三章 襲撃①
日の出とともに、アンの
喚くミスリルをなだめながら、アンは出発した。
ミスリルはちゃっかり、御者台に乗っかった。
気持ちよさそうなミスリルを見おろして、シャルが
「眠っている間に、投げ捨てるか?」
「それはあんまりだから、やめてあげて。それに投げ捨てても帰ってくるよ、多分。
背後からは、ジョナスの箱形馬車も当然のような顔をしてついて来る。
しばらく馬車に揺られると、アンは太陽の位置を確かめた。
そろそろ、昼ご飯を
ジョナスも、静かに馬車を止める。
アンは荷台の脇につけた
ジョナスはその様子をしばらく
水をくもうと小川にかがみ込んだアンの隣に、ジョナスも同様にかがみこむ。
気配に気がついて、アンはジョナスに顔を向けた。
ジョナスはいつにない
「アン。わかってくれるかい? 僕は君のことが心配だった。それだけなんだ」
ジョナスは小川に手を入れると、バケツを
アンはびっくりして、バケツを小川から引きあげてしまった。そんなふうにされても、どう対処していいか困ってしまうばかりだ。けれど彼は彼なりに、
「アン」
呼ばれると、軽いため息がアンの口から
ジョナスは、いい人なのだ。
「ブラディ
するとジョナスは、ぱっと
「わかってくれたの!?」
「そのかわり、本当に危険なのよ。それは理解してね」
「でもアンは、戦士妖精を
「戦士妖精だって、
「それは、わかってる」
そう言うジョナスの表情からは、いまひとつ
ジョナスはおそらく、ノックスベリー村から外へ出たことは、ほとんどない。たまにレジントンへ、買い出しや祭り見物に行くのがせいぜいだったろう。その彼が旅に対して無知なのも、仕方ないかもしれない。
しかし昨日、盗賊に
シャルは昨日あまりにもあっさり、盗賊を追い
水をくみ終わると昼食をとり、アンたちは出発した。
そして予定通り、三日目の
その日の夕食。アンは、ジョナスも一緒に食べるように
いつものように、小さなたき火を
たき火の脇に
ミスリルは、呼ばなくとも勝手にやってきた。そして観察するように、彼らの周りをうろうろと歩き回る。
「ジョナスとキャシーに、
「名前は? つけてないの?」
「今言ったのが、彼の名前よ」
妖精を紹介されて、ジョナスは
キャシーは
ジョナスは改めて、シャルをしげしげと眺めた。
「おまえ、戦士妖精にしておくには、もったいないほど
するとシャルが、冷ややかに
「気にいったなら、かかしから俺を買い取るか?
「シャル!」
「ま、間抜けって……」
アンは自分が悪いことを言ったような気分になり、弁解する。
「ご、ごめんジョナス! シャルは口が悪くて、愛玩妖精として売れなかったらしいの。戦士妖精としても、口の悪さが原因で、安値でたたき売られてたし。間抜けだ
「うん。まあ……アンは悪くないんだから、いいよ。それより、そっちの妖精は?」
気をとりなおすように、ジョナスがミスリルに視線を向ける。
ミスリルは出番とばかりに、ずいと輪の中心に出てきた。
「俺か? 俺の名前はミスリル・リッド・ポッド様だっ!! 様をつけて呼んでくれ」
「え、さ、様づけ??」
意味がわからないというように、ジョナスは目をぱちくりさせた。
「シャルもミスリル・リッド・ポッドも、そろいもそろって、なんでそんな態度なの!? ねぇ、ミスリル・リッド・ポッド。『様』づけしろなんて、どうかと思うわよ。あきらかに、感じが良くないもの」
たしなめたアンの言葉に、ミスリルはしょんぼりした様子でうなだれた。そしてふらふらと、アンの馬車の方へ歩いていく。
ジョナスは当然のように、キャシーを紹介しなかった。
アンの夕食は、水。そして
ちらりとミスリルを見ると、彼はわざとらしく
ミスリルはやたらうるさいから、昨夜からひどく
しかしよく考えれば、恩返しをしようとする心構えは、立派だ。恩返ししようと決めた相手が
──
アンは自分の分のサンドイッチを半分にすると、ミスリルを手招きした。
「おいでよ、ミスリル。これ、あげる」
ぱぁっと晴れやかな笑顔になると、ミスリルはぴょんぴょん
そして
「俺はミスリル・リッド・ポッドだ。略すな」
「そうだった。ごめんね。ミスリル・リッド・ポッド」
ジョナスにも分けようとしたが、彼は自分の食事はあるといって、荷台から持ってきた。
ジョナスの食事は、アンには考えられないほど
それを見ると、ジョナスが旅に出ることを両親が承知しているというのも、あながち
これほど食べ物を細々と取りそろえるのは、家庭の主婦にしかできない芸当だろう。彼は両親に馬車や食料、ついでに護衛まで買い
しかしアンダー夫妻はなぜ、
「こんなにごちそうがあるなら、わたしのスープなんていらないわよね」
思わず、アンは
すると、ジョナスのコップに葡萄酒を
「当然です」
ジョナスがキャシーを
「
はっとキャシーが顔色を変えた。おろおろと、取り
「あ、すみません。ジョナス様。わたし、ただ」
「消えていろ」
キャシーは
妖精には、
ジョナスはすまなそうに言った。
「ごめんね、アン。うちの労働妖精は、しつけがなってなくて。君のスープは、
使役者として、ジョナスの態度は当然なのかもしれなかった。しかしアンは、キャシーが