両親の借金を肩代わりしてもらう条件は 日本一可愛い女子高生と一緒に暮らすことでした。2

第5話 加速するすれ違い その1

ゆう君。本当にごめんなさい。私が寝坊したばっかりに……」

「その話はもう終わったはずだよ、かえでさん」

 手をつないで歩きながらもう何度目かになる謝罪をする楓さん。

 今朝のことをまだ思い悩んでいるらしい。急いで朝食を食べた後、俺は着替えないといけなかったので洗い物をする余裕はなかった。水にけてきたから帰ったら洗えばいいさ。

「お洗濯までセットしてくれて……お弁当も昨日のうちに準備しておけばこんなことにはならなかったのに……本当にごめんなさい」

 しょんぼりと肩を落とす楓さん。

 洗濯やお弁当もそうだが、どうせいして初めてわかったことは身の回りのことを自分たちでやりくりするのは意外と大変だってこと。炊事、家事、そこに学生の本分である勉強や部活が加わるので目が回りそうになる。

 でもこれから先も楓さんと一緒に暮らしていくのなら、このくらいのことで音を上げるわけにはいかない。

「やっぱり雇いますか、家事ヘルパーさん。毎日でなくとも週に何度かでも……」

「いや、それはダメだよ、楓さん。できることは自分たちでやらないと。これ以上楓さんのご両親に迷惑かけるわけにいかないよ」

 確かに楓さんの言う通り、家事ヘルパーさんに来てもらって身の回りのことをやってもらえたらどれだけ助かるか。現に楓さんの実家ではヘルパーさんを雇っているそうだ。楓さんのお父さんは社長でお母さんは弁護士をしていたら猫の手だって借りたいはずだ。

 でも俺達は違う。学生で時間に余裕はある。まだ子供で未熟だけど、今のうちから楽をしても将来のためにはならないと俺は思う。

 楽してもうけようとした父さんがその典型だ。俺はあの人みたいにはなりたくない。

「だから一緒に頑張ろう? どうしてもダメになったらそのときまた考えればいいさ」

「……わかりました。勇也君がそう言うなら私も頑張ります」

 ぐっと拳を握る楓さん。むしろ家事ヘルパーさんがいるのが当たり前の環境だったのに完璧に家事をこなす楓さんはすごいと思う。頑張らないといけないのは俺の方だ。勉強を真面目にやり始めただけで朝起きられなくなるなんて情けないにもほどがある。

「勇也君……その、あまり思いつめないでくださいね?」

 優しくぎゅっと手を握りながら楓さんが寂しそうな声で言った。俺は顔に出やすいからな。もしかしたら不安にさせたのかもしれない。大丈夫だよという思いを込めてぎゅっと握り返して笑みを向ける。

「んぅ……なんだか最近の勇也君はちょっと───」

 楓さんが何か言おうとしたとき、後ろから盛大にクラクションを鳴らされた。突然のことに驚いて振り向くと、

「おはよう、よしずみ君。今日もあいちゃんのことお願いね!」

 昨日も見た、かいどうのお母さんことあおいさんが運転する車が犯人だった。窓から顔を出して陽気に挨拶して来る葵さんにしゃくを返していると、

「ちょっとお母さん! どうしてクラクション鳴らすの! 馬鹿なの!?」

 顔を真っ赤にして助手席から二階堂が降りてきた。いつもクールな二階堂にしては珍しくこめかみに青筋を立てて地団駄を踏みそうな勢いでえている。

 それにしても時間に正確じゃないか? まるで俺と楓さんが登校する時間に狙いすましたかのように今日も現れるなんて。そんな偶然あるのか?

「フッフッフッ。吉住君、そこは企業秘密よ。まぁ見当はつくと思うけど……」

「母さん!! 余計なことは言わなくていいから! 恥ずかしいんだから用が済んだらさっさと帰って!」

「ウフフ。言わなくても帰りますよぉ───だ! バイバ───イ!」

 あっかんべーを置き土産に、葵さんは帰って行った。うん、高校生の娘がいるのにあっかんべーがここまで似合う人がいるなんてな。二階堂がしたら案外わいいかも、なんてことは口が裂けても言わないが。ちなみに楓さんがやったら絶対に可愛いのは言うまでもない。

「はぁ……もう嫌だこんな生活。恥ずかしくて学校に来たくないよ」

「ハハハ……まぁ、なんだ。二階堂を大切に思っている証拠じゃないか。ほら、落ち込んでないで行くぞ」

「うん。ありがとう、吉住」

 昨日のようにカバンを預かり、二階堂のペースに合わせてゆっくりと歩いていく。ん? 昨日は楓さんに引っ張られたけど今日はそんなことはしないのか。

「えぇと……それは何と言いますか……昨日は色々思うところがあったんです。でもやっぱり二階堂さんのペースに合わせないとダメですよね!」

 そう言ってえへへと苦笑いをする楓さん。色々思うところとはいったい何か気になるところではあるがそれは聞かないでおこう。

 下箱で靴を履き替えて教室に向かうのだが、まつづえを突いている二階堂が一番大変なのは階段だ。昨日の移動もそうだったが、手すりに捕まって一段ずつ登っていくしかないから時間と体力を使う。

「あ、勇也君。松葉杖は私が持ちましょうか?」

「ありがとう、楓さん。でも俺が持つから大丈夫だよ。大きい上に地味に重たいからね、これ」

 楓さんが気を遣って提案しくれたが俺はそれを断った。初めて松葉杖を持ってみたが見かけによらず重い。しかも手で運ぶには持ちにくい。それを楓さんに持たせるわけにはいかなかった。

「楓さんは先に行ってて。俺と二階堂は同じクラスだから万が一HRに遅れても言い訳できるけど楓さんはそうはいかないだろう?」

「吉住の言う通りだよ、ひとつさん。私のせいで先生に怒られることはないよ。むしろこれ以上迷惑かけたくない」

 肩で息をしながら二階堂も言う。ねん挫をしている右足を極力地面につかないようにして階段を上るのは相当きつそうだ。手を貸そうとしても大丈夫と断り、自力で登ろうとするのはバスケ部エースの意地か?

「……わかりました。それじゃ勇也君、私は先に行きますね。また休憩時間に会いに行きます!」

 わずかな沈黙を経て、楓さんは笑顔でそう言った。普段と変わらないように見えるが、どこかぎこちないというか無理をしているというか、言葉では表現できないけど毎日一緒にいるからこそ気付く違和感。

「う、うん、またあとでね、楓さん」

 それじゃ、と言い残して楓さんは階段を登りきると足早に教室へと向かった。

「ね、吉住。一葉さんと何かあった? なんか様子がおかしいように思えたけど。けんでもした?」

「いや、そんなことはないけど。昨日の夜から少し様子が変なんだよ。思い当たる節がないわけじゃないんだけど……」

「そっか。私が言うのも変だけど、ちゃんと話しなよ? 言葉にしないと伝わらないことだってあるんだから」

 階段を登り切り、乱れた呼吸を整えるために大きく深呼吸をする二階堂。そうだな。二階堂の言う通りだ。さっきも何か言いかけていたみたいだし、家に帰ったらちゃんと話をしてみよう。昨夜みたく一人で寝かせたりしないからな。


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第2巻 試し読みは以上です。


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