1.一度目の出会い
今から
料理が
そして訳も分からず半泣きで
暗い
近くで食堂を経営しているらしく、モニカさんは困り果てていた私を連れ帰り、
した足を手当てし、ゆっくりと話を聞いてくれた。
「私、さっきまで家の中にいたのに、気がついたらあの森の中にいたんです。街も人も、私が住んでいたところとは全然
「サラは転移
「えっ? ま、魔法使い?」
信じられないという顔をする私を見て、モニカさんは「なるほどね」と深く
「ああ。魔法のない世界から来たサラはきっと、
モニカさんの話によると、ここはリーランド王国という異世界らしい。私のような別の世界から来た人間は「渡り人」と呼ばれているという。
「渡り人というのは急に現れて、急に消えると聞くよ。だからサラも、いつか元の世界に帰れる日が来るさ。それまでここで好きに暮らすといい」
モニカさんの祖父もまた、過去にこの世界に来たばかりの渡り人を助けたことがあったらしく、彼女は「これも何かの
そしてこの世界には一定数魔法を使える人々がいて、渡り人と呼ばれる私のような人間はまれに、
私もつい先日モニカさんが怪我をした際に、手当てをしながら「治って欲しい」と強く念じたのがきっかけで、
さすが異世界だと、感心してしまった
――最初は訳も分からず不安で、何度も元の世界に
けれど周りの人達は
元の世界では仕事をして
食堂での仕事の
「すまないが、森から
「はーい、分かりました!」
受け取ったカゴを持つと食堂を出て、近くの森へと向かう。今ではこの辺りなら、一人で迷わず歩けるようになっていた。
「――えっ?」
そうして木苺のある辺りまで歩いてきた私は、草むらの中に傷だらけの男の子が
「お願い、治って……!」
ここまで
そうしているうちに、なんとか目に見える傷は全て治ったようで
「よいしょ、っと」
このまま放っておくわけにもいかず、私は男の子を背負うと急いで街へと戻った。小さな身体は、信じられないほどに軽かった。
まずはモニカさんを
「サラ? その子は一体どうしたんだい?」
「森で倒れていたんです。一応怪我は治したんですが、どうしたらいいか分からなくて」
「とにかく二階のベッドまで運ぼうか。今いるお客さんを帰したら、私もすぐに行くよ」
「分かりました、ありがとうございます!」
そのまま二階にあるモニカさんの家へお
とりあえず酷い汚れだけでも
「っう……」
そうして現れたのは、二つの美しい黄金の
「
声をかけると、男の子は私を見てびくりと身体を震わせる。
いきなり見知らぬ場所で見知らぬ大人が目の前にいれば、驚くのも当然だろう。少しでも安心して欲しくて、私は
「私はサラっていうの。君が森の中で倒れているのを見つけて、ここに連れてきたんだ。
「…………」
「治癒魔法をかけたんだけど、まだどこか痛いところはある?」
数秒の後、小さく首を左右に
それからすぐにモニカさんが来て、全身汚れていた男の子がお
身体に優しい食事を作ってくれることになった。
「わあ……!」
シーツを
汚れていた髪は海の底のように深い青色で、煤けていた
それからは食事ができるまで並んでソファに座り、話を聞いてみることにした。
「改めまして、私の名前はサラです」
「……サラ」
「うん。よろしくね」
こうして近くで見ても、まるで
そんな彼は、感情の読めない瞳で私を見つめていた。
「……どうして、助けてくれたんですか」
やがて形のいい唇からは、そんな問いがこぼれた。
思い返せば、モニカさんに助けてもらったあの日、私も同じことを
「私も困っている時に、助けてもらったことがあるから」
そしてその時に返ってきたのが、この言葉だった。
元々私は世話焼きな方ではないし、正義感が強いわけでもない。それでもこの世界に来た時に、私は一人ぼっちの怖さや
モニカさんが助けてくれなければ、
だからこそ、こんな私でも
「名前、聞いてもいい?」
「……ルーク、です」
「すごく綺麗な名前だね、君にぴったり! 教えてくれてありがとう」
思わず笑みを
――これが、私とルークの一度目の出会いだった。
「そう言えば、ルークって何歳だっけ? 八歳くらい?」
「……十一歳です」
「あっ、そうなんだ! ごめんね、よく分からなくて」
ルークを連れ帰ってから、あっという間に一週間が
少しずつ会話はしてくれるようにはなったものの、どこから来たのか尋ねると口を閉ざしてしまう。どうして怪我をしてあの場所で倒れていたのかも、分からないまま。
「ルークはきっと、いい家の子だと思うよ」
読み書きもしっかりできるし、ひとつひとつの動作にも品がある。もしかすると貴族令息の可能性もあると、先日モニカさんがこっそり教えてくれた。
きっと、ルークの家族だって心配しているはず。
そう思い、日本で言う警察と同じ役割をしているらしい憲兵団へ行こうと声をかけてみたのだけれど。なぜかルークは私の
モニカさんは料理の
トでルークの
「ねえ、ルーク。実はね、カードゲームを買ってきたんだ。これ、やったことある?」
「少しだけ」
「良かった!
