第三巻 第一章 破滅は回避できたけど……①

こちらの試し読みには、

前作『グランドール王国再生録 破滅の悪役王女ですが救国エンドをお望みです』

1~2巻の内容が一部含まれます。ご了承ください。












 もしもこの──グランドール王国という乙女ゲームの世界にインターネットがあって、一度だけなんでも自由に検索できるとしたら、何を調べる?

 前世の記憶を思い出してからというもの、ネットで検索したいことは山ほどあった。しかし今、私の前に検索画面があったとしたら、打ち込む単語は決まっている。

「告白 理由 知りたい」だ。


 夜のとばりが王宮を包み、ひとのなくなった王立図書館の片隅で私──ヴィオレッタ・ディル・グランドールは、そんな妄想をしてしまうくらい困りに困って頭を抱えていた。

 広々とした閲覧机の上には、古今東西の恋愛小説が積まれている。別に、仕事のしすぎで疲れて現実逃避してるわけじゃない。これらの小説は、前世でよく見かけた恋愛ハウツー本やコラム、SNSの代わりとなる参考書。

 私は今、心の底から悩んでいるのだ。先日の朝議のあとで告げられた、レナルドの告白をどう受け止めればいいかと。

 その、相棒ではなく、一人の男として見てほしいなんて……!

 あの時、耳元でささやかれた言葉のしんさを、頰に触れた手の大きさを思い出すだけで無性に恥ずかしくなって、足をジタバタさせてしまう。

 だって、私はパソコンで「こい」と打てば、「濃い」と漢字変換されるような前世を送ってきた女よ? しかも今世の私は「グランドール恋革命」という乙女ゲームのラスボスにして、悪役王女。その言動は控えめに言っても極悪で……うん、女性としてどうこう言う以前に、人間として終わっていた。

 そりゃまぁ、前世を思い出してからは改心して頑張ったし、様々なプロジェクトを通じて、レナルドたちと十分な信頼関係を築いてきたと自負してるよ。でも、元悪役王女の私が誰かの恋愛対象になるなんて考えもしなかった。

 レナルドだって、ゲームではアナリーと恋に落ちていたくらいだから、王道のかわいい美少女が好きなはずよね? 私も自分が男だったら、アナリーとつき合いたいと思う。

 それなのに、なぜ彼は恋愛音痴で、いつも目の下にクマを作りながら仕事ばかりしている、私のような女を好きだと言ってくれたんだろう? 私のどこに異性としてかれる要素が……あぁぁー、もうっ!

 私は「告白の動機について」と題したメモを、ペン先で勢いよくつついた。その時だ。

「ヴィオレッタ? こんなけまで何を熱心に調べているんだ?」

「へっ!? レ、レナルド!?」

 顔を上げた私は息が止まりそうになった。考え事に夢中だったせいで、気づかなかった。げんそうな顔をしたレナルドが、図書館の入口からこちらに向かって歩いてくる。

「レナルド、どうしたの? 今日はマティアスとの打ち合わせが長引きそうだから、教会に泊まるって言ってなかった?」

「ああ。そのつもりだったが、思ったより早く終わったんで帰ってきたんだ。ただ、ベッドに入っても妙に頭がえてしまってな。どうせ眠れないなら、仕事でもしようかと思って来た」

 あ、本当だ。そう言うレナルドの手には書類の束が握られている。

「ヴィオレッタ、あんたは? こんな時間に何してる?」

「え、私? 私もその、あなたと同じよ。寝付きが悪いから、本でも読もうかなーと思って」

 まずい。今夜はレナルドが王宮にいないと思って、完全に油断してた。あの告白について調べていたことがバレたら、気まずすぎる!

「隣、いいか?」

「え、ええ、もちろん」

 私の動揺などつゆ知らず、レナルドが横の椅子を引く。私はメモだけでも隠そうとして、近くに置いてあった本をさりげなく上に載せた。その瞬間のことだ。レナルドが「へぇー」と面白がるような声を上げた。え、何?

「意外だな。あんたもそういう本を読むなんて」

「そういうって……っ!?」

 私はビシッと固まった。な、なんでよりにもよって……!

 さっき私がメモの上に置いた本は『運命の赤い』という、とびきり濃厚な恋愛小説だった。しかも、お子様には見せられない描写が満載の。

「いや、そのっ! これは私の趣味じゃなくて! たまにはちまたで話題の文学作品に触れてみるのもいいかなーと思っただけで」

「そうか。で、あんたはその恋愛小説を読むことで、告白の動機について理解できたのか?」

「…………!」

 レナルドが隣でにっこり笑う。

 うそでしょ!? この様子、隠したメモのタイトルまで見られてたの!?

