一章③

 そうして、わたしは西燕国の王宮にい戻った。内界と各国は、みずかがみと言われるとくしゆな道で、いつしゆんで行き来ができる。水鏡を通って出るとそこは西燕国の神子の宮だった。今世初めて来た場所は、おくと全く変わっていなかった。

れい、急な呼び出しにもかかわらず、ありがとうございます」

 一人、出迎える者がいた。王宮に留まる可能性があるなら、初めから神子として会いに行く方が後々都合がいい。それならば筆頭神子に話を通しておいた方がいいだろうと蛍火が事前にれんらくをして、待ってもらっていたのだ。

 蛍火が声をかけ、待っていた神子が顔を上げる。長いくろかみれ、明らかになった顔は無表情だった。黒に限りなく近いこんいろひとみもまた、感情の読みにくいまなしをしていた。

「蛍火様、一人、この国付きの神子を増やしたいとのことでしたが」

「ええそうです。心配せずとも、役立たずの増員はしませんよ」

 もう少し良い言い方があるだろう、と思っていると、蛍火の手がわたしを示し、瑠黎がわたしを見た。瞬間、瑠黎は息をんだ。表情のとぼしい真面目まじめな顔がきようがくに染まり、目が大きく見開かれる。

「睡、蓮様……?」

 瑠黎もまた、外見は蛍火と同じくらいのとしごろに見えるが、すでに二百年以上を生きる神子だ。前世では内界で何度か会ったことがある。

「ご本人です。理由は不明ですが、記憶をお持ちのまま再びお生まれになりました」

「久しぶり、瑠黎」

 わたしの声を聞き、瑠黎はわれに返った様子で流れるようにひざをついた。

「お久しぶりです、睡蓮様」

「ちょっと、瑠黎まで?」

 瑠黎も自然に最敬礼をするものだから止めるひまがない。蛍火のときと同じように立ってとうながすが、こちらは中々立ち上がろうとしてくれない。

「瑠黎、これからわたしがあなたの部下になるんだから」

「部下……?」

 無表情に戻った瑠黎は声だけげんそうにする。

「増員の神子は彼女です」

「は?」

 瑠黎も「は?」とか言うのだな、とわたしは場違いなことを思った。




「花鈴様も蛍火様もご存じかとは思いますが、陛下の私室へ案内させていただきます」

 あの後おどろきすぎて固まってしまった瑠黎に、今世のわたしは花鈴という名前で新王の姉であること、弟の様子を見に来たことを明かし、ようやく落ち着いたところで王宮を案内してもらっていた。にせの神子であることは知らせていない。そういつたんどころか大部分をになってくれている蛍火のためにも、それだけは瑠黎にもばれないようにしなければならない。

「私室にご案内しますが、少し待っていただくことになるかもしれません」

「どうして?」

 たずねるけれど、瑠黎はそれきり口ごもる。

「瑠黎?」

 何かを躊躇ためらうような様子に首を傾げる。新王の姉であるわたしに言いにくいことなのか。

 そういえば、とわたしは正門の前で衛兵が気になることを言っていたと思い出す。蛍火と再会したり一気に色々なことが起こって頭のすみに置かれていたけれど、あれが本当なら。

「また新王がしつそうしたらしい」

 そのとき、後ろからそんな声が聞こえてきた。新王という単語に、わたしは歩みをゆるめて、前を向いたまま耳をませる。

「ただでさえたよりないと思っていたが、ますます先行きが不安だ」

「先代王の時代のり返しにだってなりかねない。その前は千年も時代が続いたというのに……」

「そもそも百年りの王だ。苦しまぎれに選ばれたのではないか?」

 後ろを横切ったのは、文官のようだった。やっぱり新王に対するよくない評判はしんとうしているようだ。瑠黎はわたしの問いかけるような視線に、ようやく重い口を開いた。

「実は、陛下はよく部屋からいなくなられるのです。そのたびにもちろんさがすのですが、今日はまだ見つかっていません」

「自分で、部屋をけ出していなくなっているということ?」

 はい、と瑠黎は歯切れ悪く言う。

 勉強がいやになったから、王になるのが嫌だから、とかげ出す理由として思いつくのはこんなところだ。けれど雪那のことをよく知っているからこそ分からない。雪那は元々役人を目指すくらい勤勉で、いつも周りをづかっていたやさしい子だ。そんな彼がそう簡単に物事を投げ出すだろうか。

