朝帰りの登校風景 4
「おはよう、
「お、おはようございます、
「っ……お、おはよう……」
俺が空野先輩の自転車に乗せられている状況は、岸川先生を驚かせてしまったようだった。確かに俺もこんなことになるとはついさっきまで思っていなかったので、知り合いに見られると恥ずかしくなってくる。
「……
「い、いや……そうか、空野は海原とは知り合いだったな。しかし、そんなに親しいとは……遠くから見ると、仲の良い男女のように見えてしまっていたが……」
「……ちょっと寒かったので、海原を壁にしてました。反省してます」
「注意をしているわけではないが、その……ま、まあ、今日は寒いから仕方がない」
先生の様子がさっきから少し変だと思うのだが、気のせいだろうか。
やはり、水泳部のエースにこんなことをさせていたら、顧問として物申したいということもあるのだろうか――そういうことなら。
「先輩、ありがとう。ここからは自分で歩くよ」
「っ……だ、だから、注意をしているわけではない。私も協力して二人で押していった方が、楽ではないかと思って……」
「……岸川先生の自転車は?」
「い、いや。だからですね、ここからは自分で歩くので……」
本当にあと少しなので問題ないのだが、岸川先生は鋭い目で俺を見る。まさに女騎士の眼光というやつで、反論を許されない空気だ。
「坂は足に負担がかかる。私が
「……はい。ちゃんと連れていきます」
岸川先生と空野先輩の間で話が決まってしまう。俺の意見を少しでも取り入れてくれればと思うのだが、俺は助けてもらっている立場なので、素直に感謝すべきなのだろう――しかし。
「おい、あれって……」
「ちょっ……待てよ。あれって二年のインテリヤクザだろ?」
「二年生からミスコン隠れ一位の
「俺たちの空野奈々海をあんな奴に……あ、何だ。あいつ、足怪我してんだ」
「空野さんって、人助けとかするタイプなんだ。ちょっと意外かも」
さんざん噂をされてしまっているが、俺はもう慣れているとしても、空野先輩が言われるのは納得がいかない。
「……私たちが分かってればいいから。海原は、気にしなくていい」
「は、はい……すみません」
「それより……これは、なかなかいいトレーニングになりそう……足がぱんぱん……」
「……やっぱり降りた方が良くないですか?」
先輩は汗一つかかないとはいかず、頬が紅潮している――そんな状態でも首を振り、姿勢を崩さずに俺を押していってくれる。
「……じゃあ今度は、俺が先輩を自転車に乗せて押させてもらいます」
「……いい。そんなことされたら……恥ずかしい……」
自分がされたら恥ずかしいことを俺にしている先輩――彼女はやはりとても意地が悪くて、とても優しい。