小さく頷いてくれたルークに、
「わ、また私の勝ち!」
「……もう一回、やりたいです」
「ふふ、もちろん! 今度はルークが先行でいいよ」
さすがに倍生きているだけあって、ルールを覚えた
「はい、次はルークの番ね」
ルークはとてもいい子で、一緒に暮らすのは楽しい。
けれど、いつまでもこのままではいられないと私は頭を
***
「テーブルを片づけたら、上がっていいよ。そこの皿の
「はい、ありがとうございます!」
そして私は変わらず、モニカさんの食堂で働き続けている。私の仕事中、ルークは二階のモニカさんの家で過ごしていた。
片づけを終え、モニカさんが用意してくれた焼き
「ルーク、お待たせ!」
「サラ、お疲れ様です」
「ありがとう。これ、一緒に食べよう! とっても
ルークはいつも私を待っている間、机に向かい本を読んだり勉強をしたりしていた。私が子どもの
お手伝いもいつも進んでしてくれて、ルークは驚くほどに真面目ないい子だった。
「今日も魔法について勉強してたんだ、
「はい」
私もルークと一緒に少しずつ、このリーランド王国や魔法についての勉強を始めている。
この世界では、人口の三割程度の人間が魔法を使えるのだという。
魔法使いは貴重なため、十二歳の誕生日を
大体が十二歳になる前に魔法を使えるようになるものの、力が
「属性魔法についての本を読んでいました」
「そうなんだ。ルークは水魔法か風魔法、ってイメージかな」
基本は皆、地・火・水・風の四種類の属性のうちひとつを持つ。それ以外には光・
ちなみに治癒魔法が使える私は、光属性持ちだ。
周りからはそれだけで食べていける、お金持ちにだってなれると言われたけれど、モニカさんのところで働き続けたい私はさっぱり気にしていなかった。
たまにこの街で怪我した人をお
「ルークはどんな属性魔法が使いたいの?」
「自分の身を守れるような
「なるほど……確か、攻撃魔法は光魔法使い以外なら使えるんだよね?」
「はい、そうです」
治癒魔法が使える光魔法使いは
どうかルークが望む魔法が使えるようになりますように、と
***
そうしてルークと暮らし始めて半月が経った、ある日の仕事終わり。今日の夕飯は何にしようかと話しながら二人で食堂を出て、アパートへと戻ろうとしていた時だった。
「よお」
私の少し後ろにいたルークは、ぴたりと足を止めた。
「―― にい、さま」
「えっ?」
まさかこの男性が、ルークのお兄さんなのだろうか。
ルークの家族については結局何も分からないままで、実は明日にでもこっそり憲兵団に行って
無事に会えてよかったと思いながら、男性へと視線を向ける。
「よくも
「……っ」
けれど兄と名乗る男性を前にして、ルークはひどく
嫌な予感がした私は、ルークを背中に
「おいおい。
「……あの、すみません。本当にルークのお兄さんなんですか? とてもご家族の言葉とは思えないんですが」
「時間がねえんだ、どいてくれ。おい、帰るぞ」
その
「っ
「あ? 邪魔だな」
このまま、ルークを男の元に帰してはいけない気がする。
そう思い男の腕を必死に摑んだところ、髪の毛を摑まれ無理やり立ち上がらされた。ブチブチと髪の毛が
見知らぬ女性相手にいきなりこんなことをするなんて、どう考えてもまともではない。
「っ兄様、やめてください……! 僕、ちゃんと行きますから! どうかサラだけは」
「お、よく見ると綺麗な顔してるじゃねえか。この女も
―― 売る?
