第三巻 第一章 破滅は回避できたけど……②

    ***


 翌朝、私は昨夜の緊張をわずかに残したまま身支度をして、謁見の間に向かった。

 玉座のお父様を挟んで左にレナルドとリアムの兄弟が、そして右に私が立ち、正面に並んだデュラン公爵やスヴェンたち重臣と向き合う。

 元引き籠もりのリアムだけはいまだに全身をこわばらせているものの、他の者は私たち王位継承者が朝議に参加することにも慣れてきたのだろう。最近は重臣たちの値踏みするような視線もあまり感じなくなったし、私自身も落ち着いて……うっ!

 玉座越しにレナルドと目が合いそうになって、私は反射的に顔を背けた。

 いや、もう本当にごめんなさい。恋愛経験が乏しすぎるせいで、こういう時にどう反応したらいいか本気でわからなくて。レナルド、傷ついてないよね?

 私はレナルドの様子が気になって仕方なかったけど、重臣たちの前で話しかけるわけにもいかない。内心の焦りを隠しながら、表面上はぜんとした王女の振りを続けているうちに、スヴェンの報告から朝議が始まった。

 最近のスヴェンは私たちの家庭教師にとどまらず、国王直属の配下として多方面で活躍してるらしい。国王試験の試験官にばつてきされるほど王からの信頼が厚く、その調査分析能力は群を抜いているということで、重臣たちの間でも一目置かれている。

 そんなスヴェンが今日最初の議題に挙げたのは、先日王都で発生した誘拐事件のてんまつについてだった。その事件では、路上生活を送っていた少年少女や、教会所属の救貧院・養護院にいた子たちが半ばだまされるようにして炭鉱に送られ、そこで過酷な労働を強いられていた。

「事件に巻き込まれた者たちの救済措置について、私とブルドン侯爵の二人で協議を行いました。彼らが強制的に労働契約を結ばされていた場合には即刻契約の解除を認め、その身柄を救貧院に預けるのがよいと、私たちは考えますが」

「昨日私は教会へ赴き、すうきようの一人であるマティアスと話をしてきた。王都の救貧院では少年少女の受け入れ準備が整ったそうだ」

 スヴェンの報告を受けて、レナルドが前に出た。

「皆も知っているように、ヴィオレッタが救貧院の財政再建を行い、その住環境を飛躍的に向上させたおかげで、受け入れ人数に大幅な余裕ができたらしい」

「おお、さすがヴィオレッタ様」

「次代の王として頼もしい限りですな」

 重臣たちのおもねるような視線が私に集中する。

 いやいや、待って。救貧院の改革は、レナルドたちの助けがあったからこそ実現できたことだ。それを私一人の功績みたいに言われても、反応に困るんだけど。

 しかも、こちらに友好的なまなしを向けている重臣の多くは、先日までレナルドを王に望んでいた者たちだ。もしかしたらレナルドが私を支持するように根回ししたせいかもしれない。しかしそれにしても、こんなに態度を変えてしまっていいの?

「それでは、被害に遭った少年少女の受け入れにつきましては、引き続きレナルド様とマティアス様に指揮をお願いしたいと思います。レナルド様、よろしいでしょうか?」

 スヴェンがいつもと同じ笑顔で問いかけ、レナルドが「ああ」と答える。

「被害者たちへの対応は、私とマティアスで責任を持つ。だが、人身売買に携わった加害者たちの方はどうなっている? 光の乙女とバチストきように協力した者たちの身柄は、無事に拘束できたのか?」

 レナルドが尋ねた瞬間、広間を満たす空気がピンと張り詰めたのを私は肌で感じた。

 そうだ。今回の事件は、黒幕である乙女たちの逮捕で終わったわけじゃない。

「光の乙女に協力した聖職者や、自らが所有する炭鉱で少年少女に労働を強いていた貴族たちの身柄はほぼ拘束し終えました。ですが、彼らを炭鉱に連れて行った仲介役の平民については、捜査がまだ十分に進んでいません。そうですよね、ブルドン侯爵?」

