第二章

【ぼっち三原則】

「「…………」」


((き、気まずい……))


「安藤くん、ジュース飲まないの?」

「え、ああ! いただきます!」

「ど、どう?」

「へ……?」

「じゅ、ジュースよ! しい……?」

「う、うん……美味しいです」


(うわぁー、緊張しすぎてジュースの味とかわかんねぇ……)

(よ、良かったわ……。どうやら、安藤くんの口に合ったみたいね♪)


「ところで、安藤くん。本屋での……わ、私の言ったことだけど!」

「はい!」


(やっぱり、あさくらさんが俺を家に連れてきたのはその話をするためだよな……)


「あれは……その、違うの!」

「うん! 大丈夫! 分かってる! 俺ちゃんと分かっているよ! あれは朝倉さんの言い間違いで、本心なんかじゃ決してないんだよね?」

「ち、違う! って……あ、アレ?」

「ん? え、へ……?」


(あ、アレ? 私なんで今のあんどうくんの言葉を否定しているのよ! これじゃあ、本当に私が彼を……すすす、好きみたいじゃない!?)

(う、うそだろ! もしかして、あの朝倉さんがマジで俺を!?)


「あ、安藤くん! い、今のは……違うの!」

「ち、違う?」

「そう『違う』のよ……い、いいかしら!?」

「えっと……それはさっきの言葉が? それとも本屋での──」

「と・に・か・く『違う』の! もう、これくらい分かりなさいよね!? とりあえず、さっきの言葉も本屋でのことも全部『違う』のよ!」


(そう! 私が安藤くんにれているなんて『違う』の! そ、そんなの……ありえないんだからぁああああああああああ!)

(わ・か・ら・な・いいぃ──っ! いやまて……こういう時こそ、冷静になってぼっち三原則を思い出すんだ。


《ぼっち三原則》

①『声をかけられても、振り返らない』

 振り向けば人違いで恥ずかしい思いをする。ぼっちに声をかけるやつなどいないのだ。


②『異性と話す時は、なるべく心を開かない』

 ぼっちは惚れやすい。どうせ、告白しても振られる。なら、最初から希望を持つな。


③『話しかけてくる人がいても、自分に好意があると勘違いしない』

 利用価値があるから話しかけているんだ。ぼっちの俺に好意を持つはずがない。


 よし、以上三点を踏まえてもう一度、あさくらさんのことを考えてみよう……。

 ──なるほど、真実が見えたぞ!

 多分、本屋での朝倉さんの言葉は俺の聞き間違いに違いない。

 きっと、異性にれやすいぼっちの脳が勝手に、朝倉さんの言葉を都合のいいように解釈してしまったのだろう。

 だから、朝倉さんはあれほど俺に『違う』って連呼していたのか。そうか、そうか……あの『違う』ってセリフは俺の解釈が違うと言うことだったのか。

 でも、だとしたら……あの時、朝倉さんは何て言っていたのだろう?

 うーん、思い返せば朝倉さんはなにかと俺に話しかけてくる。でも、それはきっと恋愛感情なんてものではなく、何かしらの『利益』が俺と話すことによって生まれるからなのではないだろうか? では、俺と話すことで生まれる『利益』とは何だ……?

 俺と朝倉さんの共通点──『ラノベ』か!?

 そうだ! つまり、朝倉さんは俺と『ラノベ』の話がしたかったから、あんなに俺に話しかけてきたんだよ! だとすれば、あの時に朝倉さんが言った言葉は──


『私、あんどうくんが大好きなの!』


 ではなく!


『私(も)、安藤くん(と同じでライトノベル)が大好きなの!』


 ──に、違いない! きっと、俺のぼっちの脳が無意識に『( )』内の言葉を聞き逃してしまったのだろう……。ふぅ、危ない危ない。危うく朝倉さんがガチで俺を好きなのかと身の丈に合わない勘違いをするところだったぜ……。

 しかし、無意識とはいえ、朝倉さんの言葉をここまで自分の都合が良いように勘違いするなんて……気付かないうちに惚れていたのか? まぁ、無理もないか。だって、朝倉さんは『学校一の美少女』だ。最近はアレ? 朝倉さんってもしかしたら、残念系美少女なんじゃね? とも思っていたが、本当に残念だったのは俺の頭だったってことだ……)


「安藤くん? 安藤くん!」

「うわぁああ! あ、朝倉さん?」

「『うわぁあ!』じゃないわよ! 急に黙り込んじゃったけど……どうしたの?」


(もしかして、りんごジュースが口に合わなかったとか!?)

