第4話 慣れないこと、苦手なこと

 転校したてのはやにはまだまだ慣れないことも多い。

 つきの田舎と違って登校中にトラクターとすれ違うこともなければ、校庭に鹿や猪がやってくることもない。教室だって満席だ。

 それは、体育の授業にいても同じだった。

「ボールそっちに行ったぞ!」

「うそだろ、そこから間に合うのかよ!」

「でもフェイントには面白いほど引っかかるけどな!」

「……くっ!」

 この日は隣のクラスと合同で、男女別でいくつかのグループを作り、各種球技が行われていた。

 ちなみに隼人のグループはサッカーである。

 田舎の畑仕事で鍛えられた身体能力は同世代の中でも抜きん出ており、周囲を大きく驚かせた。

 そしてあらゆるフェイントやテクニックに面白いほどほんろうされる姿をさらし、周囲を二重に驚かせる。

 周囲はそんな転校生を、笑いと共に温かく迎え入れるのであった。

「おつかれ、きりしま。まぁそのなんだ、色々すごいな、お前……くくっ!」

「うるせぇ、今日が初めてだったんだよ、もり月野瀬むこうじゃ球技できるほど人が居なかったんだよ……」

「ははぁ、なるほどそれで……うん?」

「うん? なんだあれ?」

 わああぁぁっという、突如大きな歓声が、体育館の方から聞こえてきた。

 グラウンドに体育館、そのスペースは有限だ。全員が一度に試合を行うことはできず、半数は見学となる。その見学のハズの大半が体育館に群がっているようだった。

 祭りのに集まる数以上の人が、一体何を見ているのかと、隼人の興味を強く引く。

「あぁ、勝利の女神が降臨したか」

「勝利の女神?」

 隼人は森に促されるまま体育館に向かう。

 そこには宙空をける女神のような──隼人主観によればがいた。

「どうしてそこにいるの!?」

「滞空時間長すぎ、本当に飛んでるんじゃ!?」

「ボールはなるべくかいどうさんに回して!」

「あれって、マークが常に3人はついてるよね!?」

 それは女子のバスケの試合だった。

 1人の少女を中心として攻防目まぐるしく変わる様相は、手に汗を握ってしまう。

 彼女はボールと共にコート内を縦横無尽に翔け回り、ひとところに落ち着いていない。

 人間離れした脚力と体力で相手チームを翻弄する様は、まるで木から木へと飛び移る猿さながら。

 この試合の面白いところは、はるだけが目立っているわけじゃないというところだ。

 聞こえてくる声援を拾うと、どうやら相手は万年1回戦敗退の弱小とはいえ、半数を女子バスケ部員で固めているらしい。春希の活躍が目立つ分、それを押さえ込み一進一退の試合を展開させる彼女たちのチームプレイの巧みさが際立っていた。

 思わず見入ってしまう──そんな試合だった。

 そして隼人にはこの試合に強烈な既視感があった。

(魅せプ……あいつ、遊んでるな)

 春希は昔からゲームだけでなく、川に飛び込む時、塀を飛び越える時、拾った棒を振り回す時、妙にかつこうを付ける癖があった。

 今だって相手のチームが息を相当荒らげているにもかかわらず、春希には余裕があるのか涼しげな顔。思わずけんしわが寄り、変なため息が出てしまう。

「はぁ……やっぱり二階堂は凄いよな、霧島」

「はぁ……そうだな、全くもって凄いと思うよ、森」

「バスケもそうだけど、アレも凄いよな」

「アレ?」

 どういう意味だと森の顔を見てみれば、締まりのないだらしない顔を晒していた。

 ちょっと視線をずらしてみれば、似たような表情の男子があふれている。

 いぶかし気に彼らの視線を辿たどっていけば、ある一点に行きついてしまう。

「っ!?」

「な、すごいだろ?」

「や、な、あの、その」

 春希の胸だった。おっぱいだった。

 周囲と比べて特別大きいというわけではない。

 しかしコートを所狭しと翔け回る春希の運動量は、他の追随を許さない。

 ばいんばいんと縦に揺れ、ゆさゆさゆさっと横に行く。時にボールと共にフェイントをかけながら、ぐいんと大きく弧を描く。

「あれはまさにアートやでぇ」

 森の感心したようにささやく言葉に、まるで同意するかのようにゴクリとのどを鳴らす。

 大きさこそは標準レベルかそれ以下だが、しなやかに健康的に動くそれは、十分に異性を意識させられるものである。

(おいおいダメだろ、相手は春希だぞ!?)