 重臣たちの視線が、ブルドン侯爵と呼ばれた三十代半ばの男に移る。彼は元々渋い造形の顔を一瞬さらにいまいましそうにゆがめてスヴェンをにらんだ。

 アッシュグレーの髪に金色がかった緑の瞳、そして引き締まった体つきは軍人や騎士を思い起こさせるが、彼の役職はそういったものとは縁遠い。彼はこのグランドール王国における最年少の大臣──それも内務大臣だった。

 このグランドール王国には、王の顧問官である枢密院とは別に、内務・外務・法務・財務・海軍・陸軍の長たる六つの大臣職が存在する。ブルドン侯爵は警吏組織を統括する内務省の長だけあって実直な性格をしているのか、玉座のお父様に向かって直角に頭を下げて告げた。

「申し訳ございません、陛下。今スヴェンが報告したように、事件に関与した貴族や聖職者の逮捕はほぼ終わりましたが、平民の方は捜査が難航しております」

「なぜだ? 貴族たちからおうしゆうした手紙や契約書を見れば、平民の仲介役にもすぐに辿たどけるのではないか?」

「お言葉ですが陛下、このような事件に関わる平民は得てして用心深く、偽名を使ったり、居住地を度々変えたりするため、しっぽをつかみにくいのです。警吏たちも王都で生じる様々な事件に日々追われているせいで、一つの事件に継続して割ける人員にも限りがございますし」

 ブルドン侯爵が苦々しげにこぼして、私の方をにらんだ気がした。え、なんで?

 いやまぁ、確かに瓶詰め工場が放火された時とか、レモンスカッシュ工場に市民が押し寄せた時とか、私も警吏が出動する場に居合わせたことはあったけど……ごめんなさい。全部わざとじゃなかったの。だから、そんな嫌そうな顔をしないで。

 私がなんとも言えない気持ちでいると、隣で私以上に悩ましげな吐息が聞こえた。お父様だ。

「警吏たちも忙しいのはわかるが、早く犯人たちを捕まえてくれ。今回の事件に貴族や教会が関与していると聞いて、民は我々王侯貴族に対する反感を強めている。万が一今回の件が引き金となって、ポワシー事件のような暴動に発展しては大変だ」

「はい。そうなる前に、私も事件の全容を解明しなければならないと考えています」

 お父様の言葉に、ブルドン侯爵が真剣な面持ちでうなずく。見ると、他の重臣たちも苦い過去を思い出したのか、いつになく暗い表情をしている。私もつられて緊張した。

 グランドール王国の歴史について学ぶ上で、ポワシーの名を避けて通ることはできない。それは巨大な炭鉱を持つ北西部の地名で、とある事件が起きるまでは我が国の領土ではなかった。そこは海峡を挟んで隣接する島国──ロワール王国が大陸に有していた飛び地の一つだった。

「ヴィオレッタ様がお生まれになるより前の事件ですが、ご存知でしょうか?」

 私が勉強したことを思い出していると、急にスヴェンが尋ねてきた。

「はい。私も詳しいわけではありませんが、歴史書に書かれている程度であれば知っています」

「そうですか。それは具体的にどのような内容ですか?」

 え? スヴェンに笑顔を向けられ、私は一瞬言葉に詰まった。えーと、あれは確か……。

「今から二十五年ほど前のことです。ポワシー地方が異例の豪雨に見舞われ、炭鉱で崩落事故や土砂災害が相次いだと言います」

 重臣たちの注目を一身に集めながら、私は懸命に記憶の糸を辿った。

 それは近年まれに見る大災害だったらしい。前世の日本であれば、自衛隊が派遣されるレベルの。そういう非常時には、本国のロワール王国が真っ先に救援に向かうのが筋だろう。しかし、この時は違った。

「事件が起きた当初、国境近くの教会に光の乙女が滞在していました。ポワシー地方の惨状を聞いた乙女は王に働きかけて、国を越えた支援と避難民の受け入れを即座に行いました。それに対し、ロワール王国は被災者の救援や復興支援よりも、本国の産業維持を優先しました。彼らは災害で落ち込んだ石炭の産出量を早期に回復させるため、傷ついた被災者たちに炭鉱での過酷な労働を強いたのです」

