両親の借金を肩代わりしてもらう条件は 日本一可愛い女子高生と一緒に暮らすことでした。2

第4話 楓さんの様子が? その3

    *****


 その日の夜。夕飯を食べ終えた俺と楓さんはリビングで試験勉強をしていた。残された時間はあまりない。せっかく楓さんと二階堂に教えてもらったんだ。いい点数を取らないと示しがつかない。だというのに。

「ねぇねぇ、勇也君。そろそろおに入りませんか? 一日の疲れを流してリフレッシュしましょう! 背中流しますよ?」

 まだ初めて一時間もっていなのに、隣に座る楓さんがクイクイと袖を摑んで甘えてくる。楓さんに背中を流してもらいたいとは思うけど、そういうのはあれだ。試験が終わったごほうに取っておきたいかな。

「あ、それなら気分転換にアイスを食べるのはどうですか? 糖分の補給は脳の働きにとても重要です! あーんし合いっこしましょうよぉ!」

 腕を摑んでグイグイと引っ張る楓さん。徐々に駄々をこねる子供のような感じになってきたな。アイスか。確かに糖分補給は大切だ。こと勉強においては脳に栄養を送るという意味で重要な役割を持つ。あーんのし合いももちろんやりたいけど多分いまやったら色々覚えたことが頭から抜け落ちてしまうと思う。俺にはえる。楓さんがからかってくる未来が!

「ひどいです、勇也君! いくら私でもそんなことは多分、おそらく、maybeしませんよ! ちゃんとTPOは選びます!」

「うん、それなら場面は選んでほしいかな!? 今はどういう状況かわかるよね!?」

「はい! 頑張っている勇也君へねぎらいする場面です!」

 えっへんと胸を張って答える楓さん。しかもドヤ顔のおまけ付きだ。うん、間違っているよ楓さん。今は静かに勉強を続ける場面です。アイスはもう少し後。あーんもお預けです。

「いやです! 勇也君にあーんってしてもらいたいんです! ねぇ、少しくらいいいじゃないですかぁ! 休憩しましょうよぉ!」

 楓さんが突っ伏してドンドンとテーブルを叩き始めた。この甘えん坊怪獣のような姿は見たことがある。タカさんの愛娘まなむすめちゃん(小学一年生)が帰ろうとする俺を引き留めようと床に転がって手足をじたばたさせるのに近い。

「……わかった。わかったから落ち着いて、楓さん。もう少ししたら一緒に食べようね? 何なら楓さんは先にお風呂に入っておいでよ。上がったら一緒にアイス食べよう?」

「い───や───で───すぅ! お風呂も勇也君と一緒がいいです!」

 足もバタバタし始めてさらに狂暴化する甘えん坊怪獣楓さん。そういう子供っぽいところも可愛いんだけどこのままでは勉強が手につかない。俺は思わずため息をついて頭をきながら、

「ごめんね、楓さん。勉強に集中したいんだ。だから少しだけ静かにしてくれると助かるかな」

 言ったその瞬間、ぴたりと楓さんの動きが止まる。ギギギと壊れる寸前の機械のような動作で首を回して俺を見る彼女の顔にはきょうがくが刻まれていた。口をあんぐりと開け、信じられないという様子だ。

「わかりました……今日は大人しく一人寂しくお風呂に入って来ます」

「う、うん……? わかった。行ってらっしゃい。ゆっくり入っておいでね」

「……ながしてきます。勇也君もお勉強頑張ってください」

 ふらふらと千鳥足でリビングから出ていく楓さん。ついさっきまであんなに元気だったのにどうしたって言うんだ? 俺は集中したいから少し静かにしてほしいって言っただけなのに一瞬でしおれた花みたいになるなんて。

「お風呂から上がればきっと元気になるだろう。よし! 勉強頑張りますかね!」

 だが結局。お風呂から上がった楓さんに元気が戻ることはなく、そのままとんに入って寝てしまった。

 一緒に食べるはずのアイスは冷凍庫にしまったまま、俺は日付が変わるまで勉強を続けた。


    *****


 翌朝は二人そろって寝坊しそうになった。最近の楓さんは早起きだったから俺もつい油断していた。スマホの時計を見ると7時前。うん、ヤバイ。遅刻する。

「楓さん、起きて。遅刻するよ」

「んぅ……勇也君、抱っこ。お布団が私を解放してくれません」

 甘えん坊は継続みたいだ。まったく、仕方ないなと肩をすくめながら俺は楓さんの脇に手を滑らせて一気に抱き起す。爽やかな香りと身体からだの柔らかさを味わいながら、布団という魔の手から救い出した。

「えへへ。おはようございます、勇也君。今日もいい天気ですね」

「おはよう、楓さん。いい天気だけど早く起きないと朝ごはん抜きになるよ?」

「え? 今何時ですか───ってもうこんな時間!? ごめんなさい、勇也君! 急いで朝食の準備をしますね!」

 先ほどまでの怠惰な姿がうそのようにベッドから跳ねるように降りると、急ぎ足で台所へと向かう楓さん。俺もその後に続く。

「えぇと……食パンを焼いて、卵はあるからこれをスクランブルエッグ。お湯を沸かしてスープの準備……果物がまだ残っていたからそれを切って───」

 冷蔵庫の前でぶつぶつとつぶやきながら右往左往する楓さん。準備といっても朝食以外にもしないといけないことはたくさんある。楓さんの場合は俺と違って色々大変なはずだ。

「落ち着いて、楓さん。時間もないから今日はトーストとヨーグルトにしよう。お弁当も……今日は無理だからカフェテリアで済まそうか」

「ご、ごめんなさい、勇也君。私がふがいないばっかりに……」

「どうして楓さんが謝るのさ。ほら、準備は俺がしておくから楓さんは身支度整えてきて。その間に俺がやっておくから」

 背中を押して楓さんを台所から押し出した。申し訳なさそうな顔で寝室へと戻るのを見送ってから手早く準備を済ませる。

 そうは言っても落ち着いてやればなんてことはない作業だ。パンをトースターにセットし、焼いている間にヨーグルトには小さくカットしたバナナを入れてブルーベリのジャムをえる。スープのためのお湯を沸かしつつ、牛乳をレンジで温めてはちみつをたっぷり入れてハニーホットミルクを楓さんのために作る。

「あ、そう言えば洗濯物がまっていたよな……」

 テーブルに並べ終えたところで脱衣かごがいっぱいになっていたことを思い出した。我が家の洗濯機は最新鋭のドラム式洗濯乾燥機。帰宅時間に合わせて予約すれば洗って乾かしてくれるので、後は取り出して畳むだけ。干す手間がないので非常に便利だ。

 楓さんはまだ来なさそうなのでその間に済ませてしまうか。ついでに身だしなみのチェックもしよう。こんな慌ただしいのは勘弁だな。明日からはちゃんと起きるようにしないとダメだな。最近たるんでいるぞ、俺。

「勇也君、お待たせしました! って何ですかこれは!? 私が着替えている間にこんなに!? しかも私の好きな蜂蜜入りのホットミルクまで……勇也君、ありがとうございます」

「そんな驚くことじゃないと思うけど? さぁ、座って。冷めないうちに食べちゃおう」

 いただきます、と声をそろえて言ってから楓さんはパクっとトーストにかじりつくと、すぐに苦い顔になった。ごめんね、パンにはバターも何も塗っていないから味がしないよね。俺は心の中で謝りながら楓さんの好きなブルーベリージャムをそっと手渡した。

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