一話 雨と幼馴染 2
右肩がびしょ濡れの状態で帰宅した俺は、冷蔵庫にスーパーで買ってきた食材を入れる。
「ほんとにできんのか?」
「大丈夫だって~、お兄さんはテレビでも見て待っててくれていいよ! 私が世界一のハンバーグでお兄さんの胃袋を掴んじゃうかんねっ!」
そもそも作り方を理解していなかったから、材料も買えていないんじゃないだろうか、そう思って
「挽き肉、玉ねぎ、ナツメグ、へぇ、ちゃんとしてんじゃねぇか」
そういえばスーパーで何度かスマホと睨めっこしていたな。卵とパン粉が俺の家にあることを
なんで隣人に家にあるものを把握されてるんだろう。この状況にもう少し疑問を持った方がいいな。
「あれ、お兄さん何やってんの?」
「米炊くんだよ」
「今日は私がするって言ったじゃん! お兄さんは休んでて! ほら、こっちこっち!」
「ほらほら、ご老体なんだからさっ」
「俺はまだ若い!」
まあでも作ってくれると言うんだから、甘えてみよう。でもやっぱり不安だ。
結局キッチンに助けに行っても追い返されるだけだったから、仕方なく待つことにした。途中何度かキッチンから「やばっ!」とか「あっ……」とか聞こえてきたけど、大丈夫なんだろうか。
「お待たせしました、こちらシェフの得意料理、ブラックハンバーグです」
声を低くして丁寧な所作で、まるで洒落たレストランのホールスタッフのように。でも、その手に持った皿には、明らかに洒落たレストランでは提供されることのない真っ黒なハンバーグ。これは、焦げてる。
「おい、真っ黒じゃねぇか」
「だから言ったでしょ、ブラックハンバーグだって。食べてみてよ、見た目はアレだけど、味は保証するよ。愛が最高の調味料なんだよ!」
そこまで言うなら一口いただくことにしよう。
俺は冷蔵庫から玉ねぎの和風ソースを取り出して、ハンバーグにかける。これめっちゃ美味いんだよな。
「じゃあ、食べるぞ」
「召し上がれ!」
ハンバーグを箸の先で一口サイズに切り、口に運ぶ。まず舌の上に乗った瞬間、ソースの味がして美味い、となる。そしてその次に、やはりお焦げの苦味があって、どうしても顔が歪んでしまう。不味い、とまでは言わないが少し焦げすぎている。
なのに、次も、その次も、どんどん口に運んでしまう。お米が欲しくなる。
「
その言葉を聞いて嬉しそうになったかと思えば、すぐに自慢げな表情になる。俺から顔を背けるようにキッチンに向かいながら、
「だから言ったでしょ、私に任せておけってさ!」
本当に
「これすっげぇ米が欲しくなるし、おかずとして最高だな。副菜と相性が良ければ尚良し、って感じだけど」
そこまで言って
もしかして、そう思って聞いてみることにした。もしも俺の予想が合ってたのなら、今日の晩ご飯はこのハンバーグのみということになるが……。
「
首を振る。横に。
「
首を振る。横に。
「なにやってんだよ……だから俺がやるって言ったのに……」
「ま、まあまあ気にしない気にしない! 偶にはそういうこともあるって~!」
「それは俺が言うセリフなんだよ」
「あはは~」
でもまあ、
「米はインスタントのやつがあるから、それで凌ごう。副菜は、すぐに作れるやつあるか冷蔵庫見てみるか」
「さっすがお兄さ~ん! 頼りになるね~!」
こいつ腹立つな。でも、感謝はしといてやるか。
「今日は作ってくれてサンキューな。次は失敗しないように一緒に作るぞ」
冷蔵庫の中を何か作れるものはないかと確認しながら言う。
「なんだ、なに笑ってんだ」
この笑い方、
「んーん、べっつに~。そうだね、次からは一緒にね」
そう言った