第二巻 第一章 王座はお断りします②

    ***


 朝議を終えたあと、私たち王位けいしよう者はすぐひかえの間に下がった。その直後のことだ。レナルドが行く手をはばむようにかべにトンッと手をつき、たんせいな顔を近づけてきた。

「ヴィオレッタ、あんたはいったい何を考えている?」

「あ、あの、レナルド? 顔が近……」

げようとするあんたが悪い」

 え、この体勢、私のせいなの? いやまぁ朝議が終わるなり、そそくさと図書館に向かおうとしたのは私だけど、それは教会について調べたかったからで……。

 結果として私はかべぎわに追いめられ、レナルドのうでの中に上半身を閉じ込められている。イケメンは間近で見てもイケメン……じゃなくて! レナルドのいきが首筋にかかってくすぐったいし、なんかいいにおいまでするんだけど!

「ヴィオレッタ? どうかしたのか?」

 いつもと違う私の反応をしんに思ったのか、まゆをひそめたレナルドがさらに顔を寄せてくる。

 待って! レナルドは意識してなくても、壁ドン初体験の私にはげきが強すぎるから!

 思わず目をらし、バクバクと脈打つ心臓の上に手を重ねた。その時だった。

「兄さん、ヴィオレッタをいじめるのはそのくらいにしなよ」

 レナルドの腕を、リアムが後ろからクイクイと引っ張った。

「いじめ? 俺はヴィオレッタと話をしたいだけだが」

「なら、もっとはなれて。もう少し適切なきよを取った方がいいよ」

「………………」

 レナルドがなんだか複雑な表情で私と弟を見比べ、腕のおりを解く。よ、よかった……。リアムのアドバイスが少しでもおくれていたら、私の心臓はばくはつするところだったわ。

 私はリアムにお礼を言おうとし、ちゆうでピタッと動きを止めた。あれ、リアム?

 彼は私とレナルドの間に立ったまま、めずらしくくちびるをツンととがらせている。

「あのね、ヴィオレッタ。僕だって、さっきのことはちょっとおこってるんだよ。事前の相談もなく、勝手に僕たちを見届け人に願い出るなんて」

「うっ……、ごめんなさい。でも、ちょうどいい機会だと思って」

「どこがだ? あんたはかつすぎる。即位直前で、こうしやくに足をすくわれたらどうする気だ? しかも、教会にはラルスの共犯が残っているかもしれないんだぞ? そんな場所へ、やつの計画をつぶした張本人のあんたが乗り込むなんて、いくらなんでも危険すぎる」

 レナルドが苦々しい顔つきでき捨てた。ただ、そのきつい口調とは裏腹に、彼の目はしんけんそのもので、私のてつぽうな行動を心の底から心配してくれているらしい。

 ラルスとの共犯を疑われたあとでも、本気で私を王に推し続ける気なんだ。つまり、それだけ私のことをしんらいしてくれているわけで……。

「何を笑っている? 俺は真面目まじめな話をしているんだが」

「ごめんなさい。あなたとリアムの真剣な様子を見ていたら、なんだかうれしくなっちゃって」

「は?」

「だってあなたたち、私がラルスときようぼうしていたなんてじんも疑っていないでしょう? 二人とも信じてくれてありがとう。大好きよ」

「………………」

 レナルドとリアムがいつしゆん、意表をつかれたように固まる。いつぱく後、二人して毒気をかれたように深いため息をこぼした。レナルドが口をへの字に曲げ、私のほおに手をばしてくる。

