幕間1
今回の未来夢は、今までの未来とは違って真っ昼間だった。
何でわかったかというと、窓のカーテンが開いていて、日が差し込んでいたから。
「カイ君、双葉学院から、お手紙来てるよ」
リビングに顔を出したやんちゃ嫁が、封筒を片手に俺の真横にべたっと座った。
「へ、双葉学院……!?」
「うん。開けてみるねー」
そう断って封筒を開き、内容に目を通すやんちゃ嫁。
ここは本来の俺がいる現実世界から、恐らく十年くらい経った未来の世界のはず。
その世界でこうして双葉学院から手紙が来ているってことは──あの学校、結局廃校にならずにすんだってことだよな? マジか!? あの反対運動ガチで成功しちゃうのかよ!?
そっか。アイドルの件の時は他人事だったけど、考えてみればここが未来の世界である以上、俺の周りで今起きてる出来事の行く末を、一足先に知ることだって出来るのか。
チートじゃんそれ。
実際問題、あのメンツでどうやって廃校を覆したんだろ。お金の問題にしろ、ああいった組織が一度下した決定を撤回させるのって、相当なパワーがいると思うんだが。まぁ、うちの姉貴は昔から主人公補正みたいなの持ってる節があったから、今回も上手い具合に転んだんだろうなきっと。
「んー掻い摘まんで説明すると、双葉学院五十周年の記念式典やるから参列して欲しいんだって。出来ればカイ君に代表のスピーチもお願いしたいって書いてある」
「は、代表のスピーチ? 何で俺が?」
双葉学院出身のプロスポーツ選手とか芸能人ならまだしも、俺って単なる卒業生の一人にすぎないはずだよな。俺にそんな突出した才能はあるわけないし。
「そりゃあカイ君がいなければ、双葉学院は今存在してないって言っても過言じゃないくらい、あの廃校騒動最大の功労者なわけでしょ。実際、あたしらが活動してた時中心にいてみんなを引っ張ってってくれてたのは、カイ君だったわけだし」
最大の功労者、中心的な人物? 俺が? 姉貴じゃなくてか?
つーかその「あたしら」ってのは──
「おい。それって──」
「にしても懐かしいよね──」
尋ねるまでもなく、やんちゃ嫁はしみじみと口を開いた。
「最初はたった三人で始まって、慣れないことややったことないことだらけの悪戦苦闘でさ。ちょっと成功したと思ったら、その倍の困難がやって来たりしてほんと大変で──何度も解散しそうになっちゃったり。けどそうなる度にあんたが『諦めないで頑張ろう』って、あたしらを鼓舞して引っ張ってくれてさ。そうやって頑張っていく内に段々とみんな集まってきて、最後は本当に廃校の撤回を実現させちゃったんだから、あたしらまるでドラマの主役みたいだったよね」
心の底から楽しそうな笑みを浮かべるやんちゃ嫁。マジかよ。ってことはなんだ、今の話が本当だとすると、俺とやんちゃ嫁が出会ったのって、あの廃校反対活動ってことぉ!?
あれ、ってことは……?
「あの活動を通じて、あたしとカイ君は出会い、一緒に廃校撤回に向けて頑張って──そして恋に落ちた。初対面の時はあんたとこんな関係になるなんて──ふふっ、まさか思いもよらなかったけどさ」
くすっと楽しげに笑ったやんちゃ嫁。
その隣で俺はと言えば、衝撃の事実を受け止めることが出来ず、唖然となっていた。
そ、その口ぶりからして、大分初期から活動に参加してたっぽいよな。話に出てきた三人ってのは、今の俺達のことだろうし。え、今から相当苦労するの俺達。いやだなぁ……。
というか、最初は三人だったって……ひょっとしてだけどこのやんちゃ嫁の正体って、もしやあいつだったりするのか?
あの、やんちゃという単語とは一切無縁そうな、華風院陽彩だったり……。
いやいや流石にそれはありえないよな。そもそも見た目が全然違うし、性格だって今の無愛想で冷淡な毒舌キャラとは一八〇度かけ離れてる。女の子は恋して変わるとかよく耳にするけど──これはアカ抜けすぎってレベルじゃなく、完全に別人だろ!
けど……やんちゃ嫁の思い出話に該当するのって、現状では彼女だけになるんだよなぁ。その、初めはそういう関係になるなんて思ってもみなかったってあたりも──わかる。
ただなぁ……だとしても正直、俺あの子と上手く付き合える未来が見えないんだけど。今日ちょろっと会話しただけでもどっと疲れたし。何考えてるかいまいちわからないし。おまけにあいつと俺がエッチするとか──いや、そういうのはやめよう。
冷静に考えて、まだ華風院だと完全に決まったわけじゃないもんな。ほら、これから活動していく中で出会う誰かって可能性はまだまだ十分ありえるわけだろ。そっちの線の方が華風院と恋仲になってるってより断然納得感あるし。やんちゃ嫁だって最初は三人で始まったとしか言ってないから……。ま、なにはともあれ──
どうにも、あの面倒くさそうな廃校反対運動からばっくれるという道は途絶えたらしい。
あの活動を通じて、俺はこのめちゃくちゃかわいいやんちゃ嫁と出会い交流し、やがて恋仲に発展と──憧れの輝かしい青春ラブストーリーを送れると来たんだ。
なら、覚悟を決めて頑張るしかねぇか。