第二章 高速レベルアップ その4

 自宅に帰った俺は、明日のダンジョン攻略に備えて準備をすることにした。

 準備といっても、溜まったSPを割り振るだけだが。

 明日行くのは紫音ダンジョンだからな。特別な準備は必要ない。

「えーっと、今あるSPは1310。そんでもって、ダンジョン内転移のレベルを12に上げるのに必要なSPはっと……マジか」

 ステータス画面に書かれていたのは、1000SPの文字だった。

 まさに規格外の数値だ。

「とはいえ、選ばないわけにはいかないよな。俺が特別であれる理由は、このスキルがあるおかげなんだから」

 覚悟を決めて、俺はダンジョン内転移のレベルアップに1000SPを使用した。


『ダンジョン内転移のスキルレベルが12に上がりました』

『発動時間が変更されます』

『2秒×距離(M)→1秒×距離(M)』


 その結果、このように変わった。

「今回は発動時間が変わったのか」

 発動時間が半分になるのはかなり助かる。

 ただそれでも、1000SPを使用しただけの価値があるかは不明だが。

 ついでにスキルレベルを13にするのに必要なSPを見てみると、1500と書かれていた。一つレベルを上げるごとに500ずつ上がっていくんだろう。

「次に大きな変化がくるとしたらLV‌20の時と考えてるけど、やっぱり先はまだまだ長いな……それでもやるしかないか!」

 今さら、目の前の壁の大きさにうろたえる俺じゃない。

 心の中で、力強い決意を抱くのだった。


   ◇◆◇


 翌日、俺はEランクダンジョン――【紫音ダンジョン】にやってきていた。

 知っての通り、ここは初心者御用達のダンジョンである。

 そのため攻略は簡単だし、踏破自体も簡単に終わる。最初はそう思っていた。

 しかし――

「ぜんっぜん終わらねぇ!」

 ――百周を終えても踏破できる気配がなければ、話はまた別だ。

「Dランクの夢見ダンジョンで七十周だったんだから、ここの規定回数はもっと多いかもしれないとは思ってたけど……百回を超えても終わらないのはさすがに想定外だな」

 いつもなら嬉しいはずの『ダンジョン攻略報酬』というシステム音が、今では呪いの言葉にすら感じてしまう。これ、どうにかならないのかな?

 けれど、そんな泣き言をこぼしたところで状況は変わらない。

 踏破できるまで、ただただ攻略を続けるしかないのだ。

「――やってやる!」

 パシンッ、と両手で自分の頬を叩き、新たに気合を入れる。

 これまで一年間、無能と蔑まれながら冒険者を続けてきたんだ。

 それに比べたらこの程度、なんてことはない!

「ダンジョン内転移」

 俺は覚悟を決めて、再び紫音ダンジョンに挑戦するのだった。


『ダンジョン攻略報酬 レベルが1アップしました』

『ダンジョン攻略報酬 レベルが1アップしました』

『ダンジョン攻略報酬 レベルが1アップしました』


 そして、攻略を続けること四日。

 この四日間での攻略回数は百九十回。以前のものを合わせたら計二百回に到達したタイミングで、そのシステム音が鳴り響いた。


『貴方は本ダンジョンを規定回数攻略しました』

『ボーナス報酬 レベルが15アップしました』

『今後、貴方が本ダンジョンを攻略しても報酬は与えられません』


「きたああああああああああ!」

 喜びのあまり、俺は全力で雄叫びを上げた。

「やっと二つ目のダンジョン踏破だ。えーっと、この四日間でレベルは570から775になったのか。冷静に考えてみたらかなりレベルアップしてるな。まあ、二百周もしたんだから当然だけど。んでもって、肝心のSPはと……2310か。まあまあ溜まったな」

 あとの問題はこれをどう割り振るかだ。

 いつもの俺なら、迷わずダンジョン内転移に注ぎ込むのだが。

「……いや、違うな」

 とある考えから、俺は別のスキルを選ぶことにした。

 このまま低ランクダンジョンで周回を繰り返すのもいいが、そろそろ自分のレベルに合ったダンジョンに挑戦するべきだと思ったのだ。

 いくらレベルを上げて能力値を上げようと、それを俺が自在に操れなければ意味がない。

「まあ、あとは家でじっくり考えるか」

 俺はこの四日間でトラウマを与えてきた紫音ダンジョンを後にし、帰路につくのだった。


   ◇◆◇


 ―――――保有スキル―――――

 ダンジョン内転移LV‌12→LV‌13(必要SP:1500)

 高速移動LV3→LV4(必要SP:400)

 魔力上昇LV1→LV2(必要SP:400)

 魔力回復LV1→LV2(必要SP:400)

 アイテムボックスLV1→LV2(必要SP:400)

 ―――――新規スキル―――――

 剣 術LV1(必要SP:200)

 短剣術LV1(必要SP:200)

 剛 力LV1(必要SP:100)

