妹が女騎士学園に入学したらなぜか救国の英雄になりました。ぼくが。1

1章 妹は王立最強騎士女学園一年生(1)


    1


 今日の晩ごはんはざるか、それとも焼き魚もいいなあと迷っていると、妹のスズハが泣きべそで帰ってきた。

「兄さん、兄さんっ! うわあぁぁん!」

「なに、どうしたの?」

 ぼくの胸に顔をうずめてくるスズハに話を聞く。

 するとなんでも、学校で上級生にタイマン勝負を挑んで、コテンパンに負けたのだとか。

「申し訳ありません! わたしは兄さんの妹でありながら、最強の兄さんの名前をけがしてしまいました!」

「いやいやいや!? ぼくは最強でもなんでもないし、名乗ったことだって一度もないし、そもそも一般人だからね?」

 妹がこの春から通い始めた、王立最強騎士女学園。

 この王国で最も人気が高く入学もまた難しいとされている、王国騎士を育成するための専門教育機関である。

 その入試難易度はちゃちゃ高く、幼少の頃から専属家庭教師が付きっきりで鍛え上げた貴族令嬢ですら、まず不合格になるほどで。

 ウチのような庶民の家からスズハが合格したことは、もうそれだけでとんでもない快挙なのだった。

「そりゃね、スズハはそれなりに強いよ? けれど世の中は広いんだから、負けることもあるってば」

「ですが兄さん以外の相手に、負けるなどっ……!」

「スズハはこれから騎士になって、強い相手といっぱい戦うんでしょ? だからその時に勝てるように、今日の負けをかてにしないとね?」

「……はい、兄さんのおっしゃるとおりです。わたしはまだまだ未熟ですね」

 スズハの目に力が戻る。

 どうやら落ち着いたようだ。よかった。

「じゃあ、スズハが再戦したら今度は勝てるように、晩ごはんはカツ丼にしようか?」

「わあぃ」

 いかにも体育会系女子らしく、スズハは肉とか揚げ物とかチーズ牛丼とかが大好物だ。

 少なくとも、蕎麦や焼き魚よりもずっと。

 いつもこってりメニューばかりじゃアレだけど、今日はがっつりスズハの好物で慰めてあげようじゃないか。

 台所に向かうぼくの背中に、スズハが声をかけてくる。

「そういえば兄さん。その再戦なのですが」

「うん」

「おそらくですが今週中か、遅くても来週中かと」

「それ、ずいぶん早くない?」

 いくらスズハが通うのが騎士養成学校とはいえ、そう頻繁に特定の相手と殴り合うものなのだろうかと不思議に思っていると。

「その時の相手は、わたしではなく兄さんになると思いますので」

「……なんでぼくなのさ?」

「わたし、負けたのがあんまり悔しかったので、わかぎわについ言ってしまったのですよ。『わたしの兄さんは、わたしなんかよりもっとずっと強いんですよ』って」

「はあ……」

「そうしたら相手が、その言葉に大変食い付きまして」

「……イヤな予感がする」

「根掘り葉掘り聞いてきたので、兄さんのことを一から十まで教えてあげました。つまりわたしの兄さんがどれほど強くて、素敵で、男らしくて、そしてわたしのことをここまで鍛え上げてくれたかですね。そうしたら相手が大変興味を持ってしまって」

「…………」

「近いうちに家にお邪魔したい、と言われたので快諾しておきました。ふふっ、わざわざ兄さんに返り討ちに遭いに来るとは愚かな女ですね」

「……スズハ、今日の晩ごはん抜きね」

「なぜですっ!?」

 結局のところ、育ち盛りの体育会系女子への晩ごはん抜きはあまりにもびんだったため、夕食のメニューはカツ丼大盛から素うどん半人前へと変更された。

 スズハは大いに反省したようだ。

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