そこは、とあるのどかな田舎町にある公園。
(……よくここで、一緒に散歩したよね……)
ベンチから夕焼け色に染まった風景をぼんやりと眺める少女の名前は、福丸ミコ。
くりくりの大きな瞳と、胸まであるやわらかい髪はいずれも淡い栗色をしている。小柄と童顔のせいで幼く見られがちだけれど、先日十八歳を迎えた高校三年生だ。
(早いなあ、コタロウが亡くなってもうひと月か……)
コタロウ―― 愛犬は快活でとても優しい子だったが、ここ一年は体調が優れなかった。
苦しいのか、それとも痛いのかさえわかってあげられないのが辛くて、とても悔しくて。
愛情が深かったからこそ歯痒さとやるせなさが募る一方で、ミコは強く思ったのだ。
―― 動物の言葉が解ればいいのに。
コタロウの最期を看取ってからも、無理だとわかっている強い願いが涙と一緒に流れて消えることはなく。胸の中には今も火が灯され続けている。
(……なんて願望はさておき。とりあえず、ここに来られるくらい回復できてよかった)
コタロウを亡くした直後のミコは、意気消沈を絵に描いたような有様になった。
しかし、ずっと落ち込んだままだと天国にいる父とコタロウが心配してしまう。
それに、父が亡くなってからは女手一つで育ててくれた母も、大学卒業後は社会人として働き家計を支えてくれる兄も、ミコと同じくコタロウの死を悲しみながらも仕事に勤し
んでいるのだ。自分だけいつまでも引きずっているわけにはいかない。
「よしっ! 二人とも今日は遅くならないみたいだから、晩ごはんは凝ったものにしよう!」
懸命な母と兄を見て育つ中で、ミコは自分にできることを考えて家事を覚えた。今や、料理や掃除洗濯は手慣れたものだ。
気合いを入れつつ、ミコは立ち上がりざまに制服のスカートをパンパンとはたく。
―― 瞬間、突如として地面が光り輝いた。
「!?」
瞬く間に光量は増えていき、閃光が波しぶきのようにミコを包む。
様子を確かめたいのに、冷たく強い光が眩しくて目を開けていられない。
刹那、ジェットコースターの頂上から下降するときのような浮遊感に襲われて――
そこで、ミコはブラックアウトした。