第二章 高速レベルアップ その1

 夢見ダンジョンで一騒動あった日の夜。

 俺はさっそく500SPスキルポイントをダンジョン内転移に注ぎ込んだ。


『ダンジョン内転移のスキルレベルが11に上がりました』

『転移距離が変更されます』

『最大で20メートル→最大で50メートル』


 ―――――――――――――――

【ダンジョン内転移LV‌11】

 使用MP:3MP×距離(M)。

 条  件:発動者が足を踏み入れたことのあるダンジョン内に対してのみ転移可。

 転移距離:最大で50メートル。

 発動時間:2秒×距離(M)。

 対象範囲:発動者と発動者が身に纏うもの。

 ―――――――――――――――


「おっ、転移距離が一気に2・5倍か」

 500SPを注ぎ込んだこともあり、なかなかの成長度合いだ。

 ただ、予想を超えるほどのものではなかったが。

 それに正直なところ、転移距離が増えてもあまり恩恵を感じることはできない。

 現在、俺がダンジョン内転移を使用するのは再挑戦期間スパンを無視してダンジョンに挑む場合に限られているからだ。20メートルも50メートルも大した違いではない。

 今回のスキルレベル上げは残念な結果に終わったが、次の機会に期待しよう。

 そう意識を切り替えようとした、その時だった。

「っ……待てよ」

 頭の中に一つの考えが浮かび上がる。その考えを現実のものにすることができれば、俺のレベルアップ効率はさらに上がるはずだ。

「よし、さっそく明日試してみるか」


 翌日。俺はいつものように夢見ダンジョンにやってきた。

 そしてダンジョン管理人が昨日と違う人だということを確認し、ほっと胸を撫で下ろす。

 昨日事情聴取を受けた際に、由衣と一緒にボスを倒して帰還区域に戻ってきたことを話したため、なぜ今日もダンジョンにいるのか疑われる可能性があったからだ。

 ダンジョン管理人さえ違えば、いくらでも誤魔化しようがある。入退場の際に冒険者カードを当てる機器は、攻略記録まで取っているわけじゃない。

 というわけで。帰還区域まで下りた俺は、人がいないタイミングを見計らってダンジョン内転移を発動した。

「ダンジョン内転移――よし、やるか」

 ダンジョンの中に入った俺は、さっそく昨日の考えを実行してみることにした。

 その考えとはつまり、ダンジョン内転移を使った階層間移動だ。

 下の階層に繋がる階段に辿り着くまでに数分かかるところを、ダンジョン内転移でショートカットすることができれば、周回効率は格段に跳ね上がる。

 ちなみに、初めてこの方法を思いついたのは冒険者になってすぐのことだった。

 しかし、当時のダンジョン内転移の転移距離は最大で5メートル。

 階層と階層の距離が10メートルほどあるダンジョンでは、空中に投げ出されてしまう危険性があるため実現しなかった。

 そしてスキルレベルを上げ、転移距離が最大で10メートルを超えてからも、幾つかの障害があった。

 一つは、転移先に大量の魔物がいた場合、俺一人での対処が難しいこと。

 もう一つが、ダンジョン内転移を何度も使用するために必要なMPマジツクポイントを、俺が保有していなかったということだ。

「けど、今の俺ならどっちの条件も満たしている。MPは760もあるし、夢見ダンジョンの魔物くらいなら、100体同時に襲ってきても敵じゃないからな」

 そんなわけで、問題がないことを確認した俺はさっそくこの方法を試してみた。

「ダンジョン内転移」

 ダンジョン内転移を発動すると、予想通り一階層から二階層までの移動に成功する。

「よし、成功だ!」

 この調子で進めていこう。

 さっきは10メートルしか転移しなかったが、今度は思い切って50メートル――つまり五階層を一度に移動する。MPの消費量や発動時間に変わりはないが、こうすることによって他の冒険者や魔物に遭遇する可能性を減らすことができるのだ。

 その後も順調に転移を続け、とうとう最下層である十六階層に到着した。

 ここに辿り着くまでの合計転移距離は、およそ150メートル。

 合計発動時間は、1メートル転移するのに必要な時間が二秒なため、それを乗算すると三百秒。戦闘を含めたその他諸々の時間を合わせても六百秒――十分以内で済んだ。

 前回まではダンジョンを一周するのに一時間近くかかっていた。

 それがダンジョン内転移を利用することによって、6分の1にまで攻略時間を短縮することが可能になった。これでさらなるレベルアップが見込めるはずだ!

