両親の借金を肩代わりしてもらう条件は 日本一可愛い女子高生と一緒に暮らすことでした。2

第4話 楓さんの様子が? その1

 騒がしくも充実した週末勉強会から明けた月曜日。あくびをみ殺しながらいつものようにかえでさんと一緒に登校していた。

 今日も中々起きることが出来ずに楓さんに起こしてもらってしまった。連日遅くまで試験勉強をしているのが原因なのだろうか。これでは朝が弱いねと楓さんをからかうことが出来なくなってしまう。

ゆう君を朝起こしてあげることが出来るのはうれしいのですが、根を詰めすぎている勇也君が心配でなりません」

 うれいを帯びた顔で見つめてくる楓さん。心配してくれるのは嬉しいけれどこれは俺自身の問題だ。先々のことを見据えて今から頑張らないと、隣に立っていられなくなるかもしれない。でもこんな不安を抱いていることは知られたくないから口にはしない。男は黙って不言実行だ。

「大丈夫だよ、楓さん。倒れる前にちゃんと休むから」

「わかりました。くれぐれも無理はしないでくださいね? もし何かあったら私が付きっきりで看病しますよ? いいですね?」

 それはむしろごほうなのでは? あれだろ、汗をかいて気持ち悪い俺の背中をれタオルで拭いてくれたりするんだろう? おかゆを作ってくれて食べさせてくれたりもして。うん、そんな迷惑はかけたくないから体調管理は気を付けよう。

「大人しく私に看病させてください! ってあれ、なんか校門に車がまっていますね。なんでしょう?」

 楓さんに言われて視線を向けると見慣れない車が校門の前に停まっていた。車高の高いゴツイ車。俺の兄のような人であり、ちょっと怖い職に就いているタカさんの車よりも威圧感がある。いったい誰が乗っているんだ?

「それじゃあいちゃん。気を付けてね。くれぐれも無理はしちゃダメよ? 帰るころに連絡頂戴ね?」

「はいはい。もうわかったから早く帰ってよ、母さん」

 肩をすくめ、どこか恥ずかしそうにしながら車から降りてきたのは足に包帯を巻いたかいどうだった。ねん挫した足で普通に通学するのは大変だからな。ご両親に送ってもらったってわけか。

「───っげ、よしずみ

 俺達の視線に気付いたのか、こちらを見るやいなやカエルがつぶれたような声を出す二階堂。待て、それは人の顔を見たときにしていい反応じゃないぞ?

「え!? うわさの吉住君がいるの!? どこどこ!? 哀ちゃん紹介して!」

「ちょ、母さん!? 車から降りてこようとしないで! 危ないから! 吉住! キミはひとつさんを連れて今すぐに校内に───!」

 二階堂が必死の形相で俺達に逃げるよう訴える。その姿はまさにゾンビ映画で自らをおとりとして窮地から主人公を逃がすナイスガイのそれだ。だが残念なことに、平穏な朝の通学路には似合わない突然の状況に俺と楓さんはポカーンとして動けなかった。というか二階堂のお母さんがどんな人か興味があった。二階堂に似てイケメンなのかな?

「あらあらまぁまぁ! あなたが噂の吉住君!? いつも哀ちゃんがお世話になってます! あ、私哀ちゃんのお母さんをやってます二階堂あおいといいます。よろしくね?」

「母さ──────ん!!」

 朝のせいひつな空気を二階堂の絶叫がぶち壊した。あぁ、うん。その気持ちは痛いくらいわかる。クラスメイトに対して母親が挨拶をするのはすごく恥ずかしいよな。しかも異様なハイテンションとくればなおさらだ。

「あ、はい。吉住勇也です。こちらこそよろしくお願いします」

 勢いに飲まれて俺はとっさに挨拶を返してしまった。

 それにしても、二階堂のお母さんの葵さんは二階堂とは似てないな。まるで野に咲くタンポポのような人だ。目元がとても柔らかくニコニコと笑顔を絶やさない。来るもの拒まずの聖母のような感じだ。そんな人が運転している車がタカさんもびっくりすること間違いなしのゴツイ車だからギャップがヤバイ。