 インターネットも電話もない世界で、本国が飛び地の情勢を正確に把握するのは難しい。だが、それにしてもロワール王国は情勢を見誤りすぎた。

「この事件が起きるまで、ポワシー地方の民は、海を隔てていても自分たちはロワール王国の一部だという意識を有していました。しかし本国から奴隷のように扱われたことで不満が爆発し、本国から派遣されてきた役人たちのしきを襲撃しました。さらに彼らは、ロワール王国に代わって、光の乙女を有する我が国のさんに入ることを希望しました。その結果、同地方を手放したくないロワール王国と我が国の間で戦争が生じたのです」

「五年も続いたポワシー戦争ですね」

 スヴェンのあいづちに、私は「はい」とうなずいた。

「最終的に我が国優勢のもとで和約が結ばれ、ポワシー地方は我が国の領土に組み込まれました。ですが、この戦争は両国に深い傷を残しました」

 そう、現在まで続く深刻な財政赤字はこの時に生じたのだ。戦争にかかる費用は、王侯貴族のぜいたくなんて目じゃないほど膨大だからね。しかも両国が戦争に熱中してる間に、比較的平和だった大陸東部に商人や職人が流出し、そこで新興国群の台頭を許してしまった。いわゆる漁夫の利を取られ、ロワール王国以上にごわい脅威を生み出してしまったわけだ。

「今回の強制労働が発覚したのは、このポワシー地方ではありません。しかし場所がどこであれ、民にとって許しがたい話であることに変わりありません。早期に事件の全容を解明し、加害者は貴族でも平民でも等しく罰して被害者の民を守る──我々がそういう姿勢を貫いて見せない限り、民の間で反感が高まって、暴動につながる可能性もあります。それに……」

 炭鉱関連の資料を読んでいた時に見た論文が、ふと脳裏をかすめた。あの内容と今回の事件を結びつけて考えるのは、さすがに飛躍しすぎかもしれない。でも……。

 迷って口を閉じた私に、スヴェンが「続けてください」と目で促す。広間に集った重臣たちは、いつの間にか真剣な様子で私の話に耳を傾けていた。その圧の強さに一瞬ためらいを覚えたものの、私は結局スヴェンの笑顔に背中を押されて説明を続けた。

「皆様もご存知のように、戦争で生じた膨大な損失を補うため、我が国は戦後各地で度重なる増税を行いました。そのせいで、近年ポワシー地方では『ロワール王国時代の方がマシだった』という声が増えているそうです。そこに、かつての悲劇を思い出させるような、炭鉱での強制労働事件が起きたのです。我々が被害者の平民に寄り添う姿勢を見せなかった場合、ポワシー地方の民はどう思うでしょう? 最悪、今度は我が国からの独立を求め出し、その過程でロワール王国の介入を招く可能性もあるのではないかと、その、私は愚考しますが……」

 考えながら話しているうちに、私はだんだん自分の指摘が的外れではないかと心配になってきた。だって、スヴェンも他の人たちも何も言ってくれないんだもの。

 不安に襲われた私は、恐る恐る重臣たちの反応をうかがい、「あれ?」と首をかしげた。なんかみんな、あつられた顔つきになってない?

 前世を思い出す前の私がとんでもないワガママを言って、皆を絶句させた時とも様子が違う。今私に向けられているのは、戸惑いと敬意の入り交じった奇妙な視線で……。

「これが本当に、あのヴィオレッタ様なのか?」

 誰かが思わずといった様子でこぼした声が壇上まで届いた。

 あっ。そういえば、私が公の場で意見を述べるのは今日が初めてだった。今まで他人の悪口と贅沢にしか興味のなかった女が、突然ドヤ顔で政治の話を始めたら、誰だって戸惑うよね。えーと、こういう時はどう対処したらいいんだろう?

 私が困ってスヴェンを見ると、彼はその笑みを深くしてみせた。レナルドもなぜか顔に意味深長な笑みを浮かべているし、リアムに至ってはやたらキラキラした目で私を見ている。え、どういうこと?

