最高裁判所──改め、チヨダク王国裁判所の大法廷は満席だった。


 焼失した巨大な天窓から、ファンタジー異世界の陽の光が差し込む。

 照らし出される、ハーフエルフの検察官、ハーフ妖狐の弁護人、老いた勇者の被告人。

 老勇者に施された魔力拘束が、獣人の刑務官の手によって解かれる。

 刹那──大法廷に熱風が吹き荒れた。体毛が焦げつくほどに熱い。

 傍聴席の最前列で、直撃を受けたのはピンクのメイド服を着る人間の王女。だが、笑っている。口を「ヮ」みたいな形にして、楽しそうに前を向いている。

 その視線の先、応えるように、大法廷奥の扉が開け放たれた。

 まず現れたのは、十六歳の日本人の少年だ。

 裁判所の黒いローブを羽織っている。平凡な身体に顔立ちだが、表情には決意があった。裁判用の魔法のウィンドウを手元に浮かべ、書記の机へと歩む。

「裁判所補佐官、とうアクト……」と、メイドの犬耳少女が呟いた。

 ついで現れたのは、十五歳の見た目の日本人の女だ。

 少年と似た黒いローブで、小さくなった身体と、大きなままの胸を包んでいる。勝ち気な表情に、猛禽類のような瞳を輝かせ、堂々たる歩みで法壇へと歩む。

「あれがおジャッジ様……!」「中身はアラサー……!」「千代田区から喚ばれし……」「ホンモノのニホン人にして……」「ニホン国の法を司りし者……!」

 ざわめき。傍聴する、多種多様な人型異種族の、開いた口から言葉が漏れる。

 みな、前代未聞の大裁判を見に来た王国民たちだ。

 大法廷の座席数は二百八。その数を超えて集まった人々が、空間が許す限りで立ち見している。傍聴席の周囲にひしめき合う人々を、王国に仕えるメイドたちが警備する。

 少年が、齢七十の勇者の前に立つ。そして高らかに呼び上げた。

「チヨダ元年(わ)第1号 勇者ご一行焼殺事件、開廷! 礼!」

 集う、ファンタジー異世界の面々が、起立し礼をし着席した。

 ──ただ二人、睨み合う裁判官と、勇者を除いて。

 補佐官の少年が、裁判記録ウィンドウを自らの頭上に浮かべた。

 魔法の事件記録を、背後の義理の姉に渡し、瞬間、確かめるように振り返る。

 姉は、黙って頷いた。任せろ、と言ったように見えた。

裁判官ジヤツジわがつまツカサ。待ちくたびれたのう──」

 酒で焼け、しゃがれた声が響く。老いてなおギラつく勇者の双眸が、法壇を向き、

「小娘が、王国の英雄を裁けるかッ!」

 喝破に飛んだ勇者のツバの一粒一粒が、小さな炎の球となり舞い落ちる。

 火球は、この世界に二人きりの日本人の、毛髪と、衣服を焦がした。

「無論だ。裁判官はそのためにここに立つ」

 凜とした瞳で見据える少女は揺るがない。

 握った右手拳を、頭上に掲げ、

「汚い炎をわめき散らすな、問うのは裁判所わたしだ、被告人──ッ!」

 ハンマーのように法壇に打ち下ろす。

 大法廷に轟音が響き、巨乳が揺れた。


 裁判官 VS 勇者!


 世界を変える裁きの火ぶたが、切って落とされた!

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