「痛っ! なんで急に引っ張るのよ!?」

「人の気も知らずに、のんきにヘラヘラ笑っている姿を目にしたら、むかついただけだ」

「兄さん……。そんなこと言って、耳が赤くなってるよ」

「…………っ!」

 レナルドが私の頬からパッと手を離して横を向く。

 え、もしかして今のって照れかくしだったの? わかりづらいなぁ……。おまけに痛いし。

 ちょっと赤くなった頬をなでながら、うらみがましくレナルドを見上げる。彼はそんな私の方をちらっと見返し、真顔にもどって続けた。

「朝議の場で王命をうけたまわったからには、教会に赴かなくてはならない。これ以上変に疑われる前にさっさと教会をしようあくして、身に降りかかる火の粉をはらうぞ」

「うん。僕もできる限りのサポートをするから、いつしよに頑張ろう」

「レナルドもリアムも、ありがとう!」

 ああ、やっぱり私はこの二人が大好きだ。めつかいする中で二人と向き合い、今のような関係を築けたことがほこらしく、嬉しい。

 にやつく私を前にして、レナルドが再びムスッと口元を引き結ぶ。そのとなりで、なおなリアムはちょっと照れたようにはにかんでいた。


 レナルドたちと別れたあと、私はさつそく図書館へ向かい、教会について調べることにした。

 教会の上層部は光のおとと、彼女を支える三人のすうきようで構成されている。たとえ王族であっても、彼らの意向を無視することはできない。光の乙女は神に選ばれし存在で、ゆいいつ国王と対等な立場にあるという建前のせいだけではない。教会上層部のしようにんがなければ、私たちおうこう貴族はけつこんも離婚も、果てはようえんぐみや相続も行えないからだ。

 さらに教会上層部には、悪逆非道な王令にていこうする権利があたえられていて……。

 私が夢中になって資料を読んでいると、その横にどさっと音を立てて追加の本が置かれた。

「教会について勉強なさるのであれば、これらの本にも目を通された方がいいですよ」

「スヴェン先生!」

 さすがは家庭教師。何かお願いする前から、私のことを気にかけて様子を見に来てくれたらしい。私はスヴェンのはいりよにお礼を言おうとして、途中で言葉をみ込んだ。

 彼のがおはいつもと変わらない。でも、その下の本心はどうだろう? ラルスのじんもんを担当している以上、やっぱり内心では私を疑ってるんじゃないのかな?

「ヴィオレッタ様、いかがなさいましたか?」

「あ、いえ、その……」

 返答に困る私を見下ろし、スヴェンがなぜかフッと笑みを深くする。

「ヴィオレッタ様はわかりやすい方ですね。ご安心ください。私はあなたがラルスの共犯だなんて思っていません。教え子であるあなたのことを信じていますよ」

 ……キラキラ全開の笑顔で言われても、かえってうさんくさく感じるのは私だけだろうか?

 いっそうけいかいを強めた私の反応などいつさい気にせず、スヴェンが向かいの席にこしける。

「もしお時間をいただけるようでしたら、少し本の説明をしてもよろしいでしょうか?」

「……はい。ぜひお願いします」

 スヴェンが家庭教師らしく、持ってきた本のがいようを手短に話し始める。そこにいつもと変わった様子はない。……うん、いつも通りのエグい課題量だわ。

 説明を聞くだけでゲッソリしてきた私を見て、スヴェンがにっこり告げる。

「残念ながら今回、私はみなさまに同行できません。教会で王族としてずかしくない振るいをなさるためにも、どうか最低限の知識は身につけておいてください」

「先生は、その……やっぱり最近は、ラルスの尋問でおいそがしいのでしょうか?」

「実は今、私は別件の調査にも時間を取られているせいで、少々ぼうなんです」

「何かあったのですか?」

 私としては、なんとなく聞いた質問だった。だが次の瞬間、スヴェンのまとふんがすっとしんけんを帯びたものに変わった。……え? 何かまずいことを聞いちゃった?

 スヴェンがしんちように辺りを見回す。彼はまどう私の耳元に顔を寄せ、「レナルド様とリアム様以外の方には、まだ他言せずにお願いします」と前置きをしてから続けた。

「最近、王都では貧しい平民の青少年をねらったゆうかい事件が多発しているのです。私があくしているだけでも、すでに百名ほどが行方ゆくえ不明になっています」

「そんなにたくさん!? けいはいったい何をして……って、警吏が何もしないからこそ、事件の調査が先生にたくされたのでしょうか?」

「ご明察の通りです。今回の事件も身寄りのない青少年が被害者ということで、うつたえがあっても警吏がまともに取り合わず、そのせいで発覚が遅れました」

「あー、そうですよねー」としか、私は答えようがなかった。警吏は平民のことなんて、そこら辺の虫と同レベルにしか考えていないからなぁ……。

「ここまで大規模な事件であれば、裏で大きな組織が動いている可能性も高いため、私の出番となったのです」

「そうなんですか。でも、なぜ今その話を私に?」

「それは、ヴィオレッタ様が教会へおもむかれるからです。教会には、付属の養護院と救貧院がありますよね?」

 スヴェンが意味ありげに笑う。私はポンと手を打った。

 前にぶんけんで読んだことがある。養護院の保護対象が十二歳以下の子どもたちであるのに対し、救貧院ではそれ以上のねんれいで職がなく、衣食住に困っている人たちを保護していると。

「私は教会で養護院と救貧院の現状を確認してくればいいんですね? 困っている青少年をこれらのせつで保護できれば、今後誘拐されるかもしれない人の数自体を減らせますから」

