プロローグ(前)
六年前、宇佐見家——
「ひーちゃん見て見て!」
光莉はパソコンで動画を観るのを中断し、小学校から慌てた様子で帰ってきた千影のほうを向いた。千影は少し大きめの段ボールを両手いっぱいに大事そうに抱えている。
「ちーちゃん、なにそれ?」
光莉が寄っていくと中で白いものがわずかに動いた。白猫だ。それも、まだ小さな、生まれたばかりの子猫だった。
「うわぁ、ネコちゃんだっ!」
思わず目を輝かせる光莉だったが、ふと我に返ると、これは非常にマズいと思った。千影は光莉よりも気まずそうな表情を浮かべている。
「どうしよう……帰りに拾ってきちゃった……」
「そっか……」
光莉はもう一度段ボールの中を見た。
底には真新しいタオル——飼い主だった人の最後の愛情が敷かれていた。その上に、春先に生まれたであろう小さな命が横たわっている。まだ幼いからか、眠たいからか、それとも衰弱しているのか——いずれにせよ、わずかな呼吸を繰り返してミーとも鳴かない。
この路端にうち捨てられた小さな命を、千影は見過ごせなかったのだろう。
千影はそういう子だ。後先を考えずに行動に移してしまい、あとで心配になったり、後悔したりすることが多い。
自分に自信がないからだろうと光莉は思っていた。
自分の思う正しさは、他人にとっての正しさとは違う。そのことを千影自身がわかっているからこそ、自分の選択に迷いが生じてしまうのだろう。
そんな気弱な妹に対し、今、姉としてできることはなにか——
光莉は必死に考え、
「パパとママに、うちでかってもいいかきいてみない?」
と、千影の不安を拭い去るように、笑顔を顔いっぱいに広げながら言った。
「パパとママならオッケーしてくれるよ」
「大丈夫かな……?」
「きっと大丈夫だよ。でも、まだ名前をつけたりしちゃダメだよ?」
「うん……!」
その後、光莉の説得も手伝って、両親の許可はすぐに下りた。
それからすぐに獣医に見せて薬をもらい、餌やケージなどの必要なものを買い揃えて、宇佐見家に新たな家族が加わった。
千影がその真っ白な子猫に名前を付けることになったのだが——
「この子の名前はマシロ!」
「真っ白だから?」
「うん」
「そのまんますぎないかな?」
「そんなことないよー。——ね、マシロ?」
千影がにこりと微笑みかけると、マシロは「ニャア」と鳴いてみせた。
それからというもの、千影の熱心な世話の甲斐あって、最初はやせっぽっちだったマシロの身体は、次第に大きくなっていった。
ただ不思議なことに、千影が話しかけるとマシロは「ニャア」と可愛らしく鳴くが、光莉や両親が話しかけてもじっと見つめ返してくるだけで反応しない。千影が手を伸ばせば、目を細めて何度も額を擦りつけてくるが、光莉たちからは距離をとった。
自分を親かなにかと勘違いしたからか、あるいは命の恩人だと思ったからなのか——
なんだか、自分を特別だと認めてくれているみたいで、千影にとってはそれがなによりも嬉しかった。
天才の姉のほうではなく、凡才の自分を必要としてくれる特別な友達、家族。
マシロがそばにいてくれる。
そのことが千影の心を強くしていったのだった——
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