6.優しい魔法使い
「……
エリオット様はそう言うと
十五年が
「お久しぶりです。エリオット様は
「ありがとうございます。サラは何もかも変わりませんね」
今日はルークも朝早くから
「なるほど、時間の流れが
そうして
「最近は人手が足りず、
「ありがとうございます!
来週から正式な職員としてナサニエル病院で働けることになり、ほっとする。これでルークに甘やかされ、
正式な職員になるには
「出勤日数が増える以上、
「分かりました」
いくら魔力量の多い私でも、魔力切れを起こす可能性はあるのだという。とりあえずは様子を見ながら、週四日ほど勤務することになった。
光
この世界にはゲームのように回復ポーションのようなものはない。
時間と共に回復するのを、ひたすら待つしかないのだ。少しずつ自分の限界量を
「貴女にもう一度会えて
「こちらこそ。私もエリオット様にお会いできて嬉しいです」
思い返せばなんとなくで使えていたから、魔法についてきちんと学んだことはなかった。
過去のように仕事に追われることもない今、きちんと勉強してみようと思った。
【画像】
あっさりと仕事も決まり、
「そうだ、ルークにお
「……
「
職探しについてはやはり難色を示されたものの、押し切ってきた。
「知らない人には絶対に、ついていかないでくださいね」
「もう、
「それはこちらのセリフです」
仕事に行く際、ルークは「本当に気をつけて」「明るいうちに帰ってきてください」と何度も繰り返していた。どうやら彼は、かなりの心配
屋台で買ったフルーツジュースを手にウインドウショッピングを楽しんでいた私は、ふらりと目についたアクセサリーショップに足を
白を基調とした店内には安価で可愛らしいアクセサリーが並んでおり、若い女性客で
「ねえねえ、これ、お
「いいわね! 私はこの色にしようかしら」
「アデルに似合うわ。じゃあ私は青にしようっと」
お揃いの
「……友達、
私は前回も半年この世界にいたのに、友人と呼べる人は一人もいなかった。元の世界に
一体どうしたら友人を作れるだろうか、と
「うわああん、痛いよお」
不意に子どもの泣き声が聞こえてきて、顔を上げる。すると三歳くらいの男の子が地面に座り込んで泣いているのが見えた。その
転んでしまったのだろう、そのすぐ
「うわああん」
「お姉ちゃんが治してあげるから、もう
私はすぐに
数秒で傷はあっという間に消え、男の子は目をまんまるにして私を見つめている。ちなみに私自身も驚いていた。
「おねえちゃん、すごい……! ありがとう!」
「あの、本当にありがとうございました。あっ、お金を」
「お金なんて結構です、気をつけてね」
お
私からすればこれくらい大したことではないけれど、やはり治癒魔法というのは
魔法を使ったからかお
「ここ、座ってもいいかな?」
そんなイケメンが突然、店内にはたくさん席が空いているというのに、わざわざ私の向かいに座ろうとしているのだ。
どう考えても
「ええと……」
「急にごめんね、怪しい者じゃないんだ。俺はカーティス、騎士団に所属している」
そう言った彼のシャツの
「とりあえず、どうぞ」
「ありがとう」
いつまでも立たせているのも申し訳ないため、向かいの席を
「ここのお店は初めて?」
「あ、はい。初めて来ました」
「ここはコーヒーと、このランチセットがオススメだよ」
「じゃあそれを」
その通りに店員さんに
「名前、聞いてもいいかな?」
「あ、サラといいます」
「サラちゃんか。さっき
それは、昔あの街でお
「今、仕事はしてる?」
「来週からナサニエル病院で働く予定です」
「ナサニエル病院か……ねえ、サラちゃん。騎士団で働いてみる気はない?」
「えっ?」
私が、騎士団で働く。そんな突然の申し出に、驚きを
「俺達騎士団の
「なるほど……」
「でも君となら、うまくやっていけそうだと思った。遠征は月に一度だから病院で働きながらもできるよ。転移魔法使いと後方にいてもらうし、絶対に危ない目には
どうやら彼は、本当に困っているようだった。
正直、月に一度だけならばできないことはない。何より、ヒーラーという
「時々ナサニエル病院からヒーラーを借りたりもしているから、そこの
騎士団の人々はこの世界に住む人々の
それに、ルークの助けにもなれるかもしれない。
「……まずは一度だけ、行ってみてもいいですか?」
「もちろん! ありがとう、サラちゃん」