「その通りです。王都の誘拐事件を早期に解決するためにも、ご協力いただけますか?」

 もちろん私に断る理由はない。私のちょっとした努力で誘拐の件数を減らせるなら、それにしたことはないもの。

「わかりました、先生。私、がんります!」

「ご協力、ありがとうございます。では、追加でこちらの本も」

 いったいどこにそんな大量の本を隠し持っていたのだろう。もともと高くなっていた本の山に、スヴェンが追加で何冊もせていく。

「ヴィオレッタ様は実にゆうしゆうな生徒です。今後も成長に期待していますよ」

 この課題の量からして、期待値が高すぎるように思えるけど……。スヴェンのかがやく笑顔を前にして、私にはすべてを受け入れるせんたくしか残されていないようだった。


    ***


 朝議から一週間後の昼下がり、私はレナルドとリアムの三人で教会の本部へ向かった。

 きんちようのあまり朝からソワソワしているリアムと、気を引きめた様子のレナルドと向き合い、馬車でられること一時間。窓の外をながめていた私は、とつじよとして現れた光景に息を吞んだ。

 すごい、本物の大聖堂だ! まるで前世のヨーロッパに来たみたい!

 晴れた空の下、高いせんとうを有する大聖堂のステンドグラスがいくいろにも輝いている。この大聖堂を中心として、辺りには教会関係の建物がいくつも並び、一つの区画を形成していた。

「皆様、ようこそお越しくださいました。私は教会ので、ユーゴと申します」

 大聖堂の前で馬車を降りたたんとびいろかみと目をした青年がひざまずき、むかえてくれた。青い布地に金のラインが入った騎士の制服を着ていなかったら、聖職者とちがえたかもしれない。ユーゴと名乗った騎士は、それほどやさしげなふうぼうをしていた。

「私は第一王子のレナルドだ。今日はよろしくたのむ」

 レナルドが手を差し出す。そのしゆんかん、ユーゴがピシッと音を立てそうな勢いで固まった。

 まさか王族からこんな気さくに握手を求められるとは思っていなかったらしい。まぁ、下町によくおしのびで通っているレナルドは、王族の中でもかなりとくしゆな方だと思うけど。

「こ、こちらこそ、どうぞよろしくお願いいたします!」

 ユーゴが尊敬と緊張の入り交じった目でレナルドを見上げ、おそる恐る手を取る。その顔になんともうれしそうな笑みがかんだ。同じ騎士でも、ラルスと違ってじゆんぼくそうな人だな。こういう人が相手なら、教会でもうまくやっていけそうな気がする。

 そう思って私がかたの力をいた、その瞬間の出来事だった。いかにも騎士といった風貌の筋骨たくましい男が、いろのマントをなびかせながら、大聖堂の奥から現れた。

「これはこれは王族の皆様、お忙しい中、ようこそお越しくださいました」

「あ、騎士団長」

 ユーゴがあわてて敬礼する。目立つマントを羽織っていると思ったら、騎士団のトップらしい。

「ユーゴ、ご苦労だった。おまえはもう退がっていいぞ」

「え? ですが、あの、今日は私が皆様のご案内をうけたまわって……いえ、失礼いたしました」

 騎士団長からジロッとにらまれ、ユーゴが口をつぐむ。何かれんらくの行き違いでもあったのだろうか。不思議に思っていると、団長がユーゴを押しのけて私たちの前に進み出てきた。

せんえつながら、本日は私が皆様を会場までご案内いたします。どうぞこちらへ」

 うーん、これは……。団長の笑顔を見上げて、なんとも言えない気持ちになる。悪名高いワガママ王女のうわさでも思い出したのか、団長の目は私をみするようにさぐっていた。

 個人的には、人をそういう目で見なかったユーゴの方に好感が持てたけど、団長の決定を無視して、彼を案内役に指名するわけにもいかない。そうよね?

 レナルドに目で問うと、彼はうなずき、さっきからフリーズしているリアムの肩に手を置いた。リアムがハッとわれに返って、不安そうに私たちの顔を見回す。

 そうだよね。リアムはただでさえ人と話すのが苦手なんだから、こういう場所は特に緊張するよね。

 私はリアムを安心させるように横に並ぶと、レナルドと二人で彼を守るようにして団長のあとに続いた。そんな私たちのことを、ユーゴは少しさびしげに敬礼しながら見送ってくれた。


 てっきり私はあこがれの大聖堂に案内されるんだと思って、ワクワクしていた。だけど、残念。騎士団長は大聖堂の入口で横に曲がると、中庭に面した石造りのかいろうに私たちを連れ出した。

 石柱の間からかいえる庭には冬でも青々とした草木がしげり、無機質な石の回廊と対照的な生の世界を生み出している。これはこれで、中世ヨーロッパみたいですごくいい。つい嬉しくなって辺りを見回していたら、気づいたレナルドに「おい」とたしなめられた。その時だった。

「貴様! 光のおとに対し、なんと無礼な仕打ちを!」

 突如としてひびいたせいそうごんな静けさを切りく。え、何事?

