幕間
雛鶴を入れて4人の少女達は、いつも一緒で、いつも仲が良くて、時折お互い喧嘩をしている最中でも誰かが喧嘩相手の悪口を言ったなら親友として怒るような、そんな関係だった。
親友の3人の少女が──。
雛鶴にとっては世界のほとんど全部を占めるものだった。
中学2年の春。
雛鶴は親の仕事の都合で転校を余儀なくされる。
それは、これまでの人生における彼女の世界、そのものの破壊と同義だった。
親友達は口々に言った。
『離れていても、心は1つだよ』
雛鶴とて、思いは同じだ。
今でも、その思いは変わらないし、ずっと一緒に時間を過ごしてきた少女達との関係が変わるものでもない。
そのことは、本当に強い絆を結んだ相手だからこそ、お互い、疑うことはなかったし、今も疑いはしない。
寂しい。
確かに、寂しくはある。
それも嘘偽りない思いには違いない。
だが、辛い訳ではない。
……そう。
辛くはないのだ。
けれど。
けれど、彼女たちは今、どうしているだろうかと、そう思う度、雛鶴は言い様もなく胸が苦しくなる。
彼女たちも雛鶴と同じく、寂しさを抱えながらも……。
それでも、自分のいない日々を彼女たちは過ごしている。
そうなのだ!
彼女たちは、自分のいない日常を過ごしている。
変わらぬ日々を、ではないのだ。
変わってしまった日々を『日常』として、今を生きているのである。
自分のいないことが、彼女たちの日常になってしまった。
そのことが、雛鶴には堪らなく寂しかった。
そのことが、絶望にも似た虚無となって、胸の奥に入り込む。
引っ越しをしてから、そんな思いを抱えて、毎日を過ごしているうち、雛鶴は段々笑えなくなっている自分に気づいた。
特に誰かと食事をしていると思い出す。
親友達と、給食を、お弁当を、放課後の買い食いをして、止まらなくなるぐらい笑い合った日のことを。
過去が、その過去が、更に雛鶴の笑顔に蓋をしていく。
だから。
だから、誰かと食事をしながら笑ったのは……。
「本当に久しぶりでした」
雛鶴は、語り終えた後、最後にそう言った。