自身の耳を疑い、痛みに
そんな
「知らなかったのか? こいつ、金持ちのババアに売り飛ばそうとしたら逃げたんだよ。前金も貰ってたから困ったわ」
「何を、言って……」
実の兄弟にそんなことをするなんて、信じられない。
同時に、あの日のボロボロの姿のルークを思い出す。どれほど怖い思いをして、必死に逃げてきたのだろう。そんなルークの気持ちを思うと、強い
「あなたなんかにルークは渡さない! ルーク、早く逃げて!」
私はそう
鞄の中にはルークが読んでいた分厚い本が入っていたこと、不意打ちだったことにより、男はバランスを
「っサラ……!」
「私は大丈夫だから、早く!」
ハッとしたように顔を上げたルークに、必死に声をかける。
「よくも、ルークを……!」
「っちくしょう、このクソ女!」
何度も鞄を
その顔ははっきりと分かるくらい、怒りで歪んでいる。
やがて男がもう一方の腕を振り上げ、殴られる、とぎゅっと目を閉じた瞬間だった。
「ぐ、あっ」
私の目の前を、何かが
それと同時に
「……ルーク?」
一体、何が起きたのだろう。
ルークの小さな手のひらは男へとまっすぐに向けられていて、その先に倒れる男の身体には無数の氷の
ルークが発動した魔法だと、すぐに気がついた。
「――よくも、サラを」
なおも彼が発する氷の塊は、
あまりのその勢いに、私は慌てて声を上げた。このままでは死んでしまう。
「ルーク、もうやめて!」
けれど私の声は、ルークに届いていないようだった。
正直、この男は死んでもいいと思うくらいには許せない。それでも、こんな小さな男の子を人殺しにするわけにはいかないと、更に大きな声でルークの名前を呼ぶ。
「ルーク!」
私はなんとか立ち上がり、何度呼びかけても反応がないルークの元へと駆け寄ると、その小さな身体をきつく
落ち着かせるように、何度も「大丈夫」を
「もう、大丈夫だよ。大丈夫だからね」
「……サ、ラ?」
そうしているうちにルークは我に返ったらしく、その視線はしっかりと私へと向けられていた。彼の周りにあった氷も消えており、ほっと胸を
「っサラ、血が……」
そんな中、慌てたように言ったルークの視線を
どうやら彼の元へと向かう際に、彼の発した氷が
ルークはそんな私を見て、ぽろぽろと
「泣かないで、私は大丈夫だから。こんなのすぐに治せちゃうもの」
気がついた途端にずきずきと痛み出したものの、笑みを浮かべ、すぐに治してみせる。
あっという間に治った腕を見せると、ルークの瞳からは余計に涙が溢れた。
「サラ……っごめんなさい……ごめんなさい……!」
「ううん、助けてくれてありがとう。それにルーク、魔法使えたね! 良かった」
私はそう言って笑うと、ルークの
私はルークと共に事情
男はかなり重い
そして帰宅後、ルークから話がしたいと言われた私は彼と二人並んでソファに座り、ホットミルクを飲みながら話を聞くことにした。
「……今まで、色々と隠していてごめんなさい。家に帰されると思って、言えなくて」
「ううん。大丈夫だよ」
ルークは長い睫毛を
「僕はエイジャー
元々さして
けれどあの義兄はルークの話を聞き入れないどころか、邪魔な彼を売り飛ばせば一石二鳥だと、美少年好きの貴族女性へ大金と
「売られる直前、なんとか逃げ出した先で手持ちのお金も
命からがら逃げ出して一週間ほど経った頃、森を
ルークには何か事情があるのかもしれないと思っていたけれど、こんなにも
売られそうになる前も、家の中で彼がいい
「話してくれてありがとう。辛かったね」
そっと手を伸ばして、ルークを抱きしめる。すると
「――家に、帰りたくない」
やがてルークは消え入りそうな声で、そう
あの義兄がいなくなったところで、まだ家にはルークに酷いことをした義母達がいるのだ。そんな場所にルークを帰すのは絶対に嫌だった。
「ねえ、ルーク。良かったら、これからもここで一緒に暮らさない?」
「……いいん、ですか?」
「もちろん。私もルークがいてくれたら
するとぱっと顔を上げたルークの目には、みるみるうちに涙が
「っ僕も、サラと一緒に、暮らしたい……」
「本当に? 良かった」
柔らかな紺髪を撫でれば、太陽のような金色の瞳からはぽろぽろと大粒の涙が溢れた。
「これからもよろしくね、ルーク」
二十歳になったばかりの私はつい最近まで自分が子どもだったようなもので、子どもの育て方だって、この世界のことだって分からないことばかりだけれど。