「私が様子を見て参ります。皆様はこちらでお待ちください」

 騎士団長が慌てた様子で一礼し、回廊の角を足早に曲がって行く。

「ねぇ、レナルド。今の声って……」

「光の乙女に付き従っている男のものだろうか?」

「でも兄さん、聖職者の言葉にしてはちょっと……その、乱れていなかった?」

 リアムのやんわりとしたてきに、私たちは三人して顔を見合わせ押しだまった。

 回廊の曲がり角はすぐ先だ。少し顔を出して様子をうかがうくらいなら、動いたうちに入らないよね?……よし。石柱に手をかけ、曲がり角の先をそっとのぞく。

 最初に視界に飛び込んできたのは、上品そうな顔立ちをした四十歳くらいの女性だった。いろの髪を後ろでゆるくまとめ、白地に金のラインが入ったローブの上から、緋色のマントを纏っている。その指には、遠目にもわかるほど大きなアクアマリンの指輪がはめられていた。

 知ってる。あれは「グランドールこい革命」の最後で、光の乙女となったアナリーが先代の乙女から受けぐ指輪だ。彼女のひとみと同じ色をしている上に、ゲーム中のスチルで見てつうに欲しいなと思ってしまうほど好みのデザインをしていたから印象に残っているのよね。

 今乙女の前には、せぎすで目つきの悪そうな男が立っていた。しつこくのローブに青いマントというで立ちは、彼が聖職者であることを示しているはずだけど……。

「よりにもよってこの大事な日に乙女にすいをかけるなど、おまえは何を考えている!?」

 男がツバを飛ばしながら、乙女のあしもとに向かってさけんだ。

 そこには真っ青な顔でふるえながら、にごった水たまりの中心でひざまずいている少年がいた。ひっくり返したそうの水をかぶってしまったのか、こしから下がずぶれになっている。

「あの、バチスト様、少々お言葉が……」

 近づいた騎士団長がバチストと呼んだ男をいさめる。まぁ、王族が聞き耳を立てているそばで、この暴言はまずいよね。だけど、興奮している彼の耳には届かなかったらしい。

「貴様をしよばつする! そうだな、今は冬であるし……」

 私はいやな予感におそわれた。まさかこのずぶ濡れの状態で、少年に罰をあたえるわけじゃないよね? いくら王都の冬は前世の日本より暖かいとはいえ、そんなことをしたら風邪かぜを引いてしまう。光の乙女は部下の暴走を止めないの?

 私は期待を込めて乙女を見た。しかし、彼女はほおに手を当てながらオロオロしているだけだ。

 ここは助けに入った方がいい気がする。でも、私のような王族が出しゃばっていいのかな?

 迷っている間にも、バチストは少年を指さし、顔に底意地の悪いみをひらめかせている。

「よし、決めた。貴様の処罰だが……」

 まずい! ここはやっぱり止めないと!

 私は王族の立場も忘れ、石柱のかげから飛び出そうとした。まさにその時だった。

「バチスト様、お待ちください」

 語気はするどくないのに、を言わせぬはくりよくの声が回廊の反対側で上がった。バチストが声のした方をにらむ。私もつられて視線を向け、思わず目をみはった。

 すごい。レナルドたちこうりやくキャラ以外にも、こんなイケメンが存在するなんて。

 年のころは、私やレナルドとさして変わらないだろう。青みがかったぎんぱつの下から覗く青年の顔は、大聖堂にかざられているちようぞうのように冷たく整っている。

「マティアス、私に何か意見をする気か?」

「いいえ、私ごときが首席のすうきようであるバチスト様にご意見など、とんでもございません」

 ちょっと待って! 枢機卿って、光の乙女に次ぐ教会のトップじゃない。

 マティアスと呼ばれた青年は私たちの存在に気づかなかったのか、こちらには目もくれず、バチストの前まで来て立ち止まった。その優美なくちびるはしが皮肉げにつり上がる。

「僭越ながら、バチスト様の頭にはすでに多くの知識がまっているため、新しい物事をおくする容量が不足していらっしゃるご様子。ゆえに養護院と救貧院の責任者がだれであるかということを折にれて進言し、失われた記憶を補完させていただく必要があるとこうしただいです」