 頭では必死にそう自分に言い聞かせるのだが、悲しいかな隼人も思春期男子、一度そのことに気付いてしまうと、どうしたってチラチラと見てしまう。注目しようとして──

「──」

「っ!」

 その時、突如シュートを決めた春希が、隼人の視線に気付く。一瞬だけ、『どんなもんよ!』と言いたげなドヤ顔で微笑んだ。余りに絶妙なタイミングであった。

(見てたのバレた!? いやバレてないよな!?)

 そんな相反する考えがぐるぐると頭の中を駆け巡り、どんどん顔は熱くなっていく。

 この場に居るのは限界だった。

「ん、どこに行くんだ霧島?」

「あーそのほら、俺、田舎者だからさ、人混みに酔っちゃって」

「そうか、もったいねぇ」

「は、ははっ……」

 ふらふらと体育館を後にする。暑さのせいもあって、頭がで上がっているようだった。

 冷えろとばかりに、蛇口の下に頭をすべらせ栓をひねる。

 水音に交じって相変わらずの歓声が背中をたたく。

 それがなんだか、いらちにも似た感情を刺激していた。

「あぁ、くそっ!」

 春希に振り回されているのは確かだった。やけくそ気味に水をかぶり続ける。

 まだまだ慣れないことが多いようだ。


 昼休み。例の秘密基地。

 春希はドヤ顔で、先のバスケの試合のことを誇っていた。

「どうだった、ボクの活躍は? ボクもなかなかにやるもんでしょ!」

「……そうだな」

 対する隼人は、ブスーッとした表情で聞き流しているかのような態度である。

 実は春希は、隼人がサッカーで面白いくらいフェイントやテクニックに翻弄されているところをしっかりと観察していたのだった。そのこともあって、だから隼人は悔しいからそんな態度を取っているのだと思い、ますます得意げな顔になって増長していく。

 しかし隼人の事情は違う。何かの切っ掛けで先ほどのことを思い出すと、春希を強く異性と意識してしまいそうになっていた。

「で」

「で?」

「試合、どうだった? 俺、最後まで見てなくて」

「惜しかったけど敗けちゃった。隼人はどっちを応援した?」

「……」

「……」

 質問に質問で返されてしまう。その悪戯いたずらっぽい顔は、明らかに隼人を揶揄からかって遊んでいるのがわかる。

 今の春希は体育で身体が火照っているのか、靴下どころかサマーニットまで脱いでおり、ブラウスの胸元も緩めてパタパタと手で風を送り込んでいる。

 ある意味せんじよう的な姿ではあるのだが、同時に他の誰かに見せられないような残念な姿でもある。隼人の前でだけ見せる姿だった。

(ま、春希らしいか)