それでもこの子を守ってあげたいと、強く思った。
「……サラ、ありがとう」
そして私達は二人寄り
それからというもの、私とルークとの
親鳥の後を追う
「また勉強してるの?」
「はい。魔法の扱い方を学んでいました」
「わあ、偉いね! きっと努力家のルークはすごい魔法使いになれるよ」
「ありがとうございます。……サラを、守れるようになりたいんです」
魔法に関する分厚い本をぎゅっと抱きしめて
「ありがとう。すごく嬉しい!」
そう告げれば、出会った頃よりもふっくらとしてきた柔らかな頰は、更に赤く染まる。
今まで辛い思いをしてきた分、ルークのために私にできることはなんでもしてあげたい。
そう、心の底から思った。
***
事件から一週間が経った、ある日の昼下がり。ランチでやってきていたお客さんが全て
「……私がルークにしてあげられることって、何があるだろう」
何かしてあげたいとは思ったものの、実際に何をすればいいのか分からないのだ。
そうしているうちに来客を知らせるドアベルが鳴り、私は「いらっしゃいませ」と顔を上げる。するとそこには、昔からの常連だという男性客の姿があった。
いつもの定食を頼んだ男性は「今日もモニカの料理は美味しいな」と料理を食べていたけれど、やがて「ああ、そうだ」と私へ視線を向けた。
「確かサラちゃんは、光魔法を使えるんだったね。治癒魔法を使って働いてみようと思ったことはないかい?」
「治癒魔法を使って、ですか?」
「うん。僕の古い友人が経営している王都の病院で、人手が足りず困っているようなんだ。給料もかなりいいはずだから、ここの休みに働くのはどうかなと思って」
大体の給料を聞いてみたところ、「えっ」という声が出てしまうような高額だった。治癒魔法の貴重さを改めて実感していた私はふと、ひとつの考えが浮かんだ。
――今の私がルークにできるのは、少しでもお金を
子どもを育てるのにはお金がかかると言うし、何よりお金はいくらあっても困らない。
「あの、
その後、男性から話を聞き取り次いでもらった私は、翌週の食堂の休みから早速、病院でのバイトを始めることになった。
***
私達が住んでいる街から王都へは馬車で三十分ほどで、片道一時間半の通勤電車に
「サラさん、こちらの
「は、はい!」
バイトを始めてから、あっという間に一ヶ月が経つ。
習うより慣れろとはよく言ったもので、
そして驚いたのが、自身の治癒能力の高さだった。
「もしかすると、サラは国内でも五指に入る光魔法の使い手かもしれません」
私が勤めるナサニエル病院の医院長であるエリオット様は、そう言って
美しく長いグレーの髪を後ろで結んでいる彼は、眼鏡がよく似合うかなりの美形で。年齢は私よりも一回り上で、優しいお兄さんという雰囲気を身に纏った
そんなエリオット様が言うには、私は他の職員に比べて
確かにいくら魔法を使って治療をしても、全く疲れないのだ。
治癒スピードに関しても、働きながら
「やはり渡り人は、特別なんでしょうね」
エリオット様には、私が渡り人であることもこっそりと話してあった。博識な彼は右も左も分からない私に、たくさんのことを教えてくれている。
これほどの能力を持つ渡り人だと国にバレてしまえば、王国
仕事を終えて家へ戻ると、私の帰宅時間に合わせて食堂から帰ってきていたルークが、
「おかえりなさい、サラ」
「ただいま。今日もたくさんお給料をいただいたから、明日は本を買いに行こうね」
「……いつも、すみません」
「謝らないで。私はルークが喜んでくれるのが一番嬉しいんだから」
そう言って頭を撫でると、ルークはなぜか泣きそうな、
「僕も働きます」
「えっ? どうしたの急に」
「サラはいつも働いてばかりいるし、お金が足りないんでしょう?」
「ち、違うの! どうしても
最近は週に一回だった病院でのバイトを、更に増やしていたのだ。ルークにそんな心配をかけてしまっていたなんて、と
――どうして急に仕事を増やしたかと言うと、実はルークのためだった。
リーランド王国では魔法が使える子どもは皆、十二歳になると魔法学院に通うという。
この国は、貴族社会と言えど実力主義でもあった。平民でも能力があれば評価され、重宝される。特に魔法使いは、仕事に困ることはないらしい。
「魔法さえ使えれば
「なるほど……」
