〇第一章 同い年の妹が旅行に行きたい理由(5)

 ◇◇◇


 翌朝、俺は学校に行くために住宅街の通学路を歩いていた。

 いつもなら一人で黙々と登校しているところだが、今回は少し違う。

「……あのさ、海人くん」

「ん? どうした?」

「その……どうして私たちは一緒に登校しているのかな?」

「そりゃ、俺が誘ったからだろ」

「それは……そうだけど」

 栞は少し気まずそうに言葉を返す。

 そう。今俺の隣には栞がいる。一緒に学校に行こう、と誘ったときは、ぶっちゃけ断られるかもと心配したけど、割とすんなり承諾された。

「まあ実を言うと、栞に少し話があってな」

「……そんなの家で話せばいいと思うけど」

「父さんや京香さんの前だと話しづらいことなんだよ」

「っ!? 二人の前だと話しづらいって……!」

「そうそう。学校だとクラスのやつもいて、なおさら話せないし」

「そ、そうなんだ……」

 相槌を打ってくれる栞の表情はどこか緊張している。

 少し様子がおかしいけど……まあ本題に入ったらきっといつもの彼女に戻るだろう。

「それでお前に話したいことっていうのは──」

「海人くん! 待って! ストップストップ!」

 不意に栞は両手を前に出して、俺の動きをストップしてくる。

 な、何だ? どうした?

「落ち着いて海人くん! 義理とはいっても私たちは兄妹なんだよ!」

「お、おう。義理でも兄妹だな」

 こいつは今更何を言ってるんだ?

「そうだよ! だからいくら君が私のことを好きでも、お付き合いするなんてことは、その……絶対にダメだよ!」

「……は?」

 いま俺が栞のことを好きとか何とか言ってたけど……。

 俺の聞き間違いじゃないよな?