 そう思うと、なんだか意識するのがバカバカしくなっていた。

 眉間の皺もほぐされていく。

「もう、聞いてる?」

「はいはい、俺の負けだ、負ーけ。春希には敵わねぇよ」

「お、やっと認めたね。これはもうボクに貸し1でいいんじゃないかな?」

「何の貸しだ」

「どっちが皆を盛り上げたか勝負?」

「盛り上げって……ったく、大しただよ」

「……………………役者、か」

「……春希?」

 突然、春希のまとう空気が変わった。

 先ほどまでのはしゃぐような軽さは吹き飛び、重々しいものに取って代わられる。

 その顔は笑みを浮かべているものの、何かの痛みをこらえるかのように沈痛だ。見ている方が心苦しくなる。

 隼人はどうしてこうなったかはわからない。ただ事実として、何かの地雷を踏み抜いたのだと理解し、動揺してしまう。

「……隼人ってさ、ボクと全然違うよね」

「なっ、ちょっ、春希!?」

 ふと、浮かべる笑みの質を変えたかと思うと、まるで獲物を狙う獣のように四つんいになって隼人の下へとにじり寄る。

 そして、トンと隼人の胸に手を置いたかと思うと、何かを確認するかのようになまめかしく指を動かした。

「ここ、すっごく硬いね……筋肉かな、鍛えてる? それとも男の子だから? 昔はボクとそんなに変わらなかったのにね」

「や、やめてくれ春希……っ!」

「どうして?」

「ど、どうもこうもないだろう……っ!」

 隼人の顔は、春希の指先のせいで真っ赤になっていた。

 そのしなやかで柔らかい指は、それぞれが意思をもっているかのように独立した動きで胸をなぞり、時にシャツの間から中に侵入して素肌をまさぐる。

 未知の刺激を与えてくるおさなじみの指の動きに、隼人はもはや耐えられようはずがなかった。

「くすぐったいんだよ、やめてくれ!」

「あんっ!」

 春希を強引に引きはがした隼人は、目に涙を浮かべながら恨みがましくねめつける。

 その春希はと言えば、大きく目を2~3回ぱちくりさせたと思ったら、プフッと笑いを噴出した。

「あは、ごめんごめん! そんなにくすぐったかったんだ?」

「勘弁してくれ」

「だって、ねぇ……隼人はさ、こうやって演技して皆をだましてることをさ、どう思う?」

「どうも。春希だなぁって思うだけだ」

「……そっか」

 そう言って目を細めた春希は、この話はもうおしまいとばかりにお昼を取り出した。

 いつもと同じゼリー飲料と、今日はおにぎりのようである。ここ最近観察したところ、どうやらサンドイッチとローテーションらしい。

 それに倣って、隼人も弁当を取り出した。

「そうだ、おびに一口分けてあげようか? ゼリー飲料がいい? それともおにぎり?」

「要らねぇよ、自分のあるし。春希、それいつも飲んでるな?」

「手軽に栄養補給できるしねー」

「コンビニか?」

「うん、毎朝寄ってる。そういや隼人っていつもお弁当……て、うわ、なにそれ!?」

「何って……ライスコロッケだが」

 隼人の弁当の中には、握りこぶし大のライスコロッケばかりが4こ鎮座していた。他におかずは何もなく、春希が驚くのも無理はない。ただ、ボリュームだけはありそうだ。

 これは、今日は体育があるからと前日から仕込んでいたものである。

 みじん切りにした玉ねぎ、ナス、そして一口大に切ったベーコンをいため、余った冷や飯を入れて塩コショウとケチャップで味を調えていく。ラップを使ってちやきんしぼりの要領で成形し、中にチーズを入れるのも忘れない。

 小麦粉、溶き卵、パン粉の順番で化粧を施し、サラダ油が浸る程度のフライパンの上で転がして揚げれば完成である。

 ちなみにひめには「お米で揚げ物なんてカロリーが! あたしを太らせる気!?」とお𠮟りを受けていたりした。姫子はそう言ったものの、ちゃっかり3個持っていっていたりもする。

「そのおにぎり半分とトレードしようか?」

「いいの!?」

「ほれ」

「じゃあボクも」

 ふたの上にライスコロッケを置いて差し出せば、代わりとばかりに空いたスペースにおにぎりを詰め込まれた。

「あ、おはし

「いいよ、づかみで……ん~~~、んまっ! 濃いめの味付けが体育後にはたまらないし、チーズもいいね! これ、どこのやつ? 冷凍?」

「俺が作った」

「隼人が!?」

「なんだよ、意外か?」

「うん……」

 またも驚いた顔を作った春希は、まじまじと隼人の顔を観察する。その目は、ちょっと信じられないなと言いたそうな色だった。

「もしかして今までのお弁当も隼人が?」

「おう、俺だ」

「……やっぱり7年って、すっごく長い時間なんだね」

「春希──」

 どこか困った様な笑顔でそうつぶやく。

 隼人はそんな春希に何か言おうとしたけれど──しかし言葉が何も出てこず、息を詰まらせてしまう。

「ん、早く食べちゃおう。お昼、終わっちゃう」

「そう、だな……」

 しかしそれも一瞬の出来事、すぐさま元の、悪戯っぽい人好きのする笑顔に戻っていた。

 何かが心に引っかかり、誤魔化すように窓の外を見る。

 初夏の空は、憎らしいくらい真っ青だった。


    ◇◇◇


 引っ越してきて以来、色々と慣れぬことに戸惑うことが多い隼人であるが、どうやら世の中にはいつまで経っても慣れないというものがあるらしい。

(あれは……)

