのだが、ともかく、僕たちはローニンの試練に打ち勝った。

 ローニンはよくやった! と僕たちふたりの背中をたたいてくれた。

 ただ、おじさんぽいことも言う。

「ふたり旅は許すが、俺はまだおじいちゃんになりたくない。ちゃんとにんするんだぞ」

 と言うとごうかいに笑った。

 ルナマリアは顔を真っ赤にしているが、僕も似たようなものだった。

 ヴァンダルは「やれやれ、デリカシーのない男じゃ」とらすが、彼も笑っているので同罪だと思った。

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