1章 転生王女様は急には止まれない(2)

    * * *


「ごげんうるわしゅう、父上! 急な訪問、真に申し訳なく思ってまーす!」

「アニスッ! 貴様、今度は何をやらかした!? 何故ユフィリアも連れている!?」

 うわ、父上が完全にいかしんとう状態です。いや、そうなるのも無理はないと思うけど。

 貴族学院の夜会会場からユフィリア嬢を……ごほん、連れ出した私はそのまま王城に向かい、父上に謁見を申し込んだ。ユフィリア嬢は目を回していたので、背負ったままだ。流石にあのかんぺきな公爵令嬢だと言われたユフィリア嬢でもいきなり空を飛ぶのはきよう体験だったんだなぁ、なんて思ってしまう。

「落ち着いてください、陛下。アニスフィア王女殿でん、ごしております」

「あれ? グランツ公もいらっしゃったのですか? 好都合と言えば好都合ですね」

 父上のしつ室には思わぬ人もいた。それはユフィリア嬢の父親であり、父上のふところがたなとしても名高いグランツ公だ。さっきの話をするなら好都合かな。

「……ユフィリア、いつまでそうしているつもりだ?」

「……うぅ……? ッ、お、お父様!? し、失礼しました! アニスフィア王女!」

 グランツ公の咎めるような声に反応したユフィリア嬢が勢い良く顔を上げて私の背から降りようとする。私がユフィリア嬢から手をはなせば、ひざまずく勢いでユフィリア嬢が頭を下げてしまう。

「あぁ、気にしなくていいよ。グランツ公も、今はちょっとユフィリア嬢にやさしくしてあげてください。ちょっと今、不安定でしょうから」

「アニス、説明せよ! 今度は何をやらかした? 何故ユフィリアを連れている?」

「いやぁ、実は〝じよほうき〟の夜間飛行のテストをしてたら、星がれいをしてしまいまして。そのまま貴族学院の夜会にきゆうきよ参加してしまいました!」

「……このッ、馬鹿者がぁっ!!」

 私がなおに報告すると、父上は勢い良く立ち上がって私の頭にげんこつたたき落とした。

 思わず目の前に星が散りそうな程の痛みだ。あまりの痛さに目の奧がカッと熱くなって頭をかかえてしまう。

「痛いです、父上! ひどい!」

「やかましいわ! お前という奴は、お前という奴は!」

「私だって反省してるんですよ!?」

「反省しているならばり返すな! 何度あやまちを繰り返せば学習するというのだ!」

「父上、失敗をおそれては人に進歩など有り得ませぬ!」

「予防をしろと言うのだ! 繰り返してはこつちようだろうが、このおろか者が! その頭はかざりではなかろう!」

 二度目の拳骨が私の頭に叩き込まれる。あまりの痛さに頭を抱えてうずくまってしまう。

 うぅ、父上の拳骨は痛いんだって……! 本当に酷いなぁ、もう!