 その日の放課後、春希はきゃいきゃいと騒ぐ女子のグループに捕まっていた。

「ねね、今ドラマでやってる十年の孤独、見てる?」

「見てる見てる! 女優のくらってうちらの親世代って信じられないよね」

「どう見てもお姉さんって感じで……そういやさ、近くで撮影してるんだっけ?」

「うそーっ!? あ、そういえばうちのクラスのつるさんがD組のかねみやくんにドラマ撮影どうこう言いながら誘ってた気がする!」

「ちょっとまって! あの2人最近仲良かったけど、そういうこと!?」

「うひゃー、これはこれは。ね、二階堂さんはどう思う?」

「あのその、私は……」

 どうやら話題のドラマの話からどこそこの誰と誰との関係が怪しいなどといった恋バナに巻き込まれているようだ。

 それだけならさして珍しい話というわけではないのだが、どうにも春希の様子がおかしい。いつものように静かな笑みを浮かべてあいづちを打っているがしかし、どこか居心地悪そうにしている。

 隼人は、春希ってあの手の話が苦手そうだなと、くつくつとのどを鳴らしながら観察する。

 そんな揶揄からかい混じりの目で見ていると妙に春希の顔色が悪いことに気付いた。あおめていると言っていい。わけがわからなかった。かといって別に体調が悪いというわけでも無さそうである。そのさいな変化は隼人だからこそ気付けたものだった。

 何が春希をそうさせているのかはわからない。しかし気付いた以上は無視することもできない。

「二階堂、ほら廊下、何か呼ばれているぞ」

「……え?」

「よほど慌ててたのか、の方を指して去っていったぞ。急いだ方がいいんじゃないか?」

「……あ、はい! そうですね!」

 そう言って隼人が意味ありげに片目をつむれば、色々察した春希は慌てて荷物を纏めて席を立つ。

「すいません、用事ができましたのでこれで!」

 二階堂春希は優等生だ。誰かに何かを頼まれるのは珍しいことではない。

 事実、春希を囲んでいた女子たちも別段気にすることなく「じゃあね~」「頑張って~」といった声を掛けて見送っている。それらを見て隼人も席を立ち、旧校舎資料置き場にある一室、秘密基地へと向かっていった。


「助かったよ、隼人」

「別に」

 隼人が少し遅れて顔を出せば、壁際でぐったりとした様子でひざを抱える春希の姿が出迎えた。どうやら正しく隼人の意図をみ取ってくれたらしい。

 春希はぺしぺしと自分の隣の床をたたく。確かに手伝いというていで抜け出してきたのだ、すぐさま帰るわけにもいかないだろう。

 隼人はこのまま春希を1人にするのは気が引けることもあり、隣に座る。それを抜きにしても、どこか弱ったような顔を見せる春希を放っておけるはずもない。

 そして隼人が座ると同時に、春希はこれ見よがしに大きなため息を吐いた。

「はぁ、どうして女子ってこう、誰がれたれたとかいう話が好きなんだろうね……」

「そりゃ、女子だからじゃないのか? 姫子もそういう番組にかじり付いてるし」

「あはは、ひめちゃんもかぁ。ボクとしてはどの男優と女優の相性よりもどのキャラと機体の相性とかの話の方が好きだし、どの組の誰と誰の関係が怪しいとかよりも、あのゲームプロデューサーが新規で人員募集していたり開発班が異動して動きが怪しいといった話の方が好き、なんだけど……」

「……なんだけど? そういう話が好きそうなやつもいるんじゃないのか?」

「あはは、そういうの好きなのって大抵男子でしょ? そのね、中学のころ変な勘違いさせちゃったというか、その……」

「……ぶふっ!」

「は、隼人ーっ!? もう、他人ひとごとだと思って! それ以来、話しかける相手にも気を遣うようになったんだからね!」

「ごめ、いて、って背中叩きすぎ! ……そうか、モテる二階堂さんも大変なんだな」

「……そうだよ、大変だよ」

 春希は抱えた膝に顔をうずめ、その声色に影を落とす。

 あまりに真剣みを帯びたその呟きに、隼人は揶揄うのも躊躇ためらわれ何も言えなくなってしまう。

 そして春希はいっそうえんと嫌悪の色をにじませながらその心情を吐露する。


「ボクは恋バナが苦手だ」

「……」


 誰に聞かせるというわけでもなく独り言つ。

 それは今の春希を形作っているものの感情の発露だった。それでいてどこか寂しそうにしている顔を見せられれば、隼人はこの親友に何かを言わねばという想いが募り言葉を探すが──空白の7年というもやが邪魔をして見つけられない。

