第一章 姫と古の魔女 その1
とある古びた遺跡の地下にある
腰元にレイピアをぶらさげ、高そうな装備を身に着けた、長く美しい金色の髪の美少女剣士だ。
年齢はエイトよりも少し下くらい。頭半分ほど身長は低いが、女性にしてはちょっと高い方かもしれない。肌は白雪のように輝いているし、その整った顔と同じように、とても美しい。どこにでもいるような極めて平凡な髪型や顔立ちで少し黄色がかった肌のエイトとは大違いだ。
スタイルだってかなりのもので、顔にはまだあどけなさが残っているというのに、胸やお尻など、出るべきところはしっかりと出ているし、足もすらりと長い。
とはいえ、この地下迷宮にお似合いなのはエイトの方だろう。
いかにも冒険者らしいボロボロのフード付きマントを装着し、ベストには二本のナイフ。腰のベルトには、道具などが入る小さなポーチを二つぶらさげている。
そんなエイトのターゲットになぜその金髪美少女剣士がなったのかといえば、この遺跡の地図を持っているからに他ならない。
その地図さえあれば、この地下遺跡の最深部にあるらしい物凄いお宝を手に入れることが出来るはずだと、淡い期待を胸に、エイトは彼女から地図を奪おうとしていた。
(それにしてもなんなんだろうな、この遺跡は)
レンガの壁に手で触れて思う。
千年以上前――古い時代の陵墓だと聞いている。
入り口からしばらくは松明の灯り片手に洞窟のような土壁の通路を進むことになったのだが、地下二階に下りると同時に雰囲気が一変。
レンガで舗装された迷宮へと変化を見せた。
壁のところどころには青白い光を灯らせたランプが備え付けられているし、誰かが
どういう仕組みでランプが点いているのかも、エイトには全くわからなかった。
まるで古代に失われてしまった『魔法』と言われる秘術によって、ランプが灯っているようにすら思えるくらいだ。
(本当に、不思議な遺跡だな)
そう思うのには、他にも理由がある。
これまでの人生で見たことがないような生物を見ることも出来るし、迷路のようになっていて、罠が張られていたりもするからだ。
正直なところ不気味なことこの上ないが、状況からすればこの遺跡にあるお宝がすごいものであるという期待はどんどんと高まっていた。
そんな中でエイトは地図を見ながら歩いている美少女剣士を発見。こうしてこっそりと尾行しながら、地図を奪い、出し抜く方法を考え続けて今に至るというわけだ。
もちろん
だが美少女剣士は高そうな装備を身に着けているし、歩く雰囲気も優雅そのもので、明らかに裕福な家の出に見える。
帝国の最下層民であるエイトからしてみれば金持ちは全て敵であり、奪取する相手に他ならない。
これまでだってエイトはそうして生きてきたし、これからだってそうするつもりだ。
「――っと……」
慌てて足を止めたエイトは、通路の壁に背中をつけた。
ターゲットの少女が足を止めたからだ。
(あれってやっぱり、
通路の先を見ると、少女の進路を塞ぐように立ちはだかった、小さな人間のような姿形をしている緑色の肌をした生物を複数見ることが出来た。
その表情といえば鬼のようで、不気味そのもの。
キキッと甲高い声をあげながら、どれもダンスを踊っているかのようにステップを踏んで、左右に揺れながら少女を煽っている。
(でも、どうしてここに小鬼が……?)