 忍 耐LV1(必要SP:100)

 索 敵LV1(必要SP:100)

 隠 密LV1(必要SP:100)

 状態異常耐性LV1(必要SP:100)

 ―――――――――――――――


 帰宅後。俺はまずスキル一覧から選択候補をピックアップしてみた。どれも今後、継続的に使える優秀なスキルだ。

「さて、ここから何を選ぶか決めるために、まずは次に挑戦するダンジョンを決めないとな」

 現時点で決めているのは、Cランクダンジョンに挑戦するということだけ。

 家から行ける範囲にあるダンジョンの中から、今の俺に適した場所を探していく。

 挑戦するダンジョンを選ぶ上で、俺の中には一つの決まりがある。

 それは、状態異常系の攻撃を仕掛けてくる魔物がいるところを極力避けることだ。

 ソロにとって状態異常は天敵。麻痺などをかけられてしまえば、格下相手にも一気にやられてしまう恐れがある。

 どちらかといえば、数十体の魔物が同時に襲い掛かってくる方がまだやりやすい。

 一応ステータスの抵抗力パラメータが高ければある程度抵抗できるが、それも万能ではない。夢見ダンジョンのボスであるハーピーの催眠くらいならば耐えられるが、Cランクの敵ともなればどうなるかは想像つかない。

「一応、それを解決してくれるスキルもあるんだけど……今の時点で耐久系のスキルを取得するのは微妙だよな」

 ただでさえ俺は、ダンジョン内転移、鑑定、アイテムボックスなど、戦闘に直接関係ないスキルにSPを使っているのだ。ここは素直に、戦闘に役立つスキルを選びたい。

 それらを前提に考えると、おのずと適したダンジョンが見つかる。

「剣崎ダンジョン――ここだな」

 Cランクダンジョン――【剣崎ダンジョン】。

 ソロ攻略推奨レベルは600と、Cランクダンジョンの中では低め。

 出てくる魔物は多彩だが、そのどれもが真正面から戦いを仕掛けてくるタイプなため、戦闘スキルを磨くにはもってこいのダンジョンだ。

「さて、目標のダンジョンが決まったところで、次はスキルだな」

 できれば、剣崎ダンジョンで活かすことのできるスキルを選びたい。

 俺の戦闘方法は基本的にヒット&アウェイ。

 敵の攻撃に耐えるのではなく、回避が基本となっている。

 そのため耐久力を高めてくれる忍耐を取る必要はないだろう。

 逆に、攻撃力を上げてくれる剛力や、速度を上げてくれる高速移動は必須となってくる。

 というわけで、俺は剛力を一気にLV4に、高速移動をLV3→LV4に上げた。

 今ので1400SPを使用したので、残りは910SP。

 実力をいち早く上げたいのならば、剣術か短剣術を獲得するべきなんだろうけど……。

「正直、どっちをメイン武器に使うかはまだ決めかねてるんだよな」

 今でこそ短剣をメインに使っているが、昔からそうだったわけじゃない。冒険者になった当初は短剣を使っていたが、攻撃力の低さを嘆いて長剣に転向したことがある。

 しかしその後、夢見ダンジョンのボーナス報酬で優秀な短剣を入手したため、それ以降はずっと短剣を使っているという感じだ。

 今後の選択次第では、剣術か短剣術を選んだとしても将来的に無駄になってしまう恐れがある。無理に今入手する必要はないだろう。

「となると残るSPは索敵か隠密に使うか? それとも既に保有しているスキルのレベルを上げるべきか? ……実際にダンジョンに挑んだ後で、改めて考えるか」

 ひとまずのところ、今後の方針とSPの割り振りについては終わった。

 次に挑むは初めてとなるCランクダンジョン。それを目前に、俺は自分の胸が高鳴るのを感じるのだった。


 ―――――――――――――――

【天音 凛】

 レベル:775 SP:910

 称号:ダンジョン踏破者(2/10)

 HP:6170/6170 MP:1580/1580

 攻撃力:1560 耐久力:1180 速 度:1640

 知 力:1110 抵抗力:1180 幸 運:1080

 スキル:ダンジョン内転移LV‌12・身体強化LVMAX・剛力LV4・高速移動LV4・魔力上昇LV1・魔力回復LV1・鑑定・アイテムボックスLV1

 ―――――――――――――――

【身体強化LVMAX】:攻撃力、耐久力、速度の各パラメータを+100。

【剛力LV4】:攻撃力を+500。

【高速移動LV4】:速度を+500。

【魔力上昇LV1】:MPを+10%。

【魔力回復LV1】:MP回復量を+10%。

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【夢見の短剣】

 ・夢見ダンジョンを初見かつソロで攻略した際に与えられる報酬。

 ・攻撃力+60

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試し読みは以上です。


続きは2021年4月1日(木)発売

『世界最速のレベルアップ』

でお楽しみください!


※本ページ内の文章は制作中のものです。実際の商品と一部異なる場合があります。

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