『そうか』、という一言で聞き流すこともできた。

 しかし隼人にとってその迷子にも似た顔は、かつての──の時の姫子と重なってしまい、気付けば半ば衝動的に春希の頭に手を乗せ乱暴にかき混ぜてしまっていた。

「ぅわっぷ! 隼人、いきなり何すんのさ!?」

「……あーすまん。姫子ならいつもこれで誤魔化されてくれるから、つい」

「もぅ、頭ぐちゃぐちゃ! この髪セットするのって、すっごく手間なんだからね!」

「悪かったって」

「…………ぁ」

 春希の抗議を受けて隼人は慌てて手を離した。だというのに、それと同時に春希は甘えるような切ない声を漏らし、隼人を見上げてくる。

「……ぼ、ボクはひめちゃんと違うんだからね。誤魔化されてあげないんだから……」

「っ、と言われてもな……」

 隼人は自然と上目遣いになった春希と見つめ合う形となってしまった。

 その体勢は春希が意図したものではなく、7年の間にできてしまった男女の差というべきものによる偶然の産物である。しかし隼人はその潤んだひとみに吸い寄せられるように見入ってしまう。

 至近距離で見せられる幼いころの面影を残した大きな瞳、ぷっくりとした唇から漏れる息遣い、おさなじみという贔屓ひいきを差し引いても整っているとわからせられる顔立ちにドキリとしてしまう。

 慌てて目をらすも、目端には自分と違って触れれば壊れてしまいそうな細い肩と、女子特有の平均よりは少し控えめな膨らみが自己主張している。

 それらが嫌でも隼人に春希が異性なのだということを、意識させていく。

 思わずごくりと喉が鳴る。

(あれ、もしかして春希って可愛いのか……?)

 春希と視線が絡み合う。隼人は自分でもらちなことと理解しつつも、一度離した手を伸ばしていった──時のことだった。

「一体こんなところに何があるって言うんだ?」

「あの、少しばかり先輩にお願いがありまして」

「「──ッ!?」」

 窓の外から一組の男女の声が聞こえてくる。思わず隼人と春希は互いに身体を固まらせてしまう。

「ったく、今度は何を貸してほしいんだ? この間の漫画の続きは最新刊だから無理だぞ。お金と言われても金欠だし……あ、貸しっぱなしだったソフト返──」

「せ、先輩の人生をこれからずっと貸してください……っ!」

「オレの……って、んんーっ!?」

「ん、んん……んぅ、んっ……」

「んんん……っぷは! お、おま、ちょ、いきなり何を……っ! 思いっきり歯がぶつかったというかっ!」

「す、すいませんっ! だ、だってわたし初めてでっ!」

「そ、それはオレもというかっ……」

「あ、先輩も初めてだったんだ、よかった……ていうかですね、その、好き、です……」

「……っ!? あ、いや、その……って、お前はいつもいきなりす、ぎ……」

「先輩……」

「……ん」

 資料置き場にもなっている秘密基地のある旧校舎はひとが無い。

 となれば、彼らのような者たちの告白スポットとなるのも必然と言える。

「「……」」

 隼人と春希は窓の外から聞こえてくる、くぐもったなかむつまじい声を聴きながら、顔を真っ赤にして息をひそめていた。互いにどうしていいかわからない。そのくせ外から聞こえてくる状況と自分たちを比べてしまう。

 2人の間に流れる空気は、何とも気まずいものであった。

「えへっ、せーんぱいっ!」

「お、おい、歩きにくいってば!」

 そして外の彼らが去っていくと同時に、隼人と春希ははじかれたように身を離し、そして互いにそっぽを向いた。

「い、いやぁ、その、アレだな、アレだったな!」

「う、うん、そうだね、アレだね、アレ!」

 彼らが作り出した空気のお陰で、どうしてもそわそわしてしまい落ち着かない。

 2人して無意味だとわかっていても、自分のカバンの中身をひっくり返しては丁寧に詰めるというよくわからない作業を繰り返す。

 そして幾分か時間が過ぎ少し落ち着いたころ、春希はしみじみとつぶやくのだった。

「……ボク、やっぱり恋バナは苦手だ」

「……奇遇だな、俺もだ」

 お互い顔を見合わせ、苦笑し合うのだった。


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