第1話 魔法学園に入学したけどCクラスでした 5
今日もCクラスの四人は、ミリア教官のもと、魔法の実践訓練を行っていた。
「ファイアボール!」
「なんの!」
「剣で弾いた⁉」
「ふふふ、地魔法の応用で、刃を強化したのさ」
「やるな、だが……ファイアストーム!」
「ソイルウォール!」
魔法が発する轟音が訓練場に響き渡る。
……と、これはAクラスの訓練風景である。
Cクラスはというと、
「「「「…………」」」」
レント、サラ、ディーネ、ムーノの四人は、訓練場の端っこで、じっと立って目を閉じていた。
ミリアが言ってくる。
「魔法の基本は魔力の操作よ。自分の内側、周囲——扱える魔力の濃度や質を正確に感じ取って、思い通りに動かすこと。それが全ての魔法に通じるの」
レントはミリアの言葉を聞きながら、魔力を操作する。
子供のころから、先祖である伝説の魔法使いの書物で学んで、これくらいは簡単にできるのだが、言われたとおりに、魔力を自分の周囲で右回りに回していく。
ずっと独学だったので、自分ではできていると思っていることでも、魔法学園の教官から見たらまだまだだった、ということもあるかもしれないからだ。
「レントくんは問題ないわね。サラさんも完璧だわ」
ミリアは生徒の様子を順番に見ていく。
「ディーネさんは、流れが弱いわ。もう少し自分の身体を意識して、そこに沿わせるつもりで動かしてみて」
「は、はいっ」
「ムーノくんは流れに乱れがあるわね。もっと集中しないと」
「げ、飽きてるのバレたか……」
二人を指導するミリアを横目に見つつ、レントは隣のサラを盗み見る。
「…………なによ」
「いや……なんで俺のほう睨んでくるの?」
「睨んでないわ」
サラは否定するが、明らかに彼女はレントを睨んできていた。
正確にはレントがまとう魔力を睨んでいる。
「本当にすごい魔力を感じる……ゼロとかありえないわ……」
その上なにやらぶつぶつ呟いている。
それだけならまだよいのだが、サラはなぜかレントに張り合ってくるのだ。
レントが魔力の回転を速めるとサラも速め、レントが魔力の放出量を増やすとサラも増やす。
なんか手本にされているみたいで落ち着かない。
「あの、サラ。自分のペースでやったほうがいいんじゃないかな……?」
「それじゃダメよっ」
レントがそう言うと、サラは声を上げる。
「そんなの今までだってやってきたもの。あなたくらい強くなるには、あなたと同じことができるようにならなきゃ無理でしょ」
「俺くらい強く?」
「ええ。黒フードのやつらを追い払ったり、校長先生の石像を壊せるくらいにね」
「…………」
黒フードたちはともかく、石像はあまり壊さないほうがいいんじゃないだろうか。
「そういやあの黒フードたちは何者だったんだろう」
「さあ。一応学園と王都の警備兵には知らせておいたわ。なにか企んで潜伏しているならいずれ捕まるでしょう」
王都の警備兵は優秀らしい。
しかしレントは気になる。
彼らはちょっと変わった魔力を持っていた。
学園でこれまで見てきた生徒や教官の魔力のどれとも違っている。
(まさか魔族とか……いや、そんなわけないか)
魔族が人間の土地に、しかも王国の中心部にまで入り込んでいるはずがない。
レントは自分の妄想を追い払う。
「ちょっと! なによその動き!」
と、サラが声を上げる。
「あ、いけね」
無意識に実家でやっていた魔力の動かし方をしてしまった。魔力をいくつかの流れに分割してそれぞれを別々に動かす。先祖の伝説の魔法使いが推奨していた訓練方法だ。
「ぐぬぬっ……それくらい私だって」
「ちょっとサラ⁉」
サラもレントの真似をしようとする。
一瞬彼女の魔力が五つの流れに分割されるが——すぐに混ざり合い、破裂するように周囲に飛び散ってしまった。
その魔力が隣にいたディーネとムーノのほうに飛んでいく。
「ひゃっ⁉」
「うわっ!」
驚いたディーネとムーノは魔力の流れを崩してしまった。
ムーノが不満そうに言ってくる。
「おい、邪魔するなよな。せっかくうまくいってたのに」
「今ので魔力を乱すなんて集中していない証拠よ。あなた、戦場でも敵にそうやって文句を言うつもりなの?」
「なんだとっ」
煽るようなサラの言葉にムーノは怒りを示す。
が、すぐに肩をすくめるようにして笑う。
「あんたこそレントが気になって集中できてないじゃないか」
「それは……っ」
「立派な騎士様も色恋が絡むと冷静じゃいられないんだなぁ」
そんなムーノの言葉にサラは一気に顔を赤くする。
「そんなんじゃないわよ!」
「どーだかな」
言い合う二人をディーネはオロオロして見回すことしかできない。
サラはムーノからミリアに向き直って言う。
「教官。できない人間に合わせて授業の進行が遅れるのは時間のムダです。こんな基礎中の基礎、私は子供のころからずっとやっています。いまさらわざわざ学ぶようなことではありません」
「で、でもねサラさん。これはCクラスの授業内容として決められたことで……」
「私はCクラスなんかじゃない!」
耐えかねたようにサラは叫んだ。
「サラさん……」
そこで、授業終了の鐘が鳴った。
サラは逃げるように訓練場から走り去っていった。