接続章 『きっと、正しい命数のつかいかたⅡ』

接続章『きっと、正しい命数いのちのつかいかたⅡ』


 B


 ──周りの人間が思うより、きっとエイネ=カタイストは性格が悪い。

 少女はそう自覚する。単に仮面をかぶって演じているだけ。自らを、本質的に自分だけを優先する生き物だと定義する。

 なにせ幼い頃からさかしかったものだから、そういう風にしか育ちようがなかったのだ。

 そんな自分を変えたのが、目の前で眠る青年だと──果たして彼は自覚しているだろうか? きっと、何もわかっていないに違いない。エイネはそう思って笑った。

 エイネ=カタイストは、ラミ=シーカヴィルタを愛している。

 彼だけが、である自分に最後まで付き従ってくれた。全ては単純で、面白くないとすら考えていた無色の世界に、彩を与えてくれたおさなみなのだ。

 彼が自分を対等の存在と扱ってくれることに、いったいどれほど救われただろう。

 そう在ろうと努力する彼がいるから、初めて自分は、持って生まれた才能を伸ばそうと考えるようになったのだ。でなければきっとどこかで腐っていた。その自信がある。

 ──ラミといっしょなら、なんだってできる気がした。

 自分とラミで世界を救ってしまえば、アウリは何もしなくても済むのだ。仮に何もできなくても、ラミさえ残っていれば、きっとアウリを救ってくれるだろう。

 できればハッピーエンドを迎えたいとは思うけれど。

 どうだろう。それは、いくら神子たる自分でも難しいかもしれない。そういう直感も、あるいは神子だからこそ得ているものなのか。

 けれど、それで構わなかった。

 ラミは言う。──才能のない自分が、本当に騎士になると信じてくれていたのはエイネだけだと。神子という立場に至ってなお、彼女だけがラミを待っていたと。

 そうではない。そうではないのだ。

 ラミが追ってきてくれているから自分は神子として振る舞えたのだ。死ぬかもしれない旅だって、たとえ本当に死ぬとしても、彼がってくれるのならそれでいい。

 これはそういうわがままだ。

 重荷を背負わせてしまうだろう。自分が消えれば、きっとラミは深く傷つく。それでもエイネは、なんのことはない──ただふたりでいっしょにいたかった。

 同じものを見て、同じ時間を過ごし、ひとつのものをふたりで分け合えればよかった。

 それだけで──それ以外の全てを許せてしまうくらいに。

 少女の初恋は、大事なものだったのだ。

「……ふふ」

 眠る青年のほおをつついて、少女はたおやかに微笑ほほえんだ。

 ──明日には、私はここではないどこかへ消えてしまうかもしれないけれど。

「まあでも、こうしてここまでラミといられたからね……充分、私は幸せだったかな」

 幼馴染みの青年との旅の記憶。

 こんなに素敵な宝物を、最後にもらえたのだから。


 ──私の命数じんせいは、とても幸せなものだった。

  『死にゆく騎士と、ただしい世界の壊しかた』へ続く。

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