「瑠黎、新王の評判はいささかんばしくないようですね」

 蛍火が、先ほどの臣下たちの会話を示して、瑠黎に尋ねる。

「はい。陛下の度々の失踪でさらに悪くなった点はいなめませんが、最初から多くの臣下たちの期待値は低い方でした」

「最初から? 何もしないうちから? 『初対面』から?」

 わたしの食い気味な問いに、瑠黎は「はい」とうなずく。

 弟が逃げ出したくなる理由はそれだ、と思った。わたしの不安はゆうではなかった。一刻も早く弟に会って、きしめて、もうこの王宮で一人ぼっちではないと言ってあげたい。

「わたしも捜す」

「今女官達が捜していますので、お待ちいただければ……」

「瑠黎、人手が増えるのですからいいでしょう」

 わたしを止めようとした瑠黎を、蛍火が制した。そのままどうぞと促されたので、わたしは頷いてその場をはなれた。

 部屋で待ってなんていられない。足早に私室へ向かうろうから離れ、弟を捜し始めた。とりあえず周辺の部屋を隅までのぞいてみるものの、ありきたりな場所はすでに捜されているはずだ。

 弟はもう十五だが、幼い頃は一人になりたくなると、物が乱雑に置かれた物置によくかくれていたのを思い出す。そんな弟が泣き出す前に見つけるのがわたしの仕事だった。そんな子がこの王宮で隠れそうな場所はどこだろうか。王宮内には空き部屋はあっても物置部屋なんてないし……。考え込んでいたわたしは、はっと顔を上げた。



 王宮の図書室の一角に、不要なものしか置かれていないため司書すらもめつに立ち入らないせまい部屋がある。

 部屋のとびらを静かに開けると、ほこりっぽい空気に包まれてせき込みそうになった。室内には背の高いたなが右と左両方にあり、古い本ばかりか不要品も雑にめられている。

 だれも来ない部屋の空気、せいじやく、この部屋にけ込んだときの苦しさとあんを思い出す。

 大きな木にしげる葉で外から室内はうかがえず、天気のいい日はれ日が差し込む。大雨が降ればあまつぶが窓をたたく音がして、室内がひんやりする。

 今日はどんよりとくもっているため日の光もろくに入り込まない。うすぐらい部屋の隅のゆかに、彼は膝に顔をうずめて座っていた。男性としてはまだきやしやな体つき、首筋を隠すくらいの長さの黒髪から細い首が覗いている。

「雪那」

 名前を呼ぶと、かたが小さくふるえた。声に反応して上げられた顔は細いと言うよりやつれていて、わたしは表情をゆがめそうになる。

「姉さん……?」

 弟に歩み寄りそっと顔にれると、雪那は信じられないというように、黄色の目でわたしを見上げる。

「どうして、ここにいるの。簡単に入って来られるような場所じゃないでしょ……? 僕が、姉さんに会えないか聞いても、身分が低いからだって言われた」

「そうね、わたしも同じことを言われて困ってたら、ぐうぜん会った神子に素質があるって言われて神子になれたから会いに来られたの」

 雪那は、そのとき初めて姉が神子のかつこうをしていると気がついたようだ。わたしの青いしようぞく姿をまじまじと見て、「神子に……?」と今度はまどったような表情をかべる。

