第一章 お店を手に入れた!

Episode2 私のお店は……(4)

「あの、村長さんってどんな人ですか?」

 気難しい人だったりしたら、人付き合い経験値が少ない私にとっては、強敵である。

「んー、もう結構なとしじいさまだねぇ。ちょいとヨボヨボしちゃいるが、まだまだくたばりそうにはないよ」

「……こわい人ですか?」

「え? あぁ、だいじようさ! のんびりした爺さまだから」

「そ、そうですか!」

 良かった! サラサちゃん、大勝利!

 いやー、この村に来た時にはちょっと絶望しかかったけど、結構良い村じゃない?

 エルズさんの紹介のおかげかもしれないけど、口下手な私にみんなやさしいし。

 暮らしやすいのが一番だよね!

「ほら、あそこが村長の家さ」

 エルズさんが指さす先にあるのは、特別広くもない、ごく普通の民家。

 場所的には村の中心付近だけど、言われないと村長の家とは気付かないね、これは。

「この村だと、税のちようしゆうぐらいしか仕事がないから、サラサちゃんにはあんまりえんがないと思うけどね」

「そうかもしれませんね」

 村長のお仕事は村の税金を集めて、徴税官に引きわたす事。

 でも、錬金術師はちょっとちがって、売り上げに応じた額を自分で納めないといけない。

 まぁ、自己申告なので、ある程度はごまかせるんだけど、もちろんそれは犯罪。

 れんきんじゆつぐらいかせげるなら、普通はやらない。

 ただし、しようには『記録するのがめんどう。増税しても良いから楽にしろ』と不評だった。

「ま、腐っても村長だ。顔は広いから、困った時にちょっとは役に立つさね。挨拶しておいて損は無いさ」

「はぁ……」

 そんな適当な感じで良いんだ?

「おいおい、エルズ。そんな言い方はひどいんじゃないかのぅ」

 そんな話をしながら村長の家の前まで来たところ、家の裏から出てきたお爺さんがそんなことを言いながら近づいてきた。

 ってことは、この人が村長?

「おや、爺さま、聞いていたのかい」

 聞かれたらマズいんじゃ、と思った私に対し、エルズさんは悪びれる様子もなく、あっさりとそう言葉を返した。

「昔は可愛かわいかったエルズちゃんが、こんなになってしもうて……」

「『ちゃん』とか言うんじゃないよ! これだから爺さまは。こちら、あの店にしてきた錬金術師のサラサちゃんだよ」

「初めまして。錬金術師のサラサと申します。これからこの村で暮らしていきますので、よろしくお願いします」

 エルズさんに紹介され、私があわててぺこりと頭を下げると、村長は気安げに手をった。

「ほっほっほ。そうかしこまることはない。錬金術師はちようじゃからのう。ウチの村に来てくれただけでもだいかんげいじゃよ」

「いえ、そんな……私なんてまだまだじやくはい者で……」

「いやいや、錬金術師というだけでウチの村としては十分助かるんじゃ。こちらこそよろしく頼むわい。必要なことがあったら何でも手助けするから、気軽に相談してくれ」

「はい、ありがとうございます」

 少し大げさだけど、村長の言うことはそう間違ってはない。

 医者のいない小さな村では、錬金術師のは死活問題だったりするのだ。

 どんな初心者の錬金術師でも、ある程度の錬成薬ポーシヨンは作れるし、医学的知識もある。

 むしろ、そのへんの医者よりも、錬金術師の方が信用があるくらい。

 まぁ、だからといってごうまんになったりしたら村八分必至。

 なので私は、けんきよに行きますよ、そう、謙虚にね。


    ◇ ◇ ◇


「さて! やることは多いし、サクサク片づけないとね!」

 ひまそうな村長の雑談からのがれた私は、旅の間にまったせんたくものをまとめておけほうり込み、ほうで出した水でちゃちゃっと洗濯していた。

 ──うん、実は生活するだけなら、を使わなくても結構なんとかなるんだよね。

 なら、なんで釣瓶つるべが必要かと言えば、錬金術や薬草のさいばいに使う水、錬成薬ポーシヨンを使ったりように使う水など、魔法で出した水は望ましくない事もあるのだ。

 決して魔法はばんのうでは無い。でも、洗濯には有用。

 洗い終わった洗濯物のかんそうも魔法で終わらせ、次はおそう。これも魔法を活用。

 家中の窓を開け放ち、たなの上に溜まったほこりを風系統の初等魔法の『微風ブリーズ』──別名お掃除魔法でき飛ばしていく。

「後は軽くき掃除をすれば……あ、ぞうきんが無い」

 りようで使ってた雑巾はさすがに捨ててきたし、さっき買ったとん用の布を使うのはもつたいなさすぎる。リュックの中に何かあったかな……?

「これはまだ着られる。こっちはれいだから何かに使えるかも。となると、これ、かな?」

 選んだのは、だん着るにはサイズ的にちょっと厳しくなってしまった服。

 そういった服は古着屋に売ったり、ほかの布製品を作ったり、がへたっていたら雑巾にしたりするのだが、この服はちょっと思い出深くて残していたのだ。

 あれはそう、私の、学校への入学が決まり、寮へ引っ越ししようとしていた時の事。

 入寮の日だからとちょっとい服を着ていた私に、院長先生が言い放った言葉。

『ちょっと服がすぼらしいわね。ハレの日なんだから、少し良い服にしたら?』

 院長先生としては、しようがく金でいん時代とは別の服をそろえていると思っていただけで、まったく悪気なく言った言葉。でも、私にとってはいつちよう

 とはいえ、さすがに見窄らしく見える服で学校に入るのははばかられたので、きゆうきよ院長先生に付き合ってもらって、がんって揃えた服の一つが、この雑巾候補。

 その時は、どうせすぐに大きくなるからと、少しだけ大きめの服を買ったんだけど……。

「少し前までこの服、着てたよね、私……」

 いやいや、さすがに今は小さくて、もう着られないよ?

 一〇歳の時に買った服だもの!

 かなり草臥くたびれているし、とても外には着ていけない。

 その代わり、代わりなら何とか──とは思っていない。決して。

 大丈夫、きちんと成長してる。

 同年代の平均ぐらいはきっとある……はず?

 ──そういえば、ロレアさんの年を聞かなかったけど、何歳なんだろう?

 彼女に比べると私の方が少しだけ発育が悪いけど……少し、少しだけね!

錬成薬ポーシヨンに成長しやすくなる薬とかあったかな? ……使うかどうかは別にして」

 などと、やくたいも無い事を考えながら、私はササッと拭き掃除を終わらせると、早々に毛布にくるまり、新居での初日を終えたのだった。

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