「どうした、ヴィオレッタ? 俺の告白についてなら、いくらでも解説するが」

 これ、絶対にわかって言ってるよね? 恋愛慣れしていない私が、レナルドの告白に対してどう反応すればいいかわからなくて悩んでるって。

 レナルドは机の上にほおづえをついて、あせる私の反応をたのしそうに見守っている。

 今ここで彼に「どうして私に告白したの?」と尋ねれば、ことは簡単だ。それだけで私の悩みは一つ解決する。

 でもそんなこと、面と向かって聞けるわけないじゃない! そもそもそれができたら、レナルドの不在時を狙って図書館に来て、一人で恋愛小説をこそこそ読みあさってないわよ!

「いいのか、ヴィオレッタ? せっかくの機会なのに、何も聞かなくて」

 もんもんとしている私に、レナルドがからかうような目を向けてくる。

「だ、大丈夫よ、私なら……そう! 本があれば、たいていのことは一人で調べられるから」

「そうか、俺の告白じゃ参考にならないのか」

「そうじゃなくて!」

「違うのか? なら、なんでさっきからこっちを見ようとしない?」

「だ、だってこういう時、どういう顔をすればいいかわからないんだもの!」

 私はやけになって涙目で叫んだ。その瞬間、レナルドが固まった。

 え、何この反応? 私、また何か変なことを言っちゃった?

 レナルドが顔を手で覆う。その指の隙間から、「はぁー」と悩ましげな吐息がこぼれた。

「あんたのそういうところ、本当にたちが悪いよな」

「え?」

「俺はあんたのことが好きなんだぞ? よりにもよって二人きりの時に、そんなかわいい反応をされて俺がどんな気持ちになるか、全然わかってないだろう?」

 か、かわいい? 私が?

 思わず自分の顔を指さし、口をパクパクさせてしまう。レナルドがクスッと笑った。

「本当、そういうところだよ。俺の言葉にいちいち赤くなったり、慌てたりする姿を見ていると、どうしても期待したくなる」

 ま、待って! これが本当にあのレナルドなの? 一緒にプロジェクトを進めていた時とはまるで違う。その言葉も態度も、今日はビックリするほど甘くて……。

「レナルド、どうしたの? なんかその、この間からやけに言い方がストレートというか」

「別に、俺は自分の気持ちに正直になっただけだ」

「そうだとしても、その……」

「なぁ、ヴィオレッタ。あんたは王族の婚姻についてどう思う?」

「えっ、王族? 婚姻?」

 今度は急にどうしたんだろう? 突然の話題転換についていけず、目を白黒させてしまう。そんな私を見て、レナルドがふと真面目な顔つきになった。

「王族の婚姻に当たっては政治的利害が優先されるべきであって、王族は自らのおもいを軽々しく口にしてはいけないと、俺は思っていた。その考えは今でも変わらない。だからこそ、はんな気持ちで告白したわけじゃないんだ」

 戸惑う私の顔を、熱を帯びたエメラルドの瞳がまっすぐにとらえる。

「俺は一生涯かけて、女王となるあんたを支えていく。だが、政治のためだけに王配になる気はない。二人きりの時は、あんたの恋人でいさせてくれないか?」

「……………………」

 真摯な瞳で見つめられ、私は息もできないほど全身が熱くなった。

 レナルドのことは好きだ。これからも一緒にいろんなことをやりたい。だけど、私は彼のことを最高の相棒だと思ってたのよ? そんな相手から急に情熱的な言葉をささやかれても、すぐには気持ちが追いつかない。今のあまっぱい状況ですでに手一杯で……あああーっ!

 心臓が壊れそうなほどドキドキして、レナルドの顔をまともに見ていられない。思わず逃げるように視線をらした。そんな私の頭に、ポンと手が置かれた。

「……レナルド?」

「返事は急がなくていい。ただ、次に何か知りたくなった時には、本で調べる前に俺に聞いてほしい。俺は本気だから」

「……う、うん」

 大きな手が「よくできました」というように、そっと頭をなでてから離れていく。

「おやすみ、ヴィオレッタ。明日も朝議があるんだから、夜更かしはほどほどにな」

「あ、あなたもね。おやすみなさい」

 レナルドが少し寂しげに微笑ほほえんでから図書館を出て行く。その姿が扉の向こうに消えるのを待って、私は机の上にヘナヘナと上半身を投げ出した。

 あのレナルドが甘い。甘すぎるわ!

 私は恋愛初心者なのに、丸腰で乙女ゲームのただなかに突然放り出された気分だ。……いや、確かにここは乙女ゲームの世界なんだけど、こういう展開は予想してなかったというか、レナルドが私を好きになってくれた理由も謎だし、この先どうしよう?

 一人に戻った図書館で、私はレナルドの告白についてもう一度考えようとした。でも、できなかった。さっき触れられた箇所がまだ熱を帯びてる気がして……結局、この日は湯気が出そうなほど熱くなった顔を机に伏せて、手足をジタバタもだえさせることしかできなかった。

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