「姉さん、神子になったの……?」

「そうよ。雪那に会いに来たの」

 その一言で、雪那の目に浮かんでいた驚きと戸惑いが、けていくようなさつかくを覚えた。

「もう、一生、会えないかと思った」

 張りつめていた糸が切れたように、雪那は力なく笑い、うでを広げた。わたしも腕を広げてむかえ入れ、きしめ返した。久しぶりに会った弟は、一年前に背を抜かされたはずなのに、小さく思えた。

 もう幼い頃のように、雪那が自分から抱きついてくることはなくなっていた。ずいぶん久しぶりのほうようと、力ない笑いは喜べたものではなく、弟がそこまで追い詰められていたことに悲しい気持ちになって、強く抱きしめた。

 しばらくして抱擁を解き、雪那とながに座り「ところで雪那」と現状を聞こうとした。

「僕がこんなところにいる理由? ここに来たっていうことは、僕が部屋からいなくなっていることを聞いて捜しに来たんだよね」

 雪那は力ない微笑ほほえみのままで、わたしが聞く前に質問の内容を当てて見せた。

「そうよ。ひんぱんに部屋を抜け出していなくなると聞いたけど、どうして?」

 責める気はない。ただ心配なのだ。どれだけ雪那の気持ちを考えても、それはおくそくに過ぎないから、本人の口から心の内を聞きたい。優しく聞くと、雪那のひとみかげる。

「姉さん、僕は、王になりたくないよ。……いや、なれないよ」

 予想はしていたけれど、弟の後ろ向きな言葉と様子をの当たりにして、わたしは少しだけ驚いた。と言うのも、雪那は向上心が高く、となりまちの小さな学校でいつも一番の成績を収めていた。ゆくゆくはもっと大きな町の学校にという考えを、彼自身から聞いていたほどだった。

「どうしてなれない、なんて言うの? 雪那は役人になるための勉強をしていたじゃない。知識が足りなくても、これから勉強すればなれないなんてことはないわ」

「最初は、がんっていたよ。王に選ばれたときは戸惑ったけれど、僕がやるべきことは一つだ。戸惑うひまがあるなら学ばなければいけない。そくするまでに、少しでもみなの期待にこたえるために」

 そうだ。弟はそんな子だ。だから、後ろ向きなのには理由がある。

 でもね、と雪那はそのときを思い出したような暗い目になった。

「日がつにつれて、かんいだいて、ある日周りの目の意味に気がついたんだ。皆、農民のくせに、っていう目をしているんだ。村にいた役人がよくそんな目をしていた。臣下たちは、僕が農民出身だから期待していないんだ。誰も僕を望んでいない。……部屋を抜け出して歩いていると彼らが僕に気がつかずに話していたんだ。僕は千年王のような王にはほど遠くて、どうせ同じ農民出身だった先代王のようにしかなれないだろうって。皆、百年りの王が農民でらくたんしている」

 雪那は、もうわたしを見ていなかった。欠片かけらもない胸の内をじっと聞いていたわたしは、思わず雪那が口にしたある単語を繰り返してしまう。

「千年王」

 心臓がどくりと鳴った。表情も少しこわったかもしれないけれど、雪那は床を見つめたまま気がつかず「そう」と頷く。

「姉さんも知ってるよね。この国を千年にわたって治めた伝説の王だ」

 神に選ばれた各国の王は、神より不老性をさずけられ、理論上はいつまでも国を治め続けることが可能だった。しかし人の王は、人ゆえにたびたび道をみ外す。欲におぼれ、悪政を行い、その度にたみの反乱、臣の裏切りにってきた。

 けれど二百年前までこの国を治めていた千年王だけはちがう。どの国も長くて七百年という記録しかない中、治世千年の記録を作りながらも、神にただ一人王位の返上を許され自害したと伝わっている。その王の築いた時代は千年王国と呼ばれ、他国にも伝説の一時代ととどろいているという。

「歴史にくわしくなくても、誰もが知っているらしい時代。この国のほこりで、理想の時代だよ。政策だけでなく、その王の神秘の力はこの国の大地を豊かにした。臣下たちはそのかがやかしい時代と千年王のような王の再来を望んでいるんだ」