「吉住も頭を下げるなバカ!」

「こら、哀ちゃん。吉住君は丁寧に挨拶を返してくれただけなのにバカはひどいと思うわよ? あら、吉住君の隣にいる女の子はもしかして吉住君の───?」

「申し遅れました。一葉楓と申します。二階堂さんとは友人であり、こちらの吉住君との関係はご想像の通りです」

「あらあら。楓ちゃんっていうのね。これはご丁寧にどうもありがとう。哀ちゃんとも仲良くしてくれたら嬉しいわ。うふふふ」

 口元に手を当てて笑う葵さんとニコリとほほむ楓さん。なんだ、この構図は!? 二人の間で見えない火花が散っている!? 俺は一人戦々恐々とし、二階堂は頭を抱えて盛大なため息をついている。

「ふむふむ……なるほど。哀ちゃん、これは大変ね。頑張るのよ?」

「お願い、母さん。言うこと聞くから今すぐ帰って」

「本当!? それなら今度一緒にお洋服を見に行きましょうね! 哀ちゃんに似合いそうなお洋服が雑誌に載っていたのよ!」

 いい加減にしてぇ! と顔を真っ赤にして叫ぶ二階堂とまったく意に介せずニコニコ笑う葵さん。マイペースここに極まれりといったところだな。

「あ、吉住君。最後に一つだけいいかしら?」

「? はい、なんでしょうか?」

「哀ちゃんのこと、よろしくね? ほら、見ての通り哀ちゃんは片手が塞がっているから何かと困ることがあると思うのよね。そこをフォローしてくれたら助かるわ。隣の席に座っているよしみで、お願いできるかな?」

「え、えぇ……まぁ。俺にできることであれば」

「ウフフ。ありがとう。それじゃ後のことはよろしくね。哀ちゃん、くれぐれも無理はしないようにね!」

 それじゃぁまたねぇ、と言い残し葵さんはさっそうと去って行った。まるで台風のような人だな。二階堂はまた深くため息をついて恐る恐る俺達の方に視線を向けた。その顔はどこかバツが悪そうにしていた。

「ごめん、吉住、一葉さん。朝から迷惑かけて……」

「気にしないで大丈夫ですよ。それにしてもすごく個性的というか面白いお母様ですね。うちとは大違いです」

「そうなの? 一葉さんのお母さんはどんな人か想像つかないなぁ」

 楓さんのお母さんのさくらさんは見た目こそ厳格でやり手の弁護士だが、根本的な思考回路は楓さんと同じで愉快犯だ。色々楓さんに大人な知識を植え込んでいるのがその証拠だ。

「はぁ……が治るまで毎日こんな感じになると思うとそれだけで憂鬱だよ……」

「まぁなんだ。いいじゃないか。心配してくれる親がいてくれて。それよりそろそろ教室に行かないか? ほら、カバン持ってやるから」

「え? あ、あぁ……ありがとう」

 俺が差し出した手におずおずとカバンをかけてくる二階堂。それをしっかり握って肩にかける。ちなみに楓さんはまだ俺の左腕に抱き着いたままだ。心なしか歩いてきたときよりも力が強くなっていませんかね?

「それは勇也君の気のせいです! さぁ、行きますよ!」

 ずいずいと歩き出す楓さんに引きずられる俺を見てクスッと笑う二階堂。自分でちゃんと歩くからそんな無理やり引っ張らないで楓さん! というか校内でも腕を組むのはさすがに恥ずかしいから!