昔はあちらこちらの森で見ることが出来たと言うが、まず今の世界ではお目にかかることはない、数百年前に絶滅同然になったと言われている古代生物。
それが小鬼であり、魔物とも呼ばれる生物だ。
ちなみに小鬼は魔物の中で最弱と言われる存在。
身体は小さく、手足も細い。武器として木で出来た棍棒を持っている者も二匹いるが、たいした大きさではないし、脅威ではないだろう。
ただ小鬼が厄介なのは、人間の子供程度の知能があるところと、集団で人間を襲う――つまりはチームワークを駆使して戦うところだ。
小鬼の数は五匹で、少女は一人。
正直、かなりのチャンスかもしれない。
このフロアに来てからというもの、少女が狼などの獣と戦っているところを、すでにエイトは見ていた。少女が腰元にぶらさげているレイピアの扱いに長けていることも知っている。とはいえこの数の差をひっくり返すのは、容易ではないはずだ。
小鬼の攻撃でピンチにでもなれば、助けに入るフリをして、その隙を見て腰のベルトに丸められて差さっている迷宮の地図を奪えるかもしれない。
それが不可能だったり失敗したりしたとしても、場合によっては助けたことを感謝されて一緒に迷宮探索を――なんて展開があってもおかしくないだろう。
そして二人は、恋に目覚めて――。
(って、何を考えてるんだ、俺は!)
まだあどけない顔立ちながらも出るべきところはちゃんと出ていて、とてもスタイルがいい美少女でも、敵は敵だ。なにより裕福そうだし、隙を見て、上手く出し抜くべき相手に違いないとエイトが自分に言い聞かせたところで、少女と小鬼の戦闘が開始された。
「はぁっ!」
勢いよく叫び、小鬼に襲い掛かる少女。
レイピアを抜いてからの動きは華麗で、尚且つ無駄がない。
しかも、めちゃくちゃ疾かった。
一匹二匹と、少女はあっという間に小鬼を倒していく。
三匹目、四匹目も同じだ。
あっという間に、残りは一匹。
その小鬼がいる場所を、まだ少女は認識出来ていなかった。
少女の背後をついて、今にも小鬼が襲い掛かろうとしているのにだ。
床の一部が欠けたものなのか、小鬼は岩の欠片を手に持っている。
もしあれで頭を殴られたら致命傷になってしまう可能性だってあるだろう。
そんな危険極まりない状況だ。
(今だっ!)
このチャンスを逃してなるものかと、エイトは部屋の中に走り込んで、
「危ないっ!」
「えっ、何……!? きゃぁっ!?」
戸惑う少女に抱きつき、そのまま押し倒した。
結果、小鬼の攻撃をかわすことが出来たし、共に地面に倒れ込む形になったことで隙を見て地図を抜き取り、ベルトの背中側に突っ込むことにも成功。
(よし……!)
マントでも隠しているので見つかることはないだろう。
あとは上手く逃げるだけだ。
「大丈夫か?」
まずは不審がられないためにも起き上がりながら、エイトは少女に声を掛けた。
「ええ、大丈夫だけど……あなたは、いったい……って――」
自分の胸元に違和感を覚えて、少女が視線を向けた直後のことだ。今掴んでいるものが何かと確かめるように、エイトはふにふにと手を動かした。
「ひあんっ♡」
可愛らしい悲鳴と共に、柔らかくて幸せな感触が五本の指先に伝わってくる。
それは間違いなく、少女の胸元に大きく実った二つの果実の片割れ。掴むのには大きさも形もいい、もっと揉んでいたくもなる、とても素敵なおっぱいのもので――。
偶然としか言いようがないのだが、どうやら起き上がろうとした時に、掴んでしまっていたようだ。
「ひあっ、ああっ♡」
これは僥倖と、エイトはふにふにと手を動かした。
こんな美少女のおっぱいを揉めるだなんてラッキーだ。
もう一回くらい揉んでみたいと思ったのだけど、
「ちょっとあなた、どこ触って……!」
顔を真っ赤に染めている少女が睨み付けてきたので、そうすることは出来なかった。その表情はもちろん、声色だけでも、かなり怒っているのがわかる。
「わ、悪い! これは偶然で……!」
このままではレイピアの餌食になってしまうかもしれないと、慌てて手を離したところでエイトはハッとなった。
キィィイイッ……! と高い奇声をあげながら襲い掛かって来る小鬼の気配を背中に感じたからだ。