 王の持つ神秘の力は、神子のそれよりはるかに大きい代わりに国にそんする。国の中であればいつしゆんで移動でき、大地を豊かにする。王は国そのものなのだ。

「僕なんか、見てもらえないはずだ。僕自身そのようになれるとは思えないし、千年どころか、即位前から望まれていない身分の僕が王になるべきじゃないよ」

「それは違うわ。千年王も元は農民だったのよ」

 あまり知られていないことだけれど、と付け加えたわたしの言葉に、雪那は「本当に?」と信じられないことでも聞いたような反応を見せた。

「……いや、たとえ本当だとしても、僕にはその王のような素質があるはずがないよ」

 雪那はまた自らをし、うつむいた。

「雪那……」

 そんな弟の様子に、わたしはくちびるむ。

 二百年の時をて復活している身分差別と、前世のわたしの時代に複雑な思いを抱いている弟のねんき飛ばしたい。はげましたいのに、すぐに言葉が出てこない。

 でも、何も言わないわけにはいかない。雪那をどうにか前向きにさせなければ、彼を待つのは暗い未来だ。王は自ら王をめることも死ぬこともできない。王を辞められるのは民にたれて死ぬときのみ。千年王は特例だ。

 雪那は今、出身から立派な王にはなれないと思わされている。何を言えば今の雪那の心にひびくだろう? わたしが知っている中で理想の王と言えば、例えば『彼』のような──。

「……雪那、恒月国の王が今治世何年なのか知っている?」

 蛍火が、紫苑がまだ生きている、と言っていたことを思い出した。そして、わたし自身が今世で少しだけ耳にしたりんごくの王の評判を。

「うん。もう六百年以上になる。恒月国王も、長い時代を築いている王だ」

「じゃあ、彼が王になる前は商人であったと知っている?」

「え……?」と雪那が顔を上げた。おどろいている。

 恒月国は、先代の王が恒月国史上最悪の王と呼ばれ、最悪の時代を作ったと言われている。今の王が立ったときには、国土はちつじよも何もなかった。そんな状態の国を立て直したごうけつと呼ばれる彼もまた、六百年経った今では、元の身分など自国の民にすら伝わっていないだろう。

「商人も平民よ。職業的な地位はこの国でも恒月国でもあまり変わらなくて、決して高いとは言えないし、政治にかかわる職業じゃない」

 でも、恒月国は今なお時代のぜんせいにある。雪那に必要な生きた実例だと言えた。

「問題は生まれや身分ではないわ。どんな国にしたいのかという将来像が頭にあって、そのためにどれだけ努力できるかよ。政治経験や知識のある貴族出身であっても数年でほうぎよした王は過去に多くいる」

 もちろん、生まれや身分で最初の苦労の度合いは異なるだろう。けれど、長い時代を築くなら、最初のそんな期間は誤差のようなものだ。最も重要な点は、知識の先にある。

「雪那は、この国をどんな国にしたい?」

 問うと、雪那は困った顔をした。何とか答えようと考えているのが側から見ていて分かるが、口を開く様子はない。

「じゃあ、どうして役人になろうと思ったの?」

 わたしは質問を変えた。雪那は元々役人を目指していた。自分から言い出したことなのだから、理由があるはずだ。すると雪那は今度は少しだけ間をおいて、口を開いた。

「姉さんや、生まれ育った村の人たちが幸せに暮らせるようにと思って。……村に来る役人が、村の人たちに身勝手をしていたのを見てきたから。僕でも、大きな学校に行って良い成績を収めれば役人になることができる。だから、僕は役人になって、皆がじんな目に遭わずに暮らせるようにしたかった」

