第一章 カトウ、異世界転移する 11
「なあフレイ。俺個人としてはその姿はカッコイイと思うんだけど、耐性のないユミナ達だとびびるだろ? だから取り敢えず、美少女の姿になってくれ。美女でもいいぞ」
少しの休憩を挟み、カトウはそんな無茶苦茶な要求をフレイに出していた。
【む! 確かにそうかもしれんな! 流石は主だ!】
しかし、どうやらいけるらしい。
というか、フレイはいつの間にか、カトウを主にしたようだった。
別に対等な関係でも良かったのだが、フレイはカトウに、これからは心を入れ替え、誰かの役に立つ事をしていきたいと話していた。
そしていつの日か、裏切ってしまったかつての部下……いや、仲間を捜し出し、精一杯謝りたいと。
何百年掛かろうと、絶対にやり遂げると。
そして、その切っ掛けとなったカトウに恩返しがしたいと、彼女は言っていた。
だからこそ、彼を対等な仲間ではなく、主にしたのかもしれない。
【よし、ならば変身するぞ!】
フレイがそう言って、再度あのどす黒いオーラを放つと、そのオーラはフレイを包み込んでいく。
するとそこには、あの禍々しい形の魔剣はどこへやら、可愛らしい幼女が立っていた。
黒髪パッツンヘアーの、可愛らしい幼女だ。
やはりカトウの勘は正しかったようだ。
「……………………………………………………」
しかし、カトウは最も大事な事に気付いていなかった。
そう。
魔剣姿からフレイは幼女になったのだから、当然、彼女は服なんか一枚も着ていない。
すっぽんぽんの裸ん坊である。
「「……………………………………………………」」
そしてなんと間の悪い事か、ユミナとリーファがいつの間にか起きていた。
二人は無言で、ベッドからこちらを冷めた目で見ていたのだ。
ユミナ達の角度から見れば、それはどう考えても、事案発生にしか見えないのだろう。
それは大きな勘違いではあるのだが、今はなにを言っても無駄な気がした。
「どうだ主! 今はまだ魔力が少ないからこんな姿だが、もっと魔力があれば、この姿から成長する事も可能だぞ!」
「……………………………………………………」
「「……………………………………………………」」
気まずい空気が続いたのは、言うまでもない。
◇
二人に通報される前に、カトウはフレイには一度、魔剣の姿へと戻って貰う事にした。
それにより何とか誤解を免れたカトウ。
フレイが仲間になった経緯、そして目的も伝え、カトウは最後に、出来れば二人にはフレイと仲良くして欲しいとお願いをした。
すると、意外……でもないが、ユミナとリーファはそのお願いをすんなりと受け入れた。
最初に見た姿形が、魔剣ではなく、幼女だったのが功を奏したのかもしれない。
流石のリーファといえど、幼女には勝てないようだ。
そして場所は宿から変わり、カトウとユミナは街の入り口近くに設置された、魔法掲示板の前にいた。
これには赤や青、黒や白といった、様々な色が魔法により再現され、いわゆる、電光掲示板として使われていた。
なんでもこれは、随分昔に錬金術師が作ったとされる魔道具らしい。
その掲示板なのだが、これには街のありとあらゆる情報が集まるらしく、カトウは情報収集を兼ねて、ユミナと共にこの場所へと足を運んでいた。
リーファとフレイはというと、彼女たちは現在、カトウの持ってきたスマホの、電子書籍で購入した漫画がいたく気に入ったらしく、宿で一緒にお留守番だ。
文字は読めるのかとリーファに聞くと「分からない」との事だったのだが、なんでもフレイには、触れた者の知識を一時的に吸収し、その知識を他人に分け与える能力があるらしい。
滅茶苦茶便利な力である。
つまりそれを使えば、日本語を知らないリーファであっても、簡単に漫画を読む事が出来るというわけだ。
フレイの話では、本来それは相手の触れられたくない過去や、弱点なんかを探る為に使う力らしいのだが、カトウが他の使い方を指摘してやると「こういう使い方もあるのだな……」と、何やら寂しそうに呟いていた。
まあそれはそれとして、彼女にはこれを機に、リーファともっと仲良くなってこいというミッションを与えておいた。
彼女もそれには乗り気らしく「が、頑張ってみるのだ!」と、カトウに強い意気込みを見せていた。
うまくいけばいいとは思うが、カトウが関与できるのはここまでだ。
結局の所、フレイの頑張り次第、という話なのである。
「――にしても、随分人が多いな」
昨日もそうだったのだが、王都は今日も今日とて、人でごった返していた。
辺りを見回せば、ベンチや屋台などが多数置かれ、街は活気に満ちている。
「うーん、そうですね……あ、もしかして、これが原因じゃないですか?」
すると、ユミナが電光掲示板の中央付近を指差した。
そこには、銀髪ぱっつん美少女の一枚絵がデカデカと表示されている。
勇者ランキング五位。
『迅雷のイリア、明日来訪』
掲示板にはそう書かれていた。
なんだかアイドルみたいだ。
「勇者ランキング? 勇者って普通、一人じゃないのか?」
「昔はそうだったみたいですね。でも今は、優秀な人材を集める事を意図して、国が運営しているんですよ。冒険者ギルドの国営版みたいなものですね。私が知ってる頃とは大分顔ぶれが変わっちゃってますけど、一位だった人が今は九位に、イリアさんは結構順位を上げて、十五位から五位になっていますね。十億ぐらいは稼いでいるんじゃないですか?」
「じゅ、十億!?」
ユミナの言葉に、カトウは心底驚いた。
十億。
一億でも十分なくらいなのに、その十倍と来たものだ。
それだけのお金があれば、きっと、人生バラ色に違いない。
そんな事を考えつつ、俄然興味が湧いてきたカトウ。
彼は掲示板に近づき、勇者ランキングのリストを見ていった。
リストにあるのは十位までの名前と、その写真だけのようで、この世界の厳しさが見て取れる。
とはいえ、このリストにない者であっても、稼いでいる額は相当なもののようで、百位でさえ、国からの助成金が年に三千万は貰えるそうだ。
他にも勇者として活躍すれば、どこかの組織の勇者になる事や、国直属の勇者になる事も可能らしい。
「ゆ、ユミナ! これって俺でもなれたりするのか!?」
「……え、ノブユキ様は勇者になりたいのですか?」
「めっちゃなりたい!」
大金が欲しい。
あわよくば美少女にちやほやされたい。
カトウは欲望に忠実であった。
「うーん。あまりノブユキ様が思っているようなものではないと思いますけど……まあ、なりたいのでしたら、私は一向に構いませんよ。スキルカードも購入したいですし、今からでも向かいますか?」
「行く行く!」
「ふふ、なら、一旦宿に帰ってリーファたちも誘いましょうか」
ユミナの言葉にカトウは頷き、二人は宿へと帰ったのだった。