「なるほど。次の王に指名されるだけあって、ヴィオレッタ様の洞察はお見事ですな」

 途方に暮れる私の耳に、言葉の割に感情のもっていない声が聞こえた。発言の主は、枢密院代表のデュラン公爵だった。彼はレナルドを王にするため、国王試験の再試を訴えていたのに。それが私を褒めるなんて、どういう風の吹き回しだろう?

 私がいぶかしんでいると、公爵は「ふむ」と口ひげをなでて続けた。

「私どもは、今回の事件が我が国の世論に与える影響ばかりねんしておりましたが、ヴィオレッタ様のおかげで視野が広がりました。近年我が国は、大陸東部で台頭しつつある新興諸国群に対抗するため、ポワシー戦争でのわだかまりを水に流して、ロワール王国と手を組むことも考えていました。ですが、やはりの国に対する警戒を怠ってはなりませんな。新王即位前の今は特に」

「公爵は、ロワール王国方面で何か気になる動きを察知なさったのでしょうか?」

 どこか含んだ公爵の物言いに、スヴェンがすかさずただす。公爵は私とレナルドの方をちらりと意味ありげに見やって告げた。

「皆様もご存知のように、私の妹はロワール王国の貴族に嫁いでいます。先日、その妹が私に手紙をよこしたのです。『ロワール王国の宮廷では最近、レナルド様のことがよく話題に上ります。レナルド様と結婚できる女性はどんなに幸せでしょう、レナルド様こそ両国の架け橋になってくださる方だ、と』」

「公爵、それはつまり……」

 問い質すお父様の声に焦りがにじむ。向き合う公爵は深くうなずいた。

「陛下がお察しの通り、ロワール王国はレナルド様を我が国の次期王とし、そのきさきの座に自国の姫を据えたいと考えているようです」

「ロワールの姫を我が国に輿こしれさせるだと?」

「年回りから言って、候補に挙がっているのは才女とうわさの次女だろう? 油断ならんな」

 重臣たちの間に動揺が走るのを見て、公爵が同意する。

「あのロワール王国が、我が国との関係強化のためだけに王族同士の婚姻を望むとは思えません。彼らは自国の姫に、私の妹のような役割を期待しているのではないでしょうか?」

 暗に姫のスパイ行為を示唆されて、重臣たちが顔をこわばらせる。スヴェンやレナルドですら緊張しているのに気づいて、私もゴクリとツバをみ込んだ。

 外国の姫の輿入れは、うまくいけば両国の関係強化につながるが、それは時に敵を抱え込む結果にもなる。姫に同行してきた侍女や外交官がスパイ行為を働くなんてよく聞く話だし、姫の出身国に有利な政策を執るように、姫自身が結婚相手や周囲の人間に働きかけることもある。もし姫がその影響力を最大限に行使したいと願うのであれば、彼女の結婚相手はできる限り高位で政治的影響力の強い男性──国王などが望ましい。

「ロワール王国にとっては、自国の姫を我が国の王妃に据えることが理想ですが、たとえレナルド様が王になられなかった場合でも、そのお相手に姫を差し出したいと願うでしょう。それだけ彼の国は、我が国におけるレナルド様の影響力を高く評価しています」

 さすがレナルド。外国にまでその優秀さが伝わっているなんて、すごいわ。でも今回ばかりは、それがあだになってしまったのね。未婚の王子ならリアムもいるけど、引き籠もりの彼との婚姻は政治的魅力が薄いのか、婚姻外交の対象にはなりにくいし。

「陛下、相手はあのロワール王国です。彼の国の姫を我が国に迎える事態は極力避けた方がいいと、我々は愚考いたします」

 デュラン公爵と、彼にくみする面々がお父様に向けて一斉に頭を下げる。

「そうだな。余もロワールの姫の輿入れには賛同しかねる。だが彼の国が正式な使者を通じて打診してきたら、どうする? 下手な断り方をして、外交関係に波風が立っては厄介だぞ」

「はい。ですから、我々はヴィオレッタ様の一日も早いご即位と、レナルド様とのご婚約を願います」

 えっ!? とんでもない流れ弾に、私は頭が真っ白になった。確かに王の即位と婚約は、外交とは切っても切れない関係だけど!

