【大増量試し読み】お姉さん先生は男子高生に餌づけしたい。1巻

バイト少年と女神の誘惑 1

 足を挫いてから二日でだいたい完治し、俺はバイトに復帰した。

 家から十五分ほどの距離にあるコンビニ。もっと近くにも店はあるのだが、あまり家に近すぎても近所の人に会う可能性が高いので、少し離れた場所を選んだ。

 家と学校の途中にあるので、学校が終わったあとに立ち寄ってシフトに入ることもできる。もうバイトを始めてから八ヶ月目になるので、任せてもらえる仕事も増えている――あとやっていないのは品物の発注だけという状態だ。

「いらっしゃいませー」

 バイト開始から、すでに四十五分ほどが経っている。レジ打ちの合間に店内を見回ったり、ジュースの補充をしたりしている。客が凄く多いのは朝と昼で、夕方は勤め人が増える時間帯だけ少し忙しくなるが、慣れているのでどうということはない。

「海原くん、足の具合は大丈夫?」

 店長は年齢不詳なのだが、たぶん二十代後半くらいだと思う。女性に年齢は聞いてはいけないと他のアルバイトの人が言っていたので、もしかしたらもう少し上なのかもしれない――と、年齢に関係なく、目上の人を敬うことに変わりはない。

「おかげさまで足はすっかり良くなりました。急に休んだりしてすみません」

「伊角(いすみ)さんが代わりに入ってくれたから、またシフトが一緒になったらお礼を言っておいてね。まああの子は、放っておくと扶養から外れちゃうくらい稼いじゃうから、むしろ喜んでたけど」

 日中のバイトの主力である伊角さんには、俺もお世話になっている。大学生なのだが、授業がない日には昼間のシフトに入ってくれる貴重な人材で、みんなに信頼されている。

「松重くんが来るまで、もし足が痛かったら座ってできる仕事をお願いするから。事務所にいるから、何かあったら呼んでね」

「はい、分かりました」

 俺の年齢では、夜十時にはバイトを上がらなくてはならない。店長の方針でできるだけ九時半には上がるようにと配慮してもらっているが、時間が前後することもあるし、丁度十時に上がれる感覚でやっている。

 今日のシフトは、俺より一時間遅れで空野先輩が入るはずなのだが――と思っていると、先輩が息を切らせて店に入ってくる。

「……セーフ?」

「まだ十分前だから、セーフだな」

「そう……良かった」

 先輩はほっとしたように微笑むと、更衣室を兼ねた事務所に入っていく。

 一緒にバイトに入るのは珍しい――入ったとしても、特にいつもと変わったことはなく仕事をするだけなのだが。

 あくまで一緒の時間に働いているだけであって、雑談をするのはNGだ――店長はそこまで厳しいことを言わないそうだが、バイトといえど仕事であり、与えられた時間は仕事のみに集中すべきである。

 別にろくに話す機会がないことについて寂しいと思っているわけじゃない。

俺は普段、店長以外と仕事の話以外はしていないので全く問題はない。

自分のコミュニケーション能力の不足について思うところはあるが、改善は遅々として進まずと言ったところだ。


 想定していた通りに、今日もいつもと同じように、一緒にシフトに入っているにも関わらず先輩と会話をすることはなかった。

 俺がレジに入れば先輩が品出しに出ていくし、俺がドリンクの補充に入れば先輩がレジに入る。複数のレジを解放する場合は手分けして担当する――コンビニのバイトとは、複数で和気あいあいとやっている店もあるが、俺にとっては孤独なものなのだ。

「ありがとうございましたー」

 よく店に寄っていくOLさんが、いつもの通りのお菓子とおつまみ、酒と雑誌を買っていく。手が空いたのでもう一つのレジを見ると、何人か男性客が並んでいた。

今日も絶好調だな、空野先輩は。本人は少々困っているだろうけど。

 何しろ空野先輩は、この近辺を歩いていたら人目を惹かずにいられないくらいの美少女だ――一個上であっても、先輩は先輩なので、「少女」は不適切かもしれないが。まあ店長の理論では、女性はいつまで経っても少女であるという説もあり、俺もそれを支持していないわけではない――と、そんなことを考えていると。

「ちょっと、早くしてくんない? 急いでるんだけど」

「す、すみません……」

 コンビニでバイトしているとき、テンパってしまいがちな状況が幾つかある――その一つは、混雑しているのに宅配便を頼まれたケースだ。

 最近はネットで物を売買するアプリが出てきたので、荷物の持ち込みが増えている。サイズを測って、重さを測り、適切な料金を受け取り――レジの操作もしなくてはならず、後ろにお客さんが並んでいると大変で、一旦レジを保留して次のお客さんに対応するなどしなくてはいけない。

全く俺の方に来ない男の客の気持ちも分からないでもない。そして、先輩はこういうとき、俺の助けを求めようとしない。俺が嫌われているというのとは違って、彼女バイトで給料を貰う限りはベストを尽くすという強い責任感があるのだ。

 俺は先輩のヘルプに入ろうとするが、目だけで牽制されてしまう。いつもクールな先輩が「こっち来るな」という目をするので、とてもじゃないが助け舟が出せない。

「あっ……」

 宅配便の対応を乗り切った先輩だが、レジに硬貨を入れるときに手元が狂い、小銭をばらまいてしまう。

「すみません、お待たせしました。二番目のお客様、こちらにどうぞ」

 今の今まで仕事をしていたような雰囲気を出さないと、待ち構えていたようになり、先輩が心を閉ざしてしまう――彼女はクールビューティと呼ばれているが、鋼鉄の心を持っているわけではなく、実はプレッシャーに強くはない。

「だ、だめ……海原は手伝わないで、私だけでいいから」

「タバコの110番ですね、かしこまりました。こちらは温めで。一緒にこちらのホットスナックもいかがですか? 今値引きをしておりまして……ありがとうございます、唐揚げとポテト承りました」

「……だ、だめ……」

「お姉さん、このチキン一ついい? あと77番のタバコも」

「っ……は、はい。少々お待ちください」

 可愛い女性店員に接客をしてもらいたいお客さんには申し訳ないが、それよりも優先しなくてはならないのは、「待たせるコンビニ」という評判が広まるのを防ぐことだ。

 自分のレジでの接客を終えたあとは、先輩の方を手伝う。何か先輩が小さい声で言っていたが、彼女は俺の助けを強く断ることはなかった。

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