「……ごほん。よろしいでしょうか? アニスフィア王女」

 せきばらいをしてグランツ公が声をかけてくる。怒り狂っていた父上も、グランツ公の存在を思い出して落ち着いたのか、怒りを収めてくれた。というか、むしろ顔色が悪い。

 グランツ公の鋭い目付きが私をにらえるように向けられる。ちょっとごこが悪いけれど、グランツ公だしいつもの事だと思って居住まいを正す。

「何でしょうか? グランツ公」

「それで、何故ユフィリアと共に王城へ?」

「あぁ、そうそう! その報告に来たんでした! 父上!」

「なんだ、アニスよ」

「アルくんがユフィリア嬢との婚約を破棄するって言ってたんですけど」

「…………は?」

 たっぷり間を開けて父上が完全に動きを止めてしまった。横に立っていたグランツ公も思わぬ事を聞いたと言うように目を少し見開かせている。

「……すまぬ、アニス。どうもつかれからか聞きちがったと思うのだが、何があったと?」

「ですから、アルくんがユフィリア嬢との婚約を破棄するって」

「は?」

「婚約破棄です」

だれと誰が?」

「アルくんとユフィリア嬢が」

 何度も繰り返すように父上に事実をきつけると、父上があんぐりと口を開けてぼうぜんと立ち尽くしてしまった。父上の前で手を振ってみたりするけれど反応はない。

 ようやく再起動した父上はけんみほぐしながら、ふるえる声で問いかけてくる。

「アルガルドが、そう言ったと?」

「さっきからそう言ってるじゃないですか!」

「……すまない。悪い夢だと言って欲しいのだが、事実なのか?」

 明らかに信じられないといったこわいろで父上はユフィリア嬢へと視線を向けた。父上から改めて視線を向けられたユフィリア嬢はしゆくしきった様子で、かたを落として視線を下げたまま小さくつぶやいた。

「……はい。私の力がおよばず、大変申し訳ありません」

 そのまま力なくユフィリア嬢は頭を下げてしまった。あまりのはかなさに肩に手をえてしまう。肩にれた手から震えを感じ取って、私はくちびるとがらせてしまった。

 こうもなっちゃうよね。あんな夜会の会場でいきなり婚約破棄なんて突きつけられて。どんなにユフィリア嬢がゆうしゆうでも、いや優秀だからこそショックも大きいはずだ。

「……なんという事だ! アルガルドの奴め、一体どういうつもりだ!? 何も聞いてはいないぞ!? しかも夜会の最中にだと!?」

「落ち着いてください、陛下」

「これが落ち着いていられるか!」

「あー、父上。お怒りになられる気持ちもわかるんですけど、ユフィリア嬢もショックを受けたばかりなので大きな声はあまり……」

 私がてきすれば、父上はにがむしつぶしたような表情で声をおさえてくれた。となりに立っていたグランツ公が静かにためいきいて、ユフィリア嬢へと視線を向ける。

「……ユフィリア」

「ッ、申し訳ありません、お父様……私がないばかりに、このような……」

 グランツ公の呼びかけにユフィリア嬢はもう頭が上がらないと言うように頭を下げてしまっている。震えは少しずつ強くなるばかりでいたたまれない。

「話を持ち込んだのは私ですけど、とにかくユフィリア嬢もあまり具合が良くないですし座っても良いですか?」

「う、うむ。そうだな……」

 私の提案に父上がうなずいて、私達は来客用のソファーに座った。私の隣には父上が、私達の対面にはユフィリア嬢とグランツ公が座る。

 一度、こしを下ろして少しは落ち着いたのか、父上が咳払いをしてから話し始める。その顔には明らかなもんの色がかんでいる。まぁ、無理もないんだけどさ。

「……さきほどは取り乱してすまなかった。しかし、信じられぬ……」

「でも実際起きた事なんですよ、父上」

 父上が本気で頭を抱えてしまった。そりゃそうだよね、アルくんとユフィリア嬢の婚約って次期国王と次期おうの婚約だった訳で。この二人の婚約にはとても大きな意味がある。だからこそのマゼンタこうしやく家のれいじようであるユフィリア嬢が相手だったのに。

 だから婚約破棄なんてそう簡単に認められる筈がない。なのにアルくんが宣言したというのはじよういつしているとしか言えない訳で、父上がこうなるのも無理はない。

「……すまない、グランツ。私の見立てが甘かったと言わざるを得ない」

 頭痛をこらえるようにうなれた父上が心底、胃が痛そうに手で押さえながら呟く。だけど父上に謝罪を告げられたグランツ公は静かに首を左右にった。

「陛下ともあろう方がそう簡単に謝罪を口にしてはなりません。……ユフィリア」

「……はい」

「お前とアルガルド王子の仲が進展していないという話は聞いていた。このような事になったのは残念ではある」

「……申し訳ありません」

「謝罪は不要だ。今、お前が考えなければいけないのは今後の振るいだ」

「どのようなばつでも甘んじて受けるつもりです」

 グランツ公の言葉にユフィリア嬢は悲痛な表情を浮かべて、まるで罪を言いわたされるのを待っているように見えた。そんなユフィリア嬢に視線を向けるグランツ公のまゆがぴくりと上がった。何ともきんちようかんのある二人の会話に私は思わず口をはさんでしまう。

「こほん。……グランツ公、少しよろしいでしょうか?」

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