「……栞、お前とんでもない勘違いしてるぞ」

「勘違いなんてしてないよ! 君、今から私に告白をしようとしているんでしょ!」

「やっぱり勘違いしてるじゃねーか! 別に俺はお前に告白なんてしようとしてねーよ」

「……え?」

 きょとんとする栞。いや、きょとんしたいのは俺の方だって。

「てか、どうして俺がお前に告白するって思ったんだよ」

「だって昨日、私のベッドに潜り込んできたのは、私のことが好きだからじゃないの?」

「あー、そういうことか。それは……マジでごめんなさい」

 圧倒的に俺に非があったので、本気で謝った。でも潜り込んではないけどな。

「もう一度言うけど、俺はお前のことを好きになったわけじゃないから安心してくれ」

「……じゃあ好きでもないのに、あんなことしたの?」

「え、えーと、あの……土下座するからもう勘弁してくれない?」

 その後、昨日の件をちゃんと弁明すると、栞はようやく納得してくれた。

 次いで、俺はようやく本題に入ることにする。

「今から栞に話したいことなんだけど……って、なんで顔隠してんの?」

「だって私とんでもない思い違いをしていたんだよ。もう北海道の雪で埋もれて雪だるまになりたい気分……」

 そんな栞は両手で顔が隠れたままだけど、耳は真っ赤っかだ。

 このまま冬の北海道に連れて行ったら、本当に雪だるまになってしまいそう。

「ごめんなさい、話を途切れさせちゃって。……それで私に話したいことって?」

「あぁ、それはな、その……この前のことなんだけど……」

 栞はぽかんとする。……全然伝わってないな。

「栞が俺の旅行に連れて行って欲しいって言ってたろ?」

「う、うん。でも海人くんは断ったでしょ」

「そう、そうなんだけど……えっと……」

 おかしいな、もっとすんなり言えるはずだったんだけど……。

 よくよく考えたら異性にこんなこと言うの初めてだし、緊張しているのかもしれない。

「海人くん?」

 栞は澄んだ瞳で不思議そうに見つめてくる。

 その時ふと昨日、ベッドの上で彼女が涙を流していたことを思い出した。

 きっと父親の旅日記を読んで、思わず泣いてしまったんだろう。

 それくらい栞は父親のことが本当に大好きだったんだ。

 確かに最初は断ってしまったけど、今はちょっとだけ栞のことを手伝ってもいいかなって思ってる。

 だから──。


「あのさ……俺の旅行、付いて来るか?」


 少し緊張した声で訊ねると、栞は一瞬、時が止まったみたいに動かなくなってしまう。

 若干心配になると、彼女は少し経ってからハッと我に返って、

「ほ、本当に私、海人くんの旅行に付いて行ってもいいの……?」

「おう。ただし、栞が前に言ったみたいに一人旅を二人がする感じで……旅行中、俺はお前を放っておいて好きにするから」

 俺が忠告すると、急に栞はこちらに近づいてきて、

「それでもいい! 海人くん、ありがとう!!」

 ぎゅっと俺の両手を握って、感謝の言葉を口にした。

 彼女はとびきりの笑みを浮かべていて、心の底から喜んでいるのがわかる。

 一方、俺は唐突なボディタッチに心拍数が勢いよく上がってしまった。

「でも、なんで? この前はダメって言ってたのに……」

「そ、それはな……すまん栞。先に謝っておく」

 俺の言葉に、栞はぽかんとする。

 それから俺は栞の父親の旅日記を読んだこと、栞が自分の父親がどんな旅をしてきたのか知るために旅日記に書かれている場所に行きたがっているのを知っていることを話した。

「そっか……全部知ったんだね」

「ごめんな、お前に許可なく父親の日記を読んじゃって」

「ううん、全然いいよ。お父さんも海人くんみたいな旅行が好きな人に読んでもらえたら、きっと喜んでると思うし」

 栞は優しく微笑んで、そう言ってくれた。

「だけどお前、どうして俺に旅行に一緒に行きたいって頼むときに日記のことを話さなかったんだ? そしたら俺だってもう少し考えたのに……」

「そんなこと言っちゃったら、海人くんを利用しているみたいで悪いでしょ」

 栞は俯いて、申し訳なさそうに語る。

 しかしすぐに顔を上げると、グイッとこっちに迫ってきて、

「言っておくけど、もちろんお父さんがどんな旅をして、どんな気持ちになったのかも知りたいけど、私が海人くんと一緒に旅行したいって思っているのは本当だからね!」

「そうなのか? てっきり俺はお前の目的にとって都合がいいからだけなのかと……」

「そんなわけないでしょ! 『凪の家』で君から聞いた旅行の話、とても楽しかったの! 君と一緒に二人で旅行に行ったら絶対に楽しいだろうなって思ったんだよ!」

 栞は一言話すたびに、一歩また一歩と前に出てくる。

 そのせいで彼女の綺麗な顔が視界いっぱいになって、また段々と鼓動が速くなっていく。

 妹に近づかれたくらいで動揺するな。俺はこいつの兄だぞ。

「栞の言葉は嬉しいけど……もう一度言うが、今回の旅行は前にお前が言ったように一人旅を二人でするからな」

 要するに、二人で同じ観光地には行くけど、一緒に楽しむわけじゃなくて各々で楽しむってこと。

 一人旅を二人でする感じでもいいって言ったのは栞だけど、詳しい内容はこっちで決めさせてもらった。それだけ俺にとって一人旅は簡単には譲れないのだ。

 ──ということを栞に話すと、

「つまり、私たちは『二人一人旅』をするってことだね!」

「二人一人……? 何言ってんだ?」

「だって二人で一人旅をするんでしょ? だから『二人一人旅』だよ!」

 ちょっとドヤ顔をしてくる栞。

 確かに上手いこと言ってるかもしれないけど……なんか腹立つなぁ。

「でも意外だな。少しは文句とか言ってくると思ってた」

「私が先に言い出したことなんだし、そんなことしないよ。それに旅行中、お互い観光を楽しむってことは、その間私はどこにいてもいいってことだもんね!」

「まあそうだけど……」

 なーんか嫌な言い方なんだよなぁ。

「ねえ海人くん、絶対楽しい旅行にしようね!」

「まだ予定も何も決まってないのに……気が早すぎだろ」

「えっ、だって河口湖に行くんじゃないの?」

「お前の父親の日記だと、河口湖には冬に行ってたんだ。だったら冬に行かないと意味ないだろ」

 そう話すと、何故か栞がぽかんとしていた。

「なんだよ、その反応」

「う、ううん。その……ちゃんと私のこと考えてくれてるんだなぁって」

「っ! お、俺はどんな旅行でも完璧な旅行にしたいんだよ! だからこれくらい当然だし、言っとくけどお前のためじゃないからな! 俺のためだから!」

 大声で必死に主張するが、物凄い勢いで顔が熱くなってくる。

 栞の方も、徐々に頬が赤くなっている気がした。

「海人くんとの旅行、もう楽しみになってきたかも」

「……そ、そうかよ」

「うん! そうだよ!」

 まだ頬がほんのり赤いまま、栞はニコッと笑った。

 ……くそ、妹なのに可愛いと思ってしまった。

「その……話も終わったことだし、さっさと学校に行くか」

「そうだね! そうしよっか!」

 栞は旅行に行くことが決まって嬉しいのか、鼻歌を歌いながら歩いていく。

 これでもう昨日までみたいな気まずい感じはなくなったな。

 ……良かった。


 こうして俺と栞は二人で旅行を──いや、『二人一人旅』をすることになった。


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試し読みは以上です。


続きは2022年6月24日(金)発売

『同い年の妹と、二人一人旅』でお楽しみください!


※本ページ内の文章は制作中のものです。製品版と一部異なる場合があります。

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