エリオット様には彼の方から取り次いでくれるらしく、予定が決まり
「もしかしてサラちゃんって、
「やっぱり、そう見えますか?」
その後、私はカーティスさんと
ちなみに出身を聞かれたところで「実は私、異世界から来た渡り人なんです」なんて言えるはずもなく、他国から来たばかりだと話してある。
「それならまだ、知り合いも少ないんだ?」
「そうですね。友達もいないですし」
「本当に? それなら俺と友達になろうよ」
「カーティスさんと、ですか?」
「うん。俺、この辺は
気さくに遊びに
そしてカーティスさんの言っていた転移魔法使いというのは、どうやら女の子らしい。きっと私と仲良くなれるから
「すみません、ご
「どういたしまして。またね、サラちゃん」
いつの間にか会計を済ませてくれていたカーティスさんにお礼を言い、別れた。
仕事が決まっただけでなく友達までできるなんて、とてもいい日になったと私は上機嫌なまま、ルークの
【画像】
「なぜそんな仕事を引き受けてきたんですか」
「ル、ルークの役にも立てるのかなと思って」
どうやら、いい日だったのはお昼までだったらしい。その日の夜、私は広間にてルークの隣に座り、お説教をされていた。
騎士団の仕事を終えて帰ってきた彼に、ナサニエル病院で働くことを伝えたところまでは良かった。エリオット様の元なら安心だと、むしろ祝福してくれたくらいで。
ただ、カーティスさんに声をかけられ、遠征のお手伝いをすることになったと言った
「で、でも、ルークと
「カーティス師団長の隊と、俺の隊は別です。それに俺の隊には専属のヒーラーがいるので、サラと一緒になることはありません」
「そうなんだ、ちょっと残念……ちなみに、ルークの隊のヒーラーってどんな人なの?」
「……別に普通の、女性です」
エリオット様の病院にいる治癒魔法使いは、今も昔も男性ばかりなのだ。女性の光魔法使いには、今まで会ったことがなかった。
そしてカーティスさんは師団長であり、
貴族相手に失礼な態度をとっていたかもしれないと、
「その女の人に、今度会ってみたいな」
「会わなくていいと思います。サラとは正反対ですし」
「そうなの? 私、友達は欲しいんだけど」
「レイヴァンにでも頼んでおきます」
ルークはその人と私を、会わせたくないのかもしれない。そんな気がした。
「そんなことより、遠征に行くのは一度きりにしてくださいね。絶対にその一度だけです」
「どうして? 怪我も絶対しないって言ってたしお給料もいいし、人のためにもなるし、いいことずくめな気がするんだけど」
「この世の中に、絶対なんてものはありません。それに、あんなむさ苦しい男だらけの中に、可愛いサラが行くのも問題なんです」
さらりと可愛いと言われたことに内心
「はい。魔獣よりも危険です」
「ふふ、でも確かに皆が皆カーティスさんやルークみたいに爽やかで格好いい、なんてことはあり得ないよね」
私がそう言うと、ルークはなぜか驚いたように両目を見開いた後、急にぐいと近づいてきた。私が思わず少し後ずさると、彼は更に
「サラはカーティス師団長が好みなんですか」
「普通に格好いいな、とは思うけど……」
「やはり遠征は断ってください」
「えっ? さっきは一度きりって」
「言いづらいのなら、俺から断っておきますから」
突然どうしたのだろうと思ったけれど、ふと気づいてしまった。
思い返せば彼は子どもの
もしかするとルークは、私が男性と交流して
相変わらずルークは可愛いと、思わず笑みがこぼれる。そもそもカーティスさんのような貴族のハイスペックイケメンと私なんて、
「ルーク、大丈夫だよ」
「何がですか」
「私にとってはルークが一番だから。この先もずっと」
「────」
いつか恋人ができたとしても、私はルークを優先してしまうような気がする。今は彼の方が年上だけれど、私にとっては本当の弟のようなものなのだ。
私はそんなルークがとても可愛くて、大切だった。
「それは、本当ですか?」
「うん、本当だよ」
「俺の一番もずっとサラです。それは昔も今も、この先も絶対に変わりません」
「本当に? 嬉しいな。ふふ、私達、
嬉しくなってつい、そんな
「……サラは、本当に悪い女ですね」
「えっ? なんで?」
「なんでもありません。まだまだ先は長いなと思っただけで」
一体、どういう意味だろう。首を傾げている私を見て、
「