【レビュー】文学少年とギャルの異文化交流――きっかけは宮沢賢治!? 異色の青春文学ラブコメ登場!

【新作ラノベ先読み感想文レビュー】
今回はファンタジア文庫から9月20日に刊行された『ギャルにも負ケズ』です。みなさんの感想も聞かせてください!


 もしも岩手に暮らす宮沢賢治大好き少年が東京から来たギャルと出会ったら?

 文学少年にとってギャルはまぶしすぎて近寄りがたい存在だし、ギャルにとっても田舎の文学少年が視野に入るはずがない! だから話はこれで終わり……かと思ったら、渋沢美鐘というギャルの方から文学少年の遠谷幸文に話しかけてくれるのが本作の嬉しいポイント。おまけに幸文が貸した賢治の『銀河鉄道の夜』を読んでそのまま文芸部に入りたいと言い出したから2度ビックリなわけで。宮沢賢治はギャルにも届く? いやいや、もしかしたら文芸部の部室に隠されている高価な賢治の初版本を狙っているのかもしれない……って、それはビブリオミステリの読み過ぎか。
 実際は、普通に『銀河鉄道の夜』に惹かれるところがあったみたい。ギャルが宮沢賢治好きで悪いなんてことはない訳で、ギャルというのは~と見た目や属性でアレコレ決めつけるのはいけないと言われた気になった。宮澤賢治を「ミヤケン」と呼ぶあたりはやっぱりギャルという感じだけど。

 ただ、美鐘がどうして『銀河鉄道の夜』に惹かれたのかが分かってくるにつれて、せっかく仲良くなれた美鐘と幸文の幸せそうな雰囲気に、暗い陰のようなものが漂っていき、甘いだけのラブコメじゃなく思春期のビターな葛藤を詰め込んだ青春ストーリーが顔を覗かせてくる。賢治が『銀河鉄道の夜』の中で使う「ほんとうのさいわい」が、得られないからこそ望む夢ではなく、実体をもったものになって欲しいと言いたくなる。

 読んだら宮澤賢治が読んでみたくなる。ギャルのことも怖がらないでもうちょっと知ってみようと思えてくる。何よりこれからどう生きようかと迷っている気持ちに、進む道を決めるきっかけをくれる。そんな作品だと思えた。


文:タニグチリウイチ

ざっくり言うとこんな作品

1)岩手の自然豊かな高校に通う宮沢賢治大好き男子が、東京から転校して来たバリバリのギャルに興味を持たれるところから始まる、異文化コミュニケーションなラブコメ!

2)なぜか文芸部に入ってくれたギャルといっしょに宮沢賢治ゆかりの場所を巡礼。文学少年にとって夢のような時間が描かれ、羨ましさと微笑ましさが最高潮に!?

3)『銀河鉄道の夜』がギャルの心を引きつけた理由を糸口に、宮沢賢治が作品に込めたいろいろな思いについて考えてみたくなる奥深いストーリー。

主要キャラ紹介

渋沢美鐘(しぶさわ みかね)
東京から転校してきた高校一年生の女子で見るからにギャルといった雰囲気だが、『銀河鉄道の夜』に興味を示し文芸部に入部する。


遠谷幸文(とおや ゆきふみ)
地元の岩手が生んだ作家、宮沢賢治のことが大好きな男子高校生。ひとりしかいない文芸部の部長も務める。ギャルに憧れる妹がいる。

作品情報
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    ギャルにも負ケズ

    著者: 早月 やたか   イラスト: magako

    静かな日常が、ギャルに乱される。いや、まぁ、迷惑ですけどね…(嬉)?

    僕……遠谷幸文は、高校でひとり文芸部の部長を務めている。
    どんな活動をしてるのかって? 例えば……敬愛する宮沢賢治先生の著書を読んだり、活発に活動……嘘です、部屋にこもって本を読んでいるだけです(泣)。
    そんな平和な文芸部に、東京から転校してきたギャル、渋沢美鐘が入部してきた。
    なんで? どうして? 全然そういうキャラじゃなくない? 
    その日から文芸部は、賢治先生の足跡を追って岩手を走り回ったり、「ほんとうのさいわい」を探してみたりと、彼女のペースに巻き込まれて変わっていくのでした。
    ちょっと待って(嬉)! 平和な毎日を返して(嘘)! 
    転校生×文学×恋心=新しい青春小説の開幕!

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