第一章

【トイレ】

(つ、次こそ! 次こそは……あんどうくんとお話ししてみせるんだから!

 ──って、ちょっとまって! 何かこれって、私が安藤くんに恋してる乙女おとめみたいじゃないかしら? べ、別に、彼とはラノベの話がしたいだけで……だ、男女の仲的な意味でどうこうなりたいって訳じゃないんだから!?

 そうよ! むしろ、私は隠れラノベオタクだとしても『学校一の美少女』よ!

 本来なら、向こうが話しかけて来るべきなのよ!

 だからこそ……今回は彼の方から、私に話しかけさせてやるんだから!

 フフフ、計画はこうよ──、


『ねぇ、安藤くん。前の休み時間に言ってた『てんせいしたら悪役令嬢だった件』って小説は面白いのかしら?』

『う、うん! 絶対に面白いよ!』

『あら、そうなのね。ウフフ♪』

『うん……』


(あ、あれ……あさくらさん、話題を振って来てくれたのに反応それだけ……?)

(さて、そろそろ安藤くんがじれる頃ね♪)

(本当はもっと、朝倉さんとラノベのお話がしたいよ……。よし! だったら、こっちから話しかけるぞ!)


『あ、朝倉さんも……ライトノベル読むの?』

『ええ、ウフフ……実はそうなのよ♪』


 ──よし、勝利の方程式は決まったわ!)



 キーンコーンカーンコーン~♪


(休み時間になったわ。行くわよ!)


「ねぇ、安藤くん」

「……え、何? 朝倉さん」


(うぉ! 何だ? またあさくらさんが話しかけてきたぞ……)

(よし、今度はちゃんと返事してくれたわね! じゃあ、仕掛けるわよ!)


「さ、さっきの休み時間に言っていた小説だけど……『てんせいしたら悪役令嬢だった件』って、面白いのかしら?」

「え……面白いよ」

「あら、そうなのね。ウフフ♪」

「うん……」


(今日は朝倉さんがやけに話しかけてくるよな……。あれか? ぼっちの俺を気遣って話しかけてくれているのかな?)

(さて、そろそろあんどうくんがじれる頃かしら……?)

(だとしたら、俺みたいなぼっち相手に朝倉さんの貴重な時間をかせるのも申し訳ないし……うん、ここはあまり話さないようにしよう!)

(……あ、あれ!? 私が話題を振ってあげたのに反応無し……なの? うそでしょ!?

 ちょっと、待ちなさいよ! まさか本当にこれで会話終了!? 私は貴方あなたと、ライトノベルのお話がしたいんだから、もう少し会話を続けるとかしなさいよね! こ、こうなったら……もう一度だけ、私が話しかけ──って、違ぁあああう!

 安藤くんから話しかけさせるのに、何で私がまた話しかけなきゃいけないのよぉおおおおおおおおおおお!)

(……か、朝倉さんが超こっち見てくるんだけど……。え、もしかして今のって、会話続けなきゃダメだった? でも、俺って朝倉さんに振れるような話題なんて持ってないよ? ラノベ関係はさっき盛大に自爆したし……それ以外に何か話題なんて──あ!)


「こ、この前さ……」

「──ッ!?」


(キタァアアアアア! ついに、安藤くんが私に話しかけてくれたわ! それで何? この前何があったの!?)


「モックバーガーで個室のトイレに入ったんだよ」

「…………?」


(うん? トイ……レ?)


「そこで個室のドアを誰かにノックされたんだけど、あれって扉が閉まってるんだから中に人が入っているの分かるよね? なのにノックをするってことは『早く出ろ』って意味じゃん? でも、そんなのこっちだって好きで長くトイレにいるわけじゃないし……むしろ、かされると逆に時間かかるわけで、結局は意味無いどころか逆効果なんだよ……。

 つまり、俺はトイレのドアをノックするやつは『自己中』だと思うんだ!」

「…………」


(え、何この話……)

(あ、あれ? この反応……もしかして、俺──)


「へ、へぇ……」

「う、うん……」


(やっちまったぁああああああああああ! 何で俺は学校一の美少女を相手に『トイレ』の話なんか振っているんだあああ! 俺、アホじゃないのぉおおおおおお!?)

(ものすごい分かるぅうう──っ! あんどうくん……でもね?

 なんで、最初に振る話題が『トイレ』なの!? 貴方あなたって言ったら『ライトノベル』でしょ! ラノベの話題振ってきなさいよ!? 何が悲しくて、私は気になる男の子から『トイレ』の話なんか聞き出さなきゃいけないの!

 これじゃ、共感できても……話題を膨らませられないでしょぉおおおおおおお!)


 キーンコーンカーンコ~ン♪


(終わった……)

(で、でも……今回は安藤くんと会話できたわ……ウフフ♪)

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