あさくらさんが心配そうに、俺を上目遣いで見ている……。や、ヤバイ! 改めて自分がれているって自覚したら、より彼女がメチャクチャ可愛かわいく見えてきた……)


「な、何でもないよ!? それより、俺分かったよ! 本屋さんでの朝倉さんの言葉はあれだよね? その俺じゃなくて、ラノベが好きだって言いたかったんだよね!?」

「え……そ、そうなのよ!」


うそ! あんどうくん、何であの言葉が言い間違いだって気付いたの!?)

(おっしゃ! よかったぁああ~。やっぱり、俺の聞き間違いじゃん!)


「そ、その……あの時の言葉とか、さっきのは全部違うの!」

「うん、うん!」

「で、でも……私、ライトノベルは好きだわ」


(や、やっと、言えた……)

(ああ、やっぱりそれで合ってたか……。安心したぁ~)


「朝倉さん、大丈夫だよ。俺は分かってるから!」

「安藤くん……はっ! べ、別に──私は最初からそういう意味で言っていたわよ? あれは、安藤くんが勝手に勘違いしただけなんだからね!?」

「まさに、そのとおりです! 勝手に勘違いしてすみませんでした!」


(これで、一件落着だな。てか、今頃気付いたけど、ここって朝倉さんの部屋なんだよな? 初めて入った女の子の部屋が学校一の美少女の部屋とか……これなんてラノベ?)


「……女の子の部屋って初めて入ったけど、本棚があるんだね」

「ひゃっ! だ、ダメ! ジロジロ見ないで!」


(そういえば勢いで私の部屋に案内したんだわ! は、恥ずかしい……)

(女の子の部屋って、可愛いぬいぐるみとかあって良い香りがするって思っていたけど、朝倉さんの部屋は本棚があるだけで、しかもその中身はラノベオンリーだし……本のにおいしかしないから、まるで俺の部屋にいる気分だなぁ……)


「でも、こうして本棚のラノベ見ると、面白いくらい異世界チートものしかないんだね」

「うぎゃぁああああ! は、恥ずかしいから……そんなに本棚の中見ないでぇ~!」

「え、恥ずかしいの?」

「恥ずかしくなかったら、今までラノベ好きなの隠していないわよ!」


(ヤバイ……恥ずかしがるあさくらさんって、メッチャ可愛かわいい……)

(うぅ~、ラノベがあるせいで、今までクラスメイトを部屋に入れたことなんて……一回もないんだからね!)


「ただいま~♪」


「「え」」


(この声は……誰か朝倉さんの家に帰ってきた!?)

(今の声は……もも、もしかして──)


「あ、朝倉さん! この声って……」

「ヤバイわ……ママが帰ってきちゃったみたい」


(ママが留守の間に、知らない男の子を家にあげてるとかアウトでしょぉおおおおおお!)

(朝倉さんのお母さんだって!? ちょ! もうドアを開けようとしてるぅうう!)


「ねぇ、玄関に靴があったけど誰かおともだちでも来ているの……あら?」

「「あ」」

「あら、あらあらあら~♪ ねぇ、この子はだぁーれ?」

「と、友達の……あんどうくんよ」

「あら、あらあらあらあら……ウフフ♪」

「ちょ、その笑いは何よママ!? 言いたいことがあるなら言ってよね!」

「ウフフ……♪」

「こ、こんにちは! あ、安藤です!」

「どうも、この子の母です。ウチの子がお世話になってるみたいね~、ウフフ♪」

「いえいえ、そんな……」


(こ、この人が……あさくらさんのお母さん? メッチャれいじゃん! 大学生くらいにしか見えないぞ!? お姉さんって言われてもおかしくないほど若いし! そ、それに……朝倉さんのお母さんの『胸』! 超でけぇええ! 何これ!? E!? いや、Fか!?)


「あらあら……娘が私のいない間に男の子を部屋に連れ込んでいるなんて……」

「マ、ママ! これは……違うのよ!」

「ウフフ~、これなら孫の顔を見る日も近そうね……♪」

「孫ぉ!?」

「んなぁ……っ! ちょっと、ママ! 一体何を言っているのよ! だ、大体……そんなのまだ全然早いわよ!」

「え……あ、朝倉さん?」

「何よ? あんどうくん……」


(私、何か変なこと言ったかしら?)


「あらあらあら~『まだ』ってことは……予定はあるのかしら? ウフフ~♪」

「──ッ!? ち、ちが……ぅ、これはそういう意味じゃなくて!」

「あらあら~、ウフフ♪」

「…………」


(間違いない……。このお母さんは『E』とか『F』というよりも……『S』だな)


「ほら、安藤くんも何か言って!」

「俺!? 何かって……あ! 恥ずかしがる朝倉さんって、メッチャ可愛かわいいよね……?」

「……こ、こんな時に何を言ってるのよぉぉおおおおおおおおおお!!」

「あらあら……ウフフ♪」

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