「ロワール王国から婚姻について正式な打診が来るより先に、レナルド様がヴィオレッタ様の王配になると公表しておけば、彼の国もさすがに姫の輿入れを断念するでしょう」

 そりゃまぁ、そうだよね。女王の婚約者に向かって「我が国の姫の方がいいですよ」と持ちかけるのは、さすがに無謀だろう。でも公爵のやり方は強引すぎないかと思って、ついにらんでしまう。そのうちに私は気づいた。

 公爵を筆頭に、レナルドを支持していた重臣たちが最近、不自然なまでに私の即位に好意的になった背景には、このロワール王国の動きも関係していたのかもしれない。ロワールの姫の輿入れを許すくらいなら、レナルドの希望を聞き入れて、彼を私の王配に据えた方がマシだと彼らは考えたのだろう。

 朝からモヤモヤしていたことの理由がわかって、私はスッキリ……できるわけない! このままだと、私の即位に反対する人がいなくなって、私が次の王で確定してしまう!

「デュラン公爵のお考えに、私も賛同いたします」

 青ざめた私の耳にその時、無情にもよく通る声が聞こえた。スヴェンだ。

「ヴィオレッタ様の戴冠式とご婚約の発表は、可能な限り早くなさった方がいいでしょう。今すぐ準備に取りかかるとして、半年後でいかがでしょう?」

 は、半年後!? そんなのすぐじゃない!

 差し迫った現実に頭が追いつかない。しかし、がくぜんとしたのは私だけじゃなかった。

「待て、スヴェン!」

 めずらしく焦った様子のレナルドが横から口を挟んだ。

「新王は即位前に複数の儀式に臨むことを忘れていないか? ただでさえ今は強制労働事件の捜査などあって忙しいのに、半年後の即位は急すぎる」

 レナルド……。私の決意が固まっていないことを察して、時間稼ぎをしようとしてくれたんだろう。どんな時でも私の気持ちを優先してくれる、その優しさに胸がじんと熱くなる。

 だけど実際、半年後の即位では時間が足りないのも事実だった。我が国では、新王はその即位に先んじて光の乙女と共に聖地へ赴き、そこで一晩かけて神に祈りをささげることになっている。そして続く光の乙女の就任式において、王となる宣言をすることで初めて乙女から王冠を授けられる資格を得るのだ。

「現状では、光の乙女の就任式の日取りすらまだ決まっていません。その状態で半年後の即位には無理があると考えます。陛下もそう思われませんか?」

 ここはもう、国王であるお父様から鶴の一声をもらおうと考えたのだろう。レナルドがうやうやしくも有無を言わせぬ口調でお父様に迫る。

 お父様はちょっと悩むようにレナルドとスヴェンを見比べてから、最後に口を開いた。

「レナルドの発言にも一理あるな。だが、ヴィオレッタの即位は半年後で問題ないと、余は思う」

 お父様!? 本気なの!?

 私が驚いて顔を向けると、お父様は私の目をまっすぐに見返してうなずいた。

「元々余は国王試験の終了から一年以内に退位すると宣言していた身だ。それが少し早まったところで異論はない。そなたたち次世代の働きに期待している」

 そう言うお父様の顔には、濃い疲れがにじんで見えた。

 そうだ、お父様は本来王になるはずの人じゃなかった。レナルドとリアムのお父さんである先王が急死した際、私たち王位継承者は三人とも十歳にも満たない子どもで、国王試験を実施するには幼すぎた。だからこそ、お父様はつなぎの王として立ったに過ぎないんだ。

 もとが穏やかで優しい性格のお父様にとって、国のかじりはどれほどの重荷だっただろう。実際、ゲームの中では娘のヴィオレッタ王女にほんを起こされて殺されちゃうくらいだし。

 お父様がまつりごとから身を退きたいというのであれば、その願いをかなえてあげたいと思う。でも、その代わりが元悪役の私で本当にいいの?

 レナルドとリアムの二人が心配そうにこちらを見ているのがわかる。しかし、王の宣言によって動き出した歯車を止めることはできない。何も言えず立ち尽くす私の前で、お父様たちは光の乙女の就任式や私の戴冠式について着々と話を進めていった。

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