 言ってから、「でも、これは役人になるために思っていたことであって、王様は同じじゃいけないでしょ?」と小さな声で言う。

「最初はそれでもいいわよ。国に暮らしている人の事を思っているのは同じでしょ?」

 わたしは、少しでも不安をぬぐえるよう、雪那に微笑みかけた。

 神子になって聞いた秘密のことだと言い置いて、わたしは雪那に言う。

「西燕国ではここまで三代続けて農民が王に選ばれていると知っている? そう、千年王もふくめて。これはぐうぜんではなくて、そのとき国に必要な素質を持つ人が王に選ばれるの。だから──農民生まれの雪那にしかできないことがあるから、選ばれたのよ」

「僕にしか、できないこと……?」

 わたしは、雪那が役人を目指していた理由を聞いて、そんな考えを持つ彼だから王に選ばれたのかもしれないと思っていた。雪那は昔から周りの人をよく見ている。人のためにいつしようけんめいになれる弟に誇らしさを覚えたほどだ。けれど一方で、懸念が生まれた。

 ずっとその考え方でいるのは、だ。弟の手前、顔が強張るのをこらえたけれど胸が苦しくなる。弟の考えを否定したいのではない。けれどこのままでは雪那のためにならない。

 家族は、いつまでもこの世にいてくれはしない。

 王は、通常の人間とは異なる時間を生きるどくな存在だ。たった一人だけ、はんりよと望む者がいれば、そくの際に受け取る特別な指輪によって死ぬまで共に生きる存在を得られるけれど、雪那に今後そういう人が絶対現れるとは言い切れない。

 だから家族のために、知る人のためにと、身近な人間を心の支えにすると、彼らがいなくなったときに、大きなそうしつかんとらわれることになる。

 村の人たちはやがて死んでしまう。神子になる資格のないわたしも、百年と経たない間に死んでしまう。雪那とずっといつしよにいることはできないのだ。そうして雪那が王として心の支えにしている人間が皆死んでしまったあと、雪那は苦しむことになる。

 かつてのわたしがそうだったように。

「まだ、雪那は本当の評価を受けていないんだから、これから認めさせてやりましょう」

 雪那の目を真っぐ見て言うと、雪那はひかえめにうなずいた。

 雪那が出身や身分に対するへんけんを吹き飛ばすくらいの王になるために、この三年で何ができるだろう。そばにいることも、知識の面でさりげなく助けることもできる。でも根本的なところが問題だ。

 どうすれば、雪那に自信を持ってもらえるだろう。今、わたしの言葉はこの子の心にどれくらい響いただろう。きっと、『姉が言った言葉』以上の効果はない。わたしはもう王ではなく、王であった前世を明かすつもりもない。何より雪那と同じようになやみながらもだつきやくできなかった自分に何が言えるのか。

 わたしより、そう、紫苑のような王の言葉がきっと今の雪那には必要なのだ。

『言いたいやつには言わせておく。俺がこの国を良くすれば、文句もないだろう』

 即位当初、わたしとは異なる理由から王宮内に味方が少なかった彼は言った。

 雪那が真っ直ぐ前を向いて歩いていくためには、味方もみちしるべも足りない。道標にはなれなくても、わたしがせめて側で守ってあげなければと、不安が消えない弟の目を見つめて決意を固めた。



 雪那と部屋にもどった後、わたしは神子の宮の内界につながる水鏡の前で蛍火と向き合っていた。

 蛍火は、弟が本当に助けが必要なじようきようだったら、わたしを三年限定で西燕国の国付きの神子にしてくれると言った。国付きの神子は、王の在位中に辞めることもあるから、三年後に役目を辞したところで不自然ではない。

 答えはもう決まっている。

「蛍火、わたし、三年力をくすわ」

 しんけんな目で言うわたしに、蛍火は無言で何かを差し出した。持ち運びできるくらいの小さな手鏡だった。「これは?」と受け取りながらたずねる。

「私の力で内界と繋がるようにしてあります。移動用ではなく、れんらく用です。定期的に状況報告をお願いします。何かあったときもこれに呼びかけていただければ、私に声が届きます。決して無理はせずきんきゆう時は迷わず連絡してください」

 水鏡を通りけるぎわ、なぜかもう一度り返ってから、蛍火は内界に戻った。

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