「よーし、やるか!」

 そんな期待を胸に攻略を再開する。

 しかし二周目にて、この方法には大きな問題があると気付いてしまった。

「MPが、圧倒的に足りない……!」

 そう、その問題とはMPについてだ。今の俺のMP総量は800近く。これだけあれば十分かと考えていたのだが、とんだ思い違いだった。

 ダンジョン内転移を発動するのに必要なMPは、1メートルにつき3MP。

 つまり、一回の攻略で450MPも使用してしまうのだ。

「うーん、これだと二周目の途中でMPが切れちゃうんだよな。それでも一時間以上短縮できるから、かなり助かりはするんだけど……帰還区域からダンジョンに入るためのMPは残しておかないといけないし、何か他にいい方法はないか?」

 ぱっと思いつくのは魔力回復薬を使用することだ。

 しかし冒険者の生命線であるMPを回復させてくれるだけあって、魔力回復薬はかなり高価である。MPを100回復してくれる低級のものでも、一万円を超えていたはず。

 このダンジョンを一周攻略するためには、それが四本以上必要となる。

 対して、夢見ダンジョンを一周攻略することで稼げるのは、攻略報酬の魔石とハーピーから取れる魔石を合わせても一万五千円程度。

 これでは一周するごとに三万円近くの損失が出てしまう。とんだ赤字だ。

 金でレベルが買えると考えれば、そう悪いレートではないんだが……俺と華の生活は、両親が残してくれたお金に加え、俺が冒険者として稼いだ金で賄われている。

 できれば避けたいところだ。

「くそっ……諦めるしかないのか?」

 その場で地団駄を踏む。ダンジョンの硬い地面からは、重い衝撃が返ってきた。

 せっかくあと一歩のところまできているんだ。

 あと少しでも効率を上げることができれば、もっと早くレベルアップできるのに……!

「いや――待てよ」

 と、ここで俺は一つの解決策を思いつく。

「MPが足りない問題を解決する方法は一つしかないわけじゃない。魔力回復薬が使えないなら、そもそも消費量を減らしてしまえばいいんだ」

 俺がダンジョン内転移を使用しての階層間移動を思いついた、冒険者になりたての頃。

 転移可能距離は最大5メートル。階層間の距離が10メートル前後あるダンジョンでは空中に放り出されてしまう恐れがあり、実現は難しかった。

 けれどよくよく考えてみたら、それは大した問題ではないのかもしれない。

 当時の弱々しいステータスならばともかく、400レベルを超えた今の俺ならば、10メートル上空から落下したところでダメージを負うことはない。

 ここまで言えば、勘のいい人なら気付くだろう。

 俺がどうやってMPの問題を解決するつもりなのかを。

「さっそく試してみるか――ダンジョン内転移」

 転移距離は、10メートルから2メートルに。これによって消費MPは5分の1になる。

 四秒後、俺は一つ下の階層の空中に浮かんでいた。

「うおおっ!」

 突然の浮遊感に驚くが、さしたる問題ではない。空中で体勢を整え、華麗に着地する。

「よし、これならいけそうだな」

 これだけMPを節約できれば、一周の攻略時間が十分以内のハイペースでも、問題なく七八周はできるはずだ。

 デメリットがあるとすれば、転移先に他の冒険者がいた時とんでもなく気まずいという点だが、あえて考えないようにしておく。その事故が起きた時に改めて考えるとしよう。

 その後も順調に一つ下の階層に転移し続け、二周目の攻略を終えた。

『ダンジョン攻略報酬 レベルが5アップしました』

「解決策を見つけたとはいえ、今日はもうこの方法は使えなさそうだな……」

 一周目と二周目の途中までは大量にMPを使用していたこともあり、現在のMPは残りごくわずか。これ以上この方法で攻略を続けるのは困難だ。

 ここからは、前日までの攻略方法に切り替える。すなわち速度に頼った周回だ。

 その後、夢見ダンジョンを十二回攻略することができた。

 最初の二回を合わせれば計十四回。今日一日で、70レベルもアップした。

 俺のレベルは470になり、SPが新たに700溜まる。

 色々と考えた結果、俺は新たに二つのスキルを獲得することに決めた。


 ―――――――――――――――

 魔力上昇LV1(必要SP:200)

 魔力回復LV1(必要SP:200)

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 この二つは名前の通り、MPの総量と回復量を上昇させるスキルであり、今の俺には一番必要なものだと思った。今回みたいにダンジョン内転移を連発するために必要なMPが足りなくなるのは困るからな。

 それに、仮にダンジョン内転移がなかったとしても、MPは冒険者にとっての生命線だ。

 多ければ多いに越したことはない。

「よし、とりあえずはこんなところか」

 明日からはもっと効率良くレベルアップしていこう。

 そう思いながら、俺は家に帰る。

 夢見ダンジョンを攻略するのは、明日が最後になってしまうと知る由もないまま。

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