「なっ……!」

 バチストの額にピキッと青筋が走った。遠回しに言ってるけど、それってつまり……、

殿でんは、私が他人の領分をおかもうろくじじいだと言いたいのか?」

「バチスト様は、ご自身をそのようにお考えなのですか? それは、それは……」

 マティアスがしれっとバチストをあおる。この人、クールな見た目に反して、かなりいい性格をしているらしい。彼はバチストから殺意のもった目でにらまれてもおくすることなく、その場にひざをついて、水たまりで震えている少年に手を差しべた。

 少年がハッとした様子でマティアスを見上げる。私は石柱の陰で胸をなで下ろした。

 一瞬危ない人に思えたけど、マティアスはバチストと違ってまともな聖職者らしい。彼が少年を助けてくれるなら、私の出る幕はない。そう思ったのに……、

「光の乙女のころもよごした罪は重い。罰としておまえに一日の絶食と、礼拝堂で一晩ずに立ったまま神にゆるしをい続けることを命じる」

「えっ!? そこは優しく助ける場面じゃないの!?」

 ……あ、いけない! 私は慌てて口を手で押さえた。しかし、この時すでにその場にいた全員が私の方を向いていた。

「ヴィ、ヴィオレッタ様? レナルド様とリアム様まで、いつからそちらに?」

 どうやらバチストは、私たち王族の顔を知っていたらしい。しゆうたいもくげきされたと知って、真っ赤ないかり顔がいつしゆんにして真っ青な困り顔に変わる。

 そばにいた団長が「だから言わんこっちゃない」と言いたげな表情をしているが、すべてあとの祭りだ。だけどまぁ、それはとっさにつっこんでしまった私の方にも言える。

 こうなっては仕方ない。私は意を決し、マティアスの前に進み出た。

「はじめまして、私はヴィオレッタ・ディル・グランドールと申します。マティアス、先ほどあなたが少年に下した罰の内容を聞いたのですが、いささかやり過ぎではないでしょうか? 今は冬ですし、礼拝堂で神に赦しを乞うにしても、せめて一時間程度にしてはいかがです?」

 本音を言えば、今の季節は暖かい場所で座ったまま神様においのりをささげてほしい。でも、さすがにそれじゃ罰にならないと思って、私なりにじようしたんだけど……。

「お初にお目にかかります、ヴィオレッタ様。せいの噂からは想像もつかないほどのおやさしいごはいりよ、痛み入ります。ですが、養護院と救貧院に属する者たちのしよぐうは、責任者である枢機卿の私に一任していただきたく存じます」

 枢機卿? こんなに若い人が?

 おどろく私を、あいいろの冷めたそうぼうが見下ろす。そうはくになって震えだしたバチストと対照的に、その目は「部外者はすっこんでろ」とによじつに語っている。……うん、言いたいことはわかるよ。だけど、私もずぶ濡れの少年を目にしてしまった以上、ほうってはおけない。

「差し出がましいとは重々承知ですが、やはり少年相手に過度の体罰はよくありません」

「貴重なご意見をありがとうございます。ですが、王族には王族の作法がありますように、教会には教会のりゆうがございます。この程度の処罰は、教会や市井においては普通のことです」

 え、そうなの? 前世の記憶を持つ私にとって、体罰はどんな時でも絶対にダメだ。それはこの世界でも同じだと思ってたけど……レナルドとリアムなら、わかってくれるよね?

 不安にられ、二人に意見を求めようとする。しかし、り返った私の口から疑問がつむがれることはなかった。……レナルド?

 限界まで大きく見開いた目で、レナルドがマティアスの顔をぎようしている。その唇から、かすれた問いかけがこぼれた。

「マティアス、君がなぜここに……?」

 答えはない。代わりに、マティアスの口元に一瞬さびしげなしようがよぎって消えた。それを見たレナルドが無言でそっと目をせる。

 なに、この意味深な反応! まさか二人は知り合いなの?

 となりを見ると、リアムにも事情がわからないらしく、不安そうに兄たちの顔を見比べている。

 二人の関係を知りたくても、軽々しくは聞けそうにない。冷たく無機質な回廊の中、静かに向き合うレナルドとマティアスの二人を、私とリアムは黙って見守ることしかできなかった。

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