    *****


 朝の出来事もあって、この日は二階堂のそばにいることが増えた。

「次の授業は……化学か。教室を移動しないといけないな。二階堂、荷物持つから一緒に行くぞ」

 午前中最後の授業の化学だが、今日に限って教室ではなく実験室で行うことになっていた。俺達の教室は三階にあり、化学実験室は一階。普段の時でも面倒な移動なのに怪我をしている二階堂はなおさら大変だ。一人で行くには危ない。

「大丈夫だよ。それくらい自分で持って歩けるから」

 だというのに意地を張って一人で行こうとする二階堂の肩をつかむ。

「バカ言え。右手にまつづえ、左手に教科書と筆記用具を持って歩くと危ないだろう? 歩いている途中で荷物を落としたら拾うのも大変だし階段もあるんだぞ? 授業に遅れたら先生になんて言われるか……」

「わかった。わかったからそれ以上言わないでくれ、吉住。大人しく荷物を預けるから」

 まったく。ケガ人なんだから最初から大人しくそうしておけばいいんだよ。荷物を落とすだけならまだしもバランスを崩して転んだりしたらどうする。治るものも治らないぞ。

「……ありがとう、吉住」

 申し訳なさそうに礼を言う二階堂から教科書類を預かる。その中の一つである筆箱に目が留まる。真新しいそれは王子様な二階堂のイメージとはどこかかけ離れた、ピンク生地にわいいカワウソのイラストが描かれたペンケースだった。

「なんだよ、吉住。私には似合わないとでも言いたそうな顔だね。いいじゃないか、私が可愛い物を使っても。文句ある?」

「いや、俺は何も言っていないはずだが!? このカワウソ、俺も好きだからつい目に入ったんだよ。そうか、こんなグッズもあるのか……知らなかった」

 このキャラクターはSNSですごく人気のあるキャラクターで、俺も四コマ漫画が更新されるたびに見るくらい好きだ。やされる。

「へぇ……意外だね。吉住もこういう可愛いキャラクターが好きなんだね。近々期間限定で公式ショップがオープンされるみたいだから行ったらどう?」

 それはものすごくそそられる話ではあるし行ってみたいと思うが、いったら絶対に欲しくなる。楓さんに養ってもらっている身として無駄使いはできないから泣く泣く断念するか。

「もし欲しいものがあれば私が買ってきてあげてもいいよ? サイトにグッズ載っているから見てみる?」

 そう言って二階堂はスマホを操作して公式HPを見せてきた。二階堂の持っているペンケースの色違いやキーホルダー、プリントTシャツにマグカップなど。超ビッグサイズのぬいぐるみもあった。

「強いて言えばキーホルダーかな。家のカギに付けるものがなくてさ。まぁでも気持ちだけ受け取っておくよ。もらってばっかりで申し訳ないからな」

 むしろ何か買わないといけないのは俺の方だ。義理とはいえ二階堂からバレンタインのチョコももらったわけだし。

「二階堂はこの中で欲しいものはあるのか?」

「え、私!? そうだね……このリュックサックがいいかな……?」

 恥ずかしそうに指差したのはワンポイントでカワウソのしゅうが入ったバッグ。値段は少し高いがこれなら多分大丈夫だろう。楓さんに何を渡すかはまだ決めていないからそれ次第になるけど。

「ちょっと……冗談だからそんな気を遣わないでいいからね?」

「そう言うわりには物欲しそうにしていたように見えたけど、気のせいか?」

「気のせいだよ! まったく……早く行くよ。授業に遅れて怒られたら吉住のせいだからね。責任とって言い訳してね?」

 言い出したのは二階堂だっていうのにずいぶん理不尽だな。まぁ時間はまだあるから遅れることはないだろう───って、あれ。今チャイム鳴ったけどもしかして三分前に鳴る予鈴か? え、まずくない? 化学の先生は確かバスケ部の顧問でもあるよな? 優しいけど見た目がぼう頭でいかつい風貌だから圧が強いんだよな。

「先に行こうなんて薄情なことを吉住はしないよね? 転ばないように気を付けて、ゆっくり向かわないとね」

 しょうがない。着くまでの間に言い訳を考えることにするか。ケガ人の介助をしているんだから大目に見てくれないかな。

「それは吉住次第だね。頑張ってね?」

「お願いだから少しは協力してくれ……」

 俺の願いが届いたのかどうかはわからないが、授業開始のチャイムには間に合わなかったものの先生からおとがめを受けることはなかった。

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