先日、テレシア学院の卒業生であるエリオット様にも相談したところ、やはり名門であるテレシア学院に通わせた方が、間違いなくルークの将来のためになるとのことだった。
初めてで水魔法の上位である氷魔法を使えたルークは、絶対にテレシア学院へ行き、その才能を伸ばすべきだ。きっと彼なら、すごい魔法使いになれるはず。
テレシア学院に通うためには高額な学費が必要で、入学まであまり時間はない。
とは言え、モニカさんの食堂と病院でのバイトで稼いだお金を合わせれば、なかなかの額になる。思いのほか、早く学費は貯まりそうだった。
***
ルークと出会ってから、あっという間に四ヶ月が経った。
「今日の夕飯はね、ルークの好きなパスタだよ」
「サラが作ってくれる料理は、全部美味しくて大好きです」
夕食を作っている私に、ルークはぴったりとくっついている。最近は以前よりも更に懐いてくれたようで、すごく嬉しい。
「本当に? いいお
「……お嫁、さん」
調子に乗った私がそう言うと、ルークは何かを考え込むような表情を浮かべた。
「サラはどんな人が好きなんですか?」
「えっ? 好きな男性のタイプってこと?」
「はい、そうです」
まさかルークから、そんな質問をされるとは思っていなかった。
姉ポジションの私としては色々教えてあげたいと思うけれど、
「ごめんね、ルーク。実は私、そういうのよく分からなくて……」
「どうしても大人の女性が好きな男性を知りたいんです。お願いします、サラ」
「うっ」
ルークにキラキラとした瞳で
私はしばらく頭を悩ませた後、「ええと」と口を開いた。
「顔がかっこよくて、背が高くて、頭が良くて強くて、お金持ちな人とか……?」
「……顔がかっこよくて、背が高くて、頭が良くて強くて、お金持ちな人」
その結果よくいる恋愛
このままではなんだか良くない気がした私は、慌ててつけ加えた。
「あ、でもやっぱり優しいのが一番だと思うよ! 私も優しい人が好きだな」
「優しい人……分かりました、ありがとうございます」
母も父の優しいところが一番好きだと言っていたし、私も優しい人は好きだ。
「まずは今日から、牛乳をたくさん飲むようにします」
やがてぱっと顔を上げたルークはなぜか、苦手だった牛乳を飲むと宣言してくれたのだった。
「もうすぐ試験だね。勉強の方も順調?」
「はい。大丈夫だと思います」
「そっか。ルークはいつも
やがて出来上がった夕食を食べながら、そんな会話をする。ルークはもうすぐ、テレシア学院の入学試験を控えているのだ。
魔力検査と筆記試験の両方があるようで、簡単ではないと聞いている。けれどきっと、ルークなら大丈夫だろうという確信があった。
「合格したらお祝いしなきゃね。あ、何か欲しいものとかある?」
しばらくルークは考え込むような様子を見せていたけれど、やがてぽっと頰を赤く染めて「あの、サラ」と口を開いた。
「僕がもし合格したら、デートしてくれませんか」
「えっ?」
想像もしていなかったお願いに、私は間の抜けた声を漏らしてしまう。
デートなんて言葉、いつの間に覚えたのだろう。きっと意味はあまり分かっていないだろうけど、その相手に私を
「うん、いいよ。楽しみにしてるね」
「っはい、頑張ります。約束です」
「うん、約束ね」
照れたようにはにかむルークがあまりにも可愛くて、幸せな笑みがこぼれた。
その後、寝る
「そう言えばルークって、将来の夢とかってあるの?」
「特にはありませんが、安定して稼げる職業に
「なるほど……! さすがルーク、
「大人になったらしっかりとお金を稼いで、サラに色々な物を買ってあげたり、楽な暮らしをさせてあげたりしたいんです」
やがて返ってきた可愛すぎる回答に感動した私は、ついルークの頭を撫でた、けれど。
――ルークが大人になった時に、私はこの世界にいるのだろうか。
そんな疑問を、ふと
私はいつ元の世界に戻れるのだろう。
一応、突然戻ってしまった時に備えて、ルークの今後についてや、貯めてあるお金の置き場所を記した手紙はモニカさんに渡してあった。
今の私はこの世界にも、この世界の人々にも愛着が
向こうでは今、私はどうなっているのかという不安もある。
「……サラ?」
色々と考えているうちに
「ルーク、ありがとう。楽しみにしてるね!」
とは言え、元の世界に戻る日が来るとしても、まだまだ先のような気がしていた。なんの
けれどルークとの別れは、